骰子の眼

cinema

東京都 港区

2010-03-10 19:36


[CINEMA]「浮気で得られる夫婦の成長もある」―夫婦の静かな恋を描いた『スイートリトルライズ』クロスレビュー

『ストロベリーショートケイクス』でタッグを組んだ、矢崎仁司監督×脚本家・狗飼恭子が、江國香織原作の同名小説を映画化。美しくも切ない恋愛映画が完成した。
[CINEMA]「浮気で得られる夫婦の成長もある」―夫婦の静かな恋を描いた『スイートリトルライズ』クロスレビュー
(c)2009 /「スイートリトルライズ」製作委員会

「恋をしているの。本当は夫だけを愛していたいのに」。そうつぶやく人気テディベア作家の瑠璃子を軸に、瑠璃子の夫、瑠璃子が逢瀬を重ねる青年、瑠璃子の夫を慕う後輩の4人の恋愛模様が描かれる。あるときは原作のはかない雰囲気をそのままに、またあるときはオリジナルな設定で、江國ファンをも楽しませ、原作者・江國香織も絶賛する。「夫婦の絆とは?」「結婚相手以外の人に恋をしてしまったら?」そんな素朴な質問を無意識にも心の底に抱えながらも夫そして妻以外の人に恋をしてしまう夫婦を、中谷美紀と大森南朋が、それぞれが持つ独特の空気感をまとい演じている。

簡単に言葉にしてしまうと“不倫”という一言で終わってしまう関係でありつつも、それぞれが抱える問題、感情、欲求が交差し、一組の夫婦を取り巻く人々の複雑な恋心が描かれる。夫を愛しつつも年下の青年に愛していると告げる瑠璃子、居心地が良いとはいえない家庭から逃れるために後輩からの一途な愛を受け入れる聡、けなげに聡を想い続けるしほ、恋人と別れ瑠璃子への想いが募る春夫。

物語の核となる伊豆への旅行の場面では、今回映画初出演であるバレエダンサー・小林十市ならではのシーンや、監督が全編を通して意識したという“死”へのイメージが投影されたシーンが登場する。また、『スイートリトルライズ』というタイトルが意味する“大切なもの”を守るための小さな嘘の数々が作品の中に散りばめられている。

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(c)2009 /「スイートリトルライズ」製作委員会

一見フワフワと心地よく、透明な美しい世界に暮らしているかのような江國香織の世界観。それとは裏腹に、登場人物が抱える孤独や狂気、死の匂い。それらは意外にも、江國ワールドと矢崎ワールドを結びつける共通点となった。

江國香織の原作に出会ったプロデューサーの宮崎大が直感で矢崎仁司監督に依頼したところから、この作品のプロジェクトはスタートした。宮崎氏は、この映画の製作の中で「夫婦が、あるいは人が誰かと一緒に生きるということはどういうことか?」という問いに対する答えを見つけたという。この映画を観て「夫婦とはなにか?」ということについても思いをめぐらすことになるだろう。


【関連記事】

■骰子の眼:webDICE恋愛相談!江國香織原作『スイートリトルライズ』の矢崎仁司と狗飼恭子がオトナの恋の悩みに答える

http://www.webdice.jp/dice/detail/2327/


映画『スイートリトルライズ』

2010年3月シネマライズほか公開
原作:江國香織(幻冬舎文庫)
監督:矢崎仁司
脚本:狗飼恭子
製作:GLORY GROUP+ブロードメディア・スタジオ+日音+ポニーキャニオン +ハリウッドチャンネル
製作プロダクション:グローリープロダクション
出演:中谷美紀、大森南朋、池脇千鶴、小林十市、大島優子、安藤サクラ、黒川芽以、風見章子
助成:文化芸術振興費補助金
宣伝:ブロードメディア・スタジオ
宣伝協力:Lem
配給:ブロードメディア・スタジオ
2009年/日本/カラー/117分/ヴィスタサイズ/DTS

公式サイト


レビュー(5)


  • harinezumiさんのレビュー   2010-02-05 00:17

    文学的な香りがします

    W不倫という普通だったらスキャンダラスになってしまいそうな内容なのに、文学的な印象でした。原作の江國香織さんの作品は読んだことがありませんが、きっと原作の空気感をしっかり映し出した作品なんだと思います。 私も子供のいない夫婦2人ぐらしなので、主人公...  続きを読む

  • yokoさんのレビュー   2010-02-06 13:43

    未婚アラフォー女子の結婚への夢を、見事に打ち砕く映画です!?

    映画の中盤くらいまで、指にぎゅっと力がはいっていたことに気がつきました。 中谷美紀と大森南朋演じる夫婦を見ていて、「夫婦って3年もたつとこんなに距離感ができるものなの?」とびっくりしてしまって、知らず知らずのうちに手を握りしめていたんです。 ...  続きを読む

  • annapriqueさんのレビュー   2010-02-07 21:44

    男女の往きて還りし物語

    これは男女の往きて還りし物語だ。静謐で規則正しい日々から夫と妻がそれぞれ出てゆき、そしてゆっくりと戻ってくるお話。彼らの暮らしは穏やかだけれど、時計の刻む音やマッチを擦る音がその静けさを増幅させていて、言葉にならない言葉が部屋中に隙間なく充満して息苦...  続きを読む

  • feedbackerさんのレビュー   2010-02-12 00:18

    夫婦って、何かなぁ?

    原作に興味があったんですが、読む前に、こちらの作品を見ました。 明るい風景なのに、とても冷たい感じのする映像。 「らしい」感じは、出ていると思います。 自分は、まだ未婚ですが、数年で、こんな状態になってしまうものか?? だが、あり...  続きを読む

  • ぴつ太さんのレビュー   2010-02-17 10:24

    たぶん、子供にはわからない大人の映画

    鷲頭と松子がコラボレートする夫婦は低体温で非接触。 ひんやりと冷たい。 モノローグのような会話と気乗りしない受け答え。 映画向けのデフォルメは多少あるのだがティピカルな現代日本の夫婦像を描くことに成功している。 出生率が上がらないわけだ。 ...  続きを読む

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