骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2010-05-26 11:00


[CINEMA]「ミスを犯したときの焦り、メディアからの批判、彼らは選手以上に大きなプレッシャーと闘っている」『レフェリー 知られざるサッカーの舞台裏』クロスレビュー

ワールドカップ 2010南アフリカ大会開催に湧く現在、レフェリーにフォーカスを当てる、というコンセプト自体で今作の成功は約束されたといっていいだろう。神聖な試合を司るレフェリーが戦いのなか、どんな意識でゲームを進行しているのか、サッカー・ファンにとって未知なる世界を白日のもとにさらしている。ハードな試合に対応できるように選手と同様の体力トレーニングを欠かさず、ロッカールームでは試合前の高まる緊張を落ち着かせよう主審・線審が円陣を組んで精神統一をはかる。自国では国民的英雄と言ってもいいくらいリスペクトされる存在でありながら、同時に敗戦国のサポーターからは想像を絶する誹謗中傷にさらされる。対戦する国のどちらでもない中立国から選ばれるという規定により、トーナメント戦であれば対戦国の組み合わせにより、自身のスキルや経験に関わらず必然的に帰国を余技なくされる。

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『レフェリー 知られざるサッカーの舞台裏』はEURO2008を舞台に、イングランド出身のハワード・ウェブ、そしてイタリア出身のロベルト・ロセッティという世界を代表するふたりのレフェリーの明暗を描いている。ハワード・ウェブが主審を担当し、そのジャッジが物議を醸したオーストリア対ポーランド戦の舞台裏をはじめ、主審と副審の間の通信システムではどんな会話が交わされているのか、そして常に歴史的試合に立会いながら、彼らはどんな思いを持っているのか。この映画は余計なナレーションさえ入らない演出により、誇りをもって仕事をまっとうしようとする男たちの姿を赤裸々に画面に収めている。そして、優れたレフェリーであり続けるには、豊富な経験値だけでなく、肉体面そして精神面でのタフネスが限りなく要求されるのだということを、観客は否応なく教えられることになる。



『レフェリー 知られざるサッカーの舞台裏』
渋谷アップリンク・ファクトリー他、全国順次ロードショー公開中


【上映時間】
13:00/15:00、6月6日(日)13:00/15:00/17:00、6月8日までの毎週(月)(火)13:00/15:00/17:00/19:00

監督:イヴ・イノン、エリック・カルド、デルフィーヌ・ルエリシー
原案:イバン・コルニュ
録音:イヴ・グッソン・バラ、ユッグ・ボロ、ジャン・リュック・ヴェルディエ
編集:フランソワーズ・トゥルメン
撮影:ディディエ・ヒル・ディライブ、アントニオ・カプルソ、ヴァンサン・ユフティ
オリジナル楽曲:アーリン・ヴェルバーグ
エグゼクティブ・プロデューサー:ミシェル・ヴァリエ
出演:ハワード・ウェブ、ロベルト・ロセッティ、ミシェル・プラティニ、ほか
2009年/ベルギー/77分/カラー/16:9/英語ほか
2009ロカルノ国際映画祭公式出品作品
原題:LES ARBITRES
配給・宣伝:アップリンク
提供:J SPORTS

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レビュー(5)


コメント(1)


  • アロハ坊主   2010-07-19 22:41

    冒頭から、センセーショナルな映像で面白い!試合中、主審がインカムをつけて副審や第4審判とリアルタイムに情報を交換。これすら驚きの光景なのに、彼らが交わす内容が、これまた生々しく刺激的だ。「いまの判定は、オフサイドじゃなかったかも」と自らのミスを謝罪する副審や「見えなかった。どっちのボールのだろう?」と副審に相談する主審など、およそ僕たちが試合中目にする威厳をもったレフェリーとは程遠い人間味あふれる彼らが垣間みられる。

    審判の知られざる一面よりも「審判にもミスは起きる。だって人間だもの」というあいだみつを的な普遍的テーマが印象に残る。サッカーファンなら観るべし