2008-05-26

音楽サロン(1958年) このエントリーを含むはてなブックマーク 

ブログ「だめ日記」から
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銀座メゾンエルメスのプライベート・シネマ、ル・ステュディオで、「音楽サロン」(1958年/サタジット・レイ監督)という映画を観た。美しくて壮麗で威厳を湛えた、哀しい映画だった。

インドの広大な荒地に屋敷を構える初老の男は、代々地主として莫大な財産を管理してきたが、今は没落の一途に甘んじる身。高利貸しで財を成した隣家の成金を軽んじるが、彼の威勢に忸怩たる思いを隠しきれず、水タバコをぷかぷかふかす。

ある日、妻と息子が母方の実家へ発った隙に、男は成金への対抗心から盛大なサロンを催す。歌い手は超絶技巧を披露し、宴は大いに盛り上がるが、屋敷の外は雷の落ちる悪天候。その夜、妻と息子は屋敷への帰途、命を落とす――。

わずかな財産も底を尽きかけた頃、成金が屋敷を訪れ、サロンにおいでなさいと申し出る。成金が帰ると、男はクモの巣の張った自邸のサロンをひとり訪れ――音楽サロンをもう一度だけ開こうと、決意する。

カメラは、男の盛大な音楽サロンを3回映し出す。男の心持ちは3度とも違うし、招かれた成金の振る舞いもこなれていく。

最後の音楽サロンで男は、以前に成金が褒めていた当代随一の踊り手を招くが、彼女の舞いを見つめる成金の表情が、さっと硬くなる瞬間がある。ここで私たちは、「ああ、成金のサロンにおけるよりも優れた舞いが披露されたんだな」と分かる。なぜなら、すっかり偉くなった成金が男の屋敷に大仰な車で乗りつけたとき、
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あなたの使いが象で挨拶しに来ると皆が頭を下げるが、私の車には子どもが石を投げる。しかも、私は自分で運転しなければならないんだ!
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と忌々しげに言っていたのを覚えているからだ。

この映画の哀しさは、屋敷の男の哀しさでもあるし、成金の哀しさでもある。モノクロームに映える白の装束や黒の翳、しびれる音楽の数々、物語を見つめる観客がごとき執事、土煙をあげて疾走する白馬、すべての小道具がラストシーンに向けて生きる、最高に幸福な映画だった。

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mari

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mari

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