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東京都 品川区

2016-09-02 19:50


E・ホーク監督作にピアニスト金子三勇士が感銘

E・ホーク監督作にピアニスト金子三勇士が感銘
ピアニストの金子三勇士氏(左)、評論家の小沼純一氏(右)

89歳のピアノ教師、シーモア・バーンスタインの生き様を描いたイーサン・ホーク監督作『シーモアさんと、大人のための人生入門』のスペシャルイベントが、10月1日(土)のロードショー公開に先駆け、9月1日、スタインウェイ・ジャパンのセレクションルームで行なわれ、ピアニストの金子三勇士氏と評論家の小沼純一氏が登壇。本作に深い感銘を受けたという二人の熱いトークセッションに加え、普段は一般公開されない同セレクションルームの貴重な見学会、さらには金子氏によるピアノ生演奏が行なわれ、この日招待された観客を魅了した。

本作は、アーティストとして、一人の人間として、行き詰まりを感じていたイーサンが、シーモアの人間性とピアノに触れ、たちまち“安心感”に包まれたことから、彼のドキュメンタリーを自らの手で撮ることを決意した意欲作。50歳でコンサート・ピアニストの活動に終止符を打ち、その後の人生を“教える”ことに捧げてきたシーモアの半生を、美しいピアノの調べと宝石のような言葉たちをちりばめながら綴っていく。

邦題に本作の主旨が込められているという小沼氏は、「単にピアニストの話を描いたものではなく、いろんな方が観て、いろんなことを考えられる映画。子供にではなく、様々な経験を積んできた“大人”に、シーモアさんは人生の方向性を示唆してくれる」と称賛。一方の金子氏も、「全く同じ印象を持ちましたね。愛と優しさを込めたメッセージを、音楽や言葉を通じていろんな方にお伝えしようという気持ちが直球で伝わってくる。僕も一人の駆出しの社会人として、涙が出るくらい心に響きました」と大いに共感していた。

また劇中、イーサンが、舞台恐怖症で悩んでいたと告白するが、現役のピアニストである金子氏は、この症状に対して「ずっと恐怖、ずっと安定、というのではなく、ある種の“波”ですね。物理的にも体調的にもコンディションが悪い時とコンサートがぶつかってしまうと、思い描いていた結果が得られない場合がありますが、そういう瞬間に自分を見失い“恐怖”を感じます」と吐露。「ただシーモアさんも、何度も舞台恐怖症を経験されていると思いますが、それが辞めた理由でないと思います。人生についていろいろ考えるきっかけになり、『舞台でがむしゃらに弾くことだけがピアニストじゃない』という考えに行き着いたのではないでしょうか」と分析してみせた。

金子三勇士氏
金子三勇士氏の生演奏も行われた。

この作品を通して、音楽の在り方、人生の在り方について、様々なことをシーモアから学び取ることができるが、小沼氏は、「ピアノは人間と似ている。製造方法は同じでも、同じものはできない」という彼の言葉に大いに共感したという。それを象徴しているのが、スタインウェイのセレクションルーム(ニューヨーク本社)でピアノを選ぶシーンだ。金子氏は、「数多くのピアノを前にして、チャラランと軽く弾くだけで『これは違う、これも違う』ということを繰り返し、最終的に『これだ!』と辿り着くわけですが、ピアノと弾く人間にも性格の相性があるんです。シーモアのこだわりと決断力が見られる面白いシーンですね」と笑顔を見せた。

なお、この日、『ルイ15世』と名付けられたスタインウェイの限定モデルで、リストの「ラ・カンパネラ」とショパンの「夜想曲第2番」を生演奏した金子氏。その美しいピアノの調べに魅了された観客から、「演奏してみてこの子(ピアノ)はどういう子でしたか?」と問われ、「芯のしっかりとした30代の女性」と表現し、会場の笑いを誘った。

(取材・文・写真:坂田正樹)



映画『シーモアさんと、大人のための人生入門』より ©2015 Risk Love LLC
映画『シーモアさんと、大人のための人生入門』より ©2015 Risk Love LLC

映画『シーモアさんと、大人のための人生入門』
2016年10月1日(土)、シネスイッチ銀座、渋谷アップリンクほか、全国順次ロードショー

人生の折り返し地点――アーティストとして、一人の人間として行き詰まりを感じていたイーサン・ホークは、ある夕食会で87歳(映画製作時)のピアノ教師、シーモア・バーンスタインと出会う。たちまち安心感に包まれ、シーモアと彼のピアノに魅了されたイーサンは、彼のドキュメンタリー映画を撮ろうと決める。シーモアは、50歳でコンサート・ピアニストとしての活動に終止符を打ち、以後の人生を「教える」ことに捧げてきた。ピアニストとしての成功、朝鮮戦争従軍中のつらい記憶、そして、演奏会にまつわる不安や恐怖の思い出。決して平坦ではなかった人生を、シーモアは美しいピアノの調べとともに語る。彼のあたたかく繊細な言葉は、すべてを包み込むように、私たちの心を豊かな場所へと導いてくれる。

監督:イーサン・ホーク
製作:ライアン・ホーク、グレッグ・ルーザー、ヘザー・ジョーン・スミス
撮影:ラムジー・フェンドール
音声:ティモシー・クリアリー、ギレルモ・ペナ=タピア
編集:アナ・グスタヴィ
出演:シーモア・バーンスタイン、マイケル・キンメルマン、アンドリュー・ハーヴェイ、ジョセフ・スミス、キンボール・ギャラハー、ほか
配給・宣伝:アップリンク
2014年/アメリカ/81分/英語/カラー/16:9/DCP
原題:Seymour: An Introduction

公式サイト:http://www.uplink.co.jp/seymour/


▼映画『シーモアさんと、大人のための人生入門』予告編

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