骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2012-09-14 18:00


宮古を通じて自分達を知ることで、我々はどうあるべきかというところに近づける

映画『スケッチ・オブ・ミャーク』で久保田麻琴と大西功一監督が宮古島を撮った理由
宮古を通じて自分達を知ることで、我々はどうあるべきかというところに近づける
映画『スケッチ・オブ・ミャーク』より (c) Koichi Onishi 2011

9月15日(土)よりドキュメンタリー映画『スケッチ・オブ・ミャーク』が公開される。音楽家の久保田麻琴氏のナビゲートにより、沖縄県宮古諸島にある歌い継がれた歌と、その歌を生んだ人々の暮らしを追うなかで、私たちの暮らしのなかで失われようとしている根源的な自然への思いと生命力の力強さをあらためて確認させてくれる作品だ。今回は原案・監修・出演の久保田麻琴氏と製作・撮影も担当した大西功一監督に、宮古の人々との出会いから製作での苦労について聞いた。

宮古にはジャマイカに似た精神がある(久保田)

── 宮古の人たちによる「東京の夏音楽祭2009音楽祭」での貴重なライブ・パフォーマンスと宮古での取材、そして記録映像により構成されていますが、今作製作のきっかけは?

久保田麻琴(以下、久保田):1975年くらいに沖縄で喜納昌吉さんに出会って「ハイサイおじさんという曲を紹介するようになりましたが、その後なぜか縁がなかったんです。熊野の山を歩いていて、なにか強く感じることがあった。初めて日本の古層に触れたいという気分になりました。

日本人のDNAは古いらしく、日本語で書かれた歴史として残っているのは15世紀分くらいだけれど、そのもっと昔から日本的な心や考え方はあったはずだろうと。それに触れたくなったのが発端です。

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久保田麻琴氏

宮古の人は気も強いし、身体能力も高い。ダイナミックなDNAの混じりがあるらしい。そして宮古では、人頭税という長い抑圧の歴史があって、そのときに彼らは生き延びて、最終的には256年目に人頭税を廃止しようという動きに出る。新潟の中村十作という青年をリーダーにして、こんな理不尽なことはなくなって欲しいと陳情した。撤廃までには10年かかったのですが、新潟出身の中村さんと城間さんという沖縄からの農業技術者が現地の農民代表達と一緒になって人頭税廃止の計画を秘密裏に練った。ものすごい抑圧の中、重税制度を自分たちで廃止に追い込んだことは大きいと思う。まるでアメリカノ公民権運動のようにグローバルでユニバーサルなスピリットを宮古人は持っていることが分かります。マーカス・ガーベイというジャマイカ人が公民権運動をはじめたことが、アメリカの奴隷解放のきっかけになっていて、宮古にはそういう精神があるんです。

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映画『スケッチ・オブ・ミャーク』より (c) Koichi Onishi 2011

── 実際に宮古に行かれたのはいつぐらいですか。

久保田:宮古の神謡や神行事といったことは最初ほとんど知らなかったけれど、2007年に3回くらい行って、怒涛のように私のなかに宮古の音楽と歴史が流れ込みました。映画のなかにでてくる90歳のおばあさんたちが「これを残したい」という気持ちを感じたんです。30年前に祭祀をやっていたときは100名以上が一晩中お祈りをしていたけれど、いまはわずか数名が神事に従事している、というような話をどんどんしてくる。神唄の今や祭祀のシチュエーションもしっかり教えてくれる。リサーチが上手く運んだ理由は宮古の人は子どもから年寄りまで短い時間に伝えてくるのが上手だから。これは才能ですね、話も面白い。私はそこで、宮古の音楽の素晴らしさをどうしても映像で残すべきだろうと思った。2008年になって、大西くんに「映画向きの場所だから見たほうがいいよ」と話をしました。

