映画『デヴィッド・リンチ：アートライフ』トークイベントに登壇した坂口恭平氏（左）ととんだ林蘭氏（右）
デヴィッド・リンチの創作に迫るドキュメンタリー『デヴィッド・リンチ：アートライフ』の公開初日イベントが27日、新宿シネマカリテにて行なわれ、 リンチと同様に、作家、建築家、画家、音楽家と様々な肩書を持つ坂口恭平氏とアーティストのとんだ林蘭氏が登壇。リンチについて、自身の創作活動について熱く語った。
本作は、映像作品のみならず、絵画、写真、音楽など様々な方法で表現活動を続けているデヴィッド・リンチが、美術学生時代の「退屈」と「憂鬱」、悪夢のような街フィラデルフィアでの暮らし、長編デビュー作『イレイザーヘッド』に至るまでを自ら語ったドキュメンタリー映画。
こういう作品を観ると、とたんに何か作りたくなる
リンチのファンという坂口氏。「僕は映画を最後まで観ることができない。リンチ作品も全部観てはいるんですが、 だいたい寝ちゃって実は通しでみたことない。でもこの映画は寝ないで観れた。僕はこういうドキュメンタリーが大好きなんです。『 ハート・オブ・ダークネス コッポラの黙示録』も最高だし、最近鬱になると『ホドロフスキーのDUNE』をよく観る。「こんな面白い大人がこの世にいるんだ」と思うとホッとして、僕もやっていこう！と思うんです。今回、その三番手にこの映画が控えてくれたなって。こういうのを観ると、とたんに何か作りたくなる」と熱く語った。
映画『デヴィッド・リンチ：アートライフ』より
リンチはずっと描いてないとだめな人
既に２回作品を観たとんだ林氏。「ドキュメンタリーってリアルだからとてもおもしろいですよね。この映画は、ずっと本人の視点でしゃべっていたから、映画観ている時は納得できるんですが、観終わった後ますますリンチについてわからなくなってきました。頭の中がハテナ（？）がいっぱいに。でも意外にきっちりしている人なんだなって、あと 勝手なイメージですが、ずっと描いてないとだめな人なんだなあと思いました」と話す。それを受け坂口氏は「僕も常になにかしてないとダメな人間なんです。毎日なにか作っていないと落ち着かない。それで最近は編み物をしてますね。編み物ってすごい運動なんですよ、頭も使うし」とコメント。
映画『デヴィッド・リンチ：アートライフ』より
コーラ男との出会い
劇中で語られる、リンチが少年時代に裸の血まみれの女性と遭遇したエピソードに触れると坂口氏は、「僕も4、5歳の頃、よだれを垂らした馬面の背の高い男が、コーラの空き瓶を片手に、大声で寄生をあげて走り去ったのを見たんですよ。それは福岡に住んでいたときなんですが、その後熊本に引っ越し何年かした頃、商店街の“コーラ一気飲み大会 ” で、選手でもないのに「俺をだせ！だせ！」と手をあげていた男が、その馬面の男だったんですよ！！このエピソードってまさにリンチじゃないですか。劇中でリンチの机の横にはコーラの空き瓶が置いてあって、忘れていた過去を思い出した」と 述懐する。
リンチの作品は、言葉に置き換えられないものを伝えようとしてる
坂口氏は「この映画では、リンチが幼少期のことを語っていますが、 僕も先日4歳の時の記憶が、20分間の映像として浮かんだんです。ただ、誰にもこのマテリアルとか質感がうまく説明できない。リンチって“記憶していない記憶”を記憶と言っていると思うんですよ。言葉でうまく説明できないことを。そういうことをリンチの作品を観ると感じる」と説明した。
坂口氏のデヴィッド・リンチ的エピソードや解釈が行き交い会場は終始笑いに包まれイベントは幕を閉じた。映画『デヴィッド・リンチ：アートライフ』は 新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷ほか公開中。
映画『デヴィッド・リンチ：アートライフ』
新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷ほか全国順次公開中
アメリカの小さな田舎町で家族と過ごした幼少期、アーティストとしての人生に憧れながらも溢れ出る創造性を持て余した学生時代の退屈と憂鬱。後の『マルホランド・ドライブ』（2001年）美術監督である親友ジャック・フィスクとの友情。生活の為に働きながら、助成金の知らせを待った日々。そして、当時の妻ペギーの出産を経てつくられた長編デビュー作『イレイザーヘッド』（1976年）に至るまでを奇才デヴィッド・リンチ自らが語りつくす。
監督：ジョン・グエン、リック・バーンズ、オリヴィア・ネールガード＝ホルム（『ヴィクトリア』脚本）
出演：デヴィッド・リンチ
配給・宣伝：アップリンク
2016年/アメリカ・デンマーク/88分/英語/DCP/1.85:1
原題：David Lynch: The Art Life
©Duck Diver Films & Kong Gulerod Film 2016
