2012-12-20

『アルマジロ』クロスレビュー:戦場が中毒となってしまうのはフィクションだけの話ではなかった……! このエントリーを含むはてなブックマーク 

『アルマジロ』を観ていてドキュメンタリータッチのフィクションの戦争映画を観てるのかと私は一瞬錯覚した。
皆でふざけあい、PCでポルノを観たり、戦場にいるのに戦争ゲームをしている若い兵士たち……。どこかで銃声がしてもさほど気にせず、彼らは精神を保つために場違いなところでもゲラゲラ笑っている。明らかに、はたから見たら異常な状況だ。
映画では観たことがあるが、これが現実とは思えない(カットが割られて、兵士たちがカメラを意識していない点も大きい)。

でも、銃撃戦が始まるとこれはリアルなのだとハッとした。臨場感を出す演出が上手く、手持ちカメラや主観映像を効果的に使って、自分もその場にいるような感覚にさせられる。
兵士のヘルメットにつけられたカメラが映しだしたのは作りものでない、人の死体そのものだ。
怪我をした兵士は完全に普段の顔とは違う、焦点が定まっていないような顔をしている。
作りものでない戦争の現実が映されていた。

彼らは大義名分のもと人を殺す。
極限のスリルを味わってしまった者たちは退屈すぎる日常では生きられない。それは野性的な動物としての本来の人間が持つ根源的な欲求なのかもしれない。
いつも遊んでいるゲームのようなスリルと興奮が非日常の空間である戦場にはある。
だからあの一瞬は危険を感じていても、終わってしばらく経つとあそこに戻りたくなる者がいる。大義を胸に抱いて再び戦場へと戻っていく。もしくは、PTSDのような状態になってしまう者もいるだろう。

戦場が中毒となってしまうのはフィクションだけの話ではなかった……!

危険とは分かっていても、生きていると実感できるのかもしれない。
つまらない日常に自分の居場所はない。異常に慣れてしまった彼らにとっては。

また、この映画で争っている者同士にはコミュニケーションの不全が見て取れた。
「わからない」もの=「敵」と見なしていいのだろうか。
そう考えるのは短絡的で簡単だ。

日本でもそういった風潮がないとは言えない。中国や韓国に対する排斥運動が強まっている。衆院選でも自衛隊を国防軍にすると考える自民党が圧勝した。遠くない未来に徴兵制が敷かれ、「わかりあえない」と思った相手には争うことも辞さないような時代がやってきてしまうのだろうか。多くの人に本作を観てもう一度考えてもらいたい。
少なくとも私は、戦場そのものも、そしてそれを経て危険中毒になってしまう精神状態も恐ろしいものだと感じた。

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tsunetaku

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