そのときに、2009年の夏の音楽祭でミャークを呼びたいんだという話があった。そこで現地に説得にいったら、おばあちゃんたちは待ってましたとばかり、「ぜったい行くさ!」と。今までタブーだった神謡を発表することがいいのかと迷いましたけれど、本人たちがやりたいということで、7月の草月会館のライブの記録をする話から、大西くんもやはり「映画にしたい」と発展した。

大西功一(以下、大西):失われていくものを、みすみす僕が知っていながら撮らないという罪の意識というのがありながら、コンサートの話があって、ライブだけをただ見せるだけでなく、出演者の唄の背景である宮古島での生活や風習を映画という形でまとめようと。大変だというのは分かってたんですけど(笑)。でも東京にいらっしゃる、ということで、おばあちゃんたちの何かが変わりそうだと思ったので、すぐ飛んだんです。

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大西功一監督

久保田:宮古のここにいけばいろんなものが見られるという僕からのリストを持って大西君は3週間に渡る撮影をしました。

── 現地の人たちは、すぐに大西監督に心を開いてくれたのですか。

大西:それは宮古人の特質でもありますね。大阪人と似てるところがあるかもしれない(笑)。

久保田:そばやのレジやってるおばちゃんが会計をしている2分間で自分の家族の歴史を説明できるくらいの外向性が映画を作るはずみになりました。ある学者の見解によると、ミャークというのはひとつのコスモロジーで、天上界があり、霊界もあって、ミャークというのは人間が堂々と住む中心の場所、というのが潜在意識にあるようです。

でも宮古の島で神行事する女性たちはどんどん減っていますし、テーマがテーマだけにタブーもあるから歌えないということもある。ほんとうに一つ一つ玄関を叩いて「歌ってください」とお願いしました。

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映画『スケッチ・オブ・ミャーク』より (c) Koichi Onishi 2011

編集作業のなかで、
宮古をもういちど見つけていかなければならなかった(大西)

── 大西監督は宮古で撮影を行なって、当初の構想とのずれはありませんでしたか。

大西:大枠として、コンサートの出演者の背景、つまり島での在り方を撮ることを最初に考えていたので、それは最後までぶれませんでした。でも細かいディティールを追いかけるだけではなくて、編集作業のなかで、宮古をもういちど見つけていかなければならない。久保田さんをもとにスタートを切りましたけれど、僕自身が宮古を捉えていないと繋げられなかったので、時間がかかりました。全部で200時間ぐらい撮りましたし、編集に一年以上かけました。

── おばあさんたちが普通に「私が神司に選ばれる夢を見た」と、神様の存在を日常の延長として語っていることが印象的でした。

大西:当たり前の感覚としてね。

久保田:我々からすると超常現象的なことだけど、霊的な体質が強いのと、祭祀が身近にあるということで宗教観が強くなるんじゃないでしょうか。

webdice_ミャークサブ8・村山キヨ―祈り
映画『スケッチ・オブ・ミャーク』より (c) Koichi Onishi 2011

── 宮古の音楽に触れて、あらためて久保田さんが感じたことは?

久保田:自分が知りたかった古い日本に少し触れられた気がします。私は耳と心を使って、音をあるところから別のところに伝えるのが仕事なんです。そういう世界があるんだという考えをみんなで共有する。漢字と仏教が輸入されて1500年。インプラントされた宗教とテクノロジーが、集中的な王権や体制とともに社会を作っていった。でも日本語のルーツのスタートははもっと古く、人々が漂着を繰り返しながらも、様々なDNAが抹殺されることなく残っている。神話だけではなく、ほんとうに人間がいて社会があったんだということを知りたい。知ることによって、我々は心底この土地と関わる心構えが与えられる。そうすれば、様々な政治・経済問題に負けないで、外からの圧力をもちゃんとコントロールして、我々はどうあったらいいかというところに少しは近づけると思います。自分達を知ることが、民の安寧に繋がっていくだろうというところに達したんです。

(インタビュー・文:駒井憲嗣)



久保田麻琴 プロフィール

伝説のロックバンