骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2012-03-26 10:00


クラウドファンドで自主配給を成功させるには

『シーソー seesaw』完山京洪監督とヴェスヴィアス代表山本兵衛さんに聞く日本でのクラウドファンディングの可能性
クラウドファンドで自主配給を成功させるには
『シーソー seesaw』より

イランの巨匠アッバス・キアロスタミが、新作『THE END』を日本で撮影するため資金を募ったことで、一躍脚光を浴びたクラウドファンディング。インターネット上のサイトで広く一般から出資金を募るクラウドファンディングは、アメリカでは広く根づいているものの、日本の知名度はまだそれほど高くはなかったが、キアロスタミは既に日本のクラウドファンディング史上最高額とも言われる440万円を調達している。現在、同じサイト「モーション・ギャラリー」で、今年6月末からの劇場公開のための出資を呼びかけているのが、映画『シーソー seesaw』の完山京洪監督だ。
映画『シーソー seesaw』は、若い恋人の揺れ動く繊細な心象風景を、手持ちカメラでリアルに描いた恋愛映画。2010年SKIPシティ国際Dシネマ映画祭でSKIシティアワードを受賞、その後もハワイ国際映画祭の長編コンペティション部門にノミネートされるなど、国内外で高い評価を得たものの、日本国内の配給のハードルは高く、自ら立ち上げた制作会社ヴェスヴィアスで自主配給を決意した。その完山監督とヴェスヴィアス代表の山本兵衛さんに初めての自主配給と、資金調達法としてのクラウドファンディングについて、話を聞いた。

昔から劇場は文化のムーブメントが生まれる場所だった

──完全自主配給を目指して、今回初めてクラウドファンディングを使ったと聞きましたが、いかがでしたか?

完山:いやぁ、正直、難しかったですね。まず、寄付が出来る年配層の方ほど、インターネットの利用度が低いんです。このギャップが難しい。文化的なアンテナを張って、ソーシャルネットワークサービスに参加したいと思っている人ほど年齢層が若いですからね。まずモーションギャラリーでアカウントを登録します。クレジットカード決済でペイパルに登録する必要もあるので、そこで参加者がかなり限定されてしまいます。PCのメールアドレスで登録もできますが、日本では、まだまだ携帯メールが中心なんだなあと思いましたね。

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『シーソー seesaw』の完山監督

──とはいえ、スタートから3ヵ月たった3月10日時点で、当初の目標金額である50万円は達成されました。なかなか健闘されたと言えるのではないかと思いますが、アメリカに比べるとまだまだ、ということなのでしょうか。

山本:文化の違いが大きいと思います。1月にロッテルダム国際映画祭に行った時、アメリカでクラウドファンディングサイト〈キックスターター〉を立ち上げた人と会ったのですが、出資者が53万人、45億ドルが集まったようです。規模が違いますよね。でもヨーロッパや他の国の人に聞いたら、「それはアメリカでしか成立しないだろう」という声もありました。“面白そうだからお金出して参加しよう”という感覚が根付いているんでしょうね。

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ヴェスヴィアス代表の山本兵衛さん

完山:キックスターターでは企画を立ち上げた瞬間に、出資金が入ります。そして、自分のアカウントのプロフィールには、自分がどんなプロジェクトにいくら投資したのかがわかるようになっている。それが一種のステイタスだったり、その人のブランディングにつながる文化背景や基盤がちゃんとあるんですね。

──SNSで言うところの「コミュニティ」のようなものですか。

完山:そう、この人はどんな文化に興味を持っていて、どんなセンスがあって、どんな活動をしているというのが一目瞭然にわかる。それも全部実名で行うので、ネットで文化的コミュニケーションを作るベースがあるんですよ。日本では、キアロスアミのファンディングだって、出資金の目標額を達成した後になってから、かなりの金額が入ってきている。つまり、日本人は、多くの人が始めていないことには、リスクを感じるんでしょうね。 でも僕らも沢山の方々のおかげで達成することが出来た。「みんながやっているからやってみようか」という文化はあるということ。目標達成されているようだし、やってみようかという感じ。あとは税制優遇だとか海外のロケ地の優遇の面など、国の政策面も大きいのかもしれませんけどね。

──今年から日本も少しは状況が変わるようですね。

完山:震災の影響でだいぶ変わりましたよね。NPO法人に対する制度も変わって作りやすくなったし、寄付金に対する規制も緩やかになった。今回はじめて自主配給して、はじめてクラウドファンディングを使ってみましたが、最終的に製作から配給まで全部自分でやりたいわけじゃないんです。ただ、今は誰もやってくれる人がいないから、自分たちでやるしかない。そうやって新しい可能性を提示していく。それが僕らにとってみたら、すごく意味があることなんです。

──ファンドチケットの内容も斬新でしたよね。3万円チケットは劇場鑑賞券のほか、キャストが3時間悩み相談を聞いてくれるとか。これは映画のコンセプトにも絡んでいるのでしょうか。

完山:いえ、そこまでは考えていませんでした(笑)。ただ単純に作品のファンを作りたかった。実際に会えば、みんな絶対キャストらを好きになるはずなんです(笑)。それに、これってメジャーの映画じゃできない。インディーズだからこそのプレミア感ですね。それから、映画館がコミュニケーションする場になれればいいなと思っています。昔は、芸術家が集う場所あって、そこから文化のムーブメントが生まれた。ミニシアターって、もともとそんな場所だったんだと思うんです。そこに戻るのが、これからの映画館の在り方じゃないのかなと思います。今はもう、映画はオンディマンドで観れてしまう時代ですから。

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『シーソー seesaw』より

“出資金を募る側の責任”とは

──やはり劇場公開が最終目的ですか。

完山:それが最終目的ではないですね。そこは初期の段階で、スタッフとかなりもめたところです。はじめに僕が、「無料でいいから、作品を全部youtubeで完全公開しよう」なんて言って(苦笑)。

山本:という、監督の想いとは別に(笑)、作品を広めるためには、劇場公開は重要だと思っています。せっかく作品を作ったのだから、多くの人に観てほしいし、会社も立ち上げたので、観てもらってナンボというのがありますね。会社として実績を積むには、劇場公開は通らなければならない道です。だから、この作品で配給までやってみようというのは、とても意義があることだと思っています。今回アートディレクターの菱川勢一さんとコラボレーションしたり、アパレル会社とコラボレーションしたりということが出来たのも、やっぱり自主配給したからなんですよ。映画業界は色々な側面において基本的に保守的な業界だと感じます。

完山:映画を作り続けるためには、結局は製作費をどう集めるかがネック。でも、お金を集める方法って、実はもっともっとたくさんあると思っているんですよ、プロダクトプレースメントとか。現代アートはうまくやってるじゃないですか。映画にできないわけがない。劇場公開と同時に製作費をカバーできる方法もある。それは、前売り券をネット販売することだと思っています。

山本:3月10日に、当初の目標金額である50万円は達成したのですが、その後も期間延長させてもらって、サポートを呼びかけています。それと同時に、クラウドファンディングのページで前売り券を販売する形で、「モーション・ギャラリー」の運営側にも了承を得たところです。一般的に、劇場公開から宣伝まで含めると、最低限200万~250万円かかると言われていて、まだまだ資金が足りません。クラウドファンディングと並行して、個人スポンサーを集めたりしています。

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『シーソー seesaw』より

──ファンディングを始めた当初、必要資金額を下回る50万円という金額を設定したのはなぜですか?

山本:目標金額を集められなかったら、作品の価値を落としかねないことになるのを懸念したからです。初めての試みだったし、確実に自分達で収集できる金額でやってみようかという感じでした 。モーション・ギャラリーは違いますが、クラウドファンディングの中には、内容の審査があったり、目標金額を達成できなければ、出資金を得られないファンドもあると聞いています。でも、出資金を募る以上、募る側もそれくらい真剣に取り組まないといけないと思う。「クラウドファンディング」という制度の信頼性も落してしまうことにつながるからです。出資金を募ったものの、目標だったプロジェクト自体が立ち上がらなければ、参加者はいなくなってしまいます。ファンドを募るにしても責任を持たなくては。

日本が確実に負けているのは、外に出る意識が少なすぎること

──完山監督は、もともと俳優だったそうですが、本作を撮ったきっかけは?

完山:ずっと良い映画に関わりたくて、自主映画の俳優から始めましたが、俳優やっている時から、会社を作るとか、オリジナル作品を作れる環境や土壌を作りたいなと思ってて、脚本のワークショップを開催したりしながら、ずっと会社起こすメンバーを探してた。山本さんみたいに、グローバルに世界に通じるような仕事が出来る人と出会ったので、ようやく制作会社ヴェスヴィアスを設立して、スタートすることができました。僕も高校時代にブラジルに留学していて、映画を通じて、世界と繋がりたいと思っていましたから。

──では、今後、海外との合作も考えていますか?

山本:そこは探っていますね。海外の映画祭に行くと、日本はまだお金があるといい勘違いをしてくれている人が結構いるんです(笑)もちろん日本の文化そのものに興味を持ってくれている人も多い。でも、日本は合作協定を結んでいないというので、最終的には躊躇されるパターンが多いのが現状ですが、いつか実現できたらと思います。

完山:日本が韓国に確実に負けているのは、外に出るという意識が少なすぎること。でもこれからは、韓国みたいに外に出て、外からお金を取ってくるしかないと思っています。

──では、映画『シーソー seesaw』が海外の映画祭で評価されたのは、自信につながりましたか。

完山:そうですね。作品自体は、東京を舞台にした若者の気持ちの揺れや喪失感とか、すごく小さな物語ですが、外国の方にも通じるんだと思ったのが、嬉しかったですね。はじめは短編映画で、10ページくらいだった脚本を撮影の西田君が気に入ってくれて、そこから何度か書き直して長編になった。即興のリハーサルを繰り返して、それを脚本に取り入れてっていうことを繰り返して撮って完成しました。人の力が加わると作品として昇華されるということも嬉しかったです

──国内劇場公開に向けてのお気持ちは?

完山:『シーソー seesaw』が沢山の人を繋げてくれている。この輪を日本全国に拡げたい。

山本:幅広い観客の方に、ぜひ見ていただきたい作品です。よろしくお願い致します。

(インタビュー・文:鈴木沓子)



完山京洪 プロフィール

1978年生まれ。大阪府出身。主演作にトム・ピアソン監督作『Turkey boy』など。2006年からシナリオ勉強会<カンキャク会>を主宰。英語、ポルトガル語を話す。 製作と脚本を兼ねた初長編監督作品『seesaw』 (10)が、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭にてSKIPシティアワードを受賞。ハワイ国際映画祭、ウィーン国際映画祭など、世界の10の国際映画祭に招待された。また2010年度の東京フィルメックス主催の人材育成プロジェクト<ネクストマスターズ>のアジアの若手監督20名に選出され、侯孝賢監督ら の指導を受け、長編企画『プリンをかき混ぜるように (仮)』がプレゼンテーションされた。2011年に制作会社ヴェスヴィアスを設立。第一作目として監督・脚本を担当した『救命士』が完成。

山本兵衛 プロフィール

米マサチューセッツ州の高校を卒業後、ニューヨーク大学Tisch School of the Artsにて映画製作を学ぶ。監督、脚本、プロデュースした卒業作品『A Glance Apart』がニューヨークエキスポ短編映画祭にて最優秀フィクション賞を受賞。アメリカの配給会社 Kino Internationalにて4年間マネージャーを務めた後、映画『シャンハイ (Shanghai)』などに現場通訳として参加しながら、監督/プロデューサー/脚本家として活動。短編4作目『わたしが沈黙するとき』は、パリシネマ、サンパウロ国際短編映画祭などはじめ、15以上の世界の映画祭で上映 されている。2011年に制作会社ヴェスヴィアスを設立、完山氏とともに会社の代表を務めている。




映画『シーソー seesaw』
6月30日(土)から渋谷ヒューマントラストシネマで、レイトショー上映予定

本作のクラウドファンディングは、モーション・ギャラリーのリンクを参照とのこと。
http://motion-gallery.net/projects/8

出演:村上真希、完山京洪、SoRA、岡慶悟
  監督・脚本・製作:完山京洪
撮影・編集・製作:西田瑞樹
アシスタントプロデューサー:中村貴一朗
音楽:hidekatsu、TRACK MAGIC
配給・宣伝:ヴェスヴィアス
  ©Cinepazoo & Helpless Lunch
http://seesaw-movie.jp/

▼映画『seesaw』予告編



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