骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2012-02-16 18:10


一瞬ポカーン、その後ジワジワ。謎のパワーを持つ映画

石井聰互改め岳龍監督が前田司郎の戯曲に若手俳優と挑んだ『生きてるものはいないのか』クロスレビュー
一瞬ポカーン、その後ジワジワ。謎のパワーを持つ映画
映画『生きてるものはいないのか』より (C)DRAGON MOUNTAIN LLC.

2月18日(土)より公開となる『生きてるものはいないのか』の公開を記念して1月25日、脚本を担当した前田司郎氏率いる五反田団の公演『びんぼう君』のアフタートークに石井岳龍監督が登壇した。

前田司郎(以下、前田):芝居も多少環境が変わってきていて、アニメのように、演劇をやっているっていうのを人に言うのがそんなに恥ずかしくなくなってきた。今は高校生もみんな普通に、アニメも漫画もゲームも好きですもんね。
石井岳龍(以下、石井):映画が発明されたときって、学歴とか関係なくいろんな人がいたんですよ。だけど、映画が黄金時代を迎えて、映画監督になる人は、東大の超エリートの選ばれた人が助監督から修行して20年でやっと監督になるというのが当たり前になってしまった。それはとても自分には無理で、高校のとき「監督になりたい」と言ったら先生に「監督というのは、頭が良くて哲学がないとだめだから諦めろ」と言われて、ナニクソ!と思って作品を作ったんです。
前田:でも石井監督がその自主制作で作っていく道を切り開いたことによって、今があるんだと思います。
石井:絵とか小説とか漫画とかいろいろやってきたけど、まったく才能がなくて。だから人に見せなかったし。バンドもやったけどうまくいかなくて。だから8ミリカメラで何かを撮れば自分にも何か表現できるんじゃないかと思ったときに、天にも昇る気持ちでした。もう俺にはこれしか残されていないと。最後の望みの綱というか。だから必死でしたね。演劇もそうだと思いますが、結局はどういう道であれ、やらなきゃならないことは同じなんですよ。
前田:演劇の方がそのハードルは少し低いと思います。元手がかからないですよ、体ひとつあればいい。
石井:でもこれだけの人に楽しんでもらうというのは、ただの遊びの延長じゃできないですよね。
前田:映画と一番違うのは、俳優の再現性ですね。何があっても同じ芝居をしないといけない。その再現性をどう確保するのかが、いわゆるプロと言われている人たちとそうじゃない人との違いだとも思います。
石井:それがスリリングだよね。映画は撮ってしまえば終わりというのがあるので、逆に撮るときの瞬発力や現場の役者の身体性、そこに生きてることの瞬間性みたいなことを、できるだけ取り入れたい。たとえそのことで自分の意図を超えたとしても。それは常に考えています。あとは、オーディションで決めた時点である程度覚悟を決めることですね。だからちょっと演劇とは違うところに演出の意味があるかもしれない。

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映画『生きてるものはいないのか』より (C)DRAGON MOUNTAIN LLC.

80年代の『狂い咲きサンダーロード』『爆裂都市BURST CITY』から原点とも言える自主制作的スタイルを忘れずに活動を続けてきた石井聰亙改め石井岳龍監督。その彼が前田司郎による岸田國士戯曲賞受賞の破天荒なストーリーをどのように映像化するのか。脱力感をたたえた会話のやりとりはそのままに、石井監督は全てオーディションで選んだという若手俳優陣を率いて、登場人物たちが不条理に次々と“最後の瞬間”を迎えていく過程を描いていく。

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映画『生きてるものはいないのか』より (C)DRAGON MOUNTAIN LLC.

それこそ舞台となる大学のサークル活動の気の置けない関係のような人々が繰り広げる丁々発止の会話劇をある種の閉塞感を持って組み立てていく。舞台版に出演している師岡広明の軽妙さや、染谷将太の朴訥とした存在感、渋川清彦、芹澤興人、村上淳といった曲者たちなど、それぞれの俳優の醸しだす空気を引き出す手腕は、暴力的なまでの映像の鮮烈さにこだわり続けてきた石井のこれまでの印象を心地良く裏切るものだ。オープニングから鳴らされる田渕ひさ子(bloodthirsty butchers、toddle)の凛としたギターもまた、作品のオルタネイティブなムードを盛り上げることに一役買っている。




映画『生きてるものはいないのか』
2月18日(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開

病院に併設された大学キャンパスでは、学生たちが学生たちがいつもの午後を過ごしていた。病室を抜け出す娘、妹を探す怪しい男、都市伝説を語る学生たち、三角関係の学生と喫茶店員、大事故を目撃した男たち、踊りを練習する学生たち、医療事務員に片思いの耳鼻科医、アイドル大学生、子供を捜す母親、そんなありふれた日常に、突然、最後の瞬間が近づいてくる。それはこの世の終末なのか……。

監督:石井岳龍
原作・脚本:前田司郎
出演:染谷将太、渋川清彦、村上淳 他
協力:神戸芸術工科大学
製作:ドラゴンマウンテン
配給:ファントム・フィルム
宣伝:ミラクルヴォイス
(C)DRAGON MOUNTAIN LLC.
2011年/日本/ビスタ/HD/113分/5.1chステレオ
公式サイト:http://ikiteru.jp/

▼『生きてるものはいないのか』予告編



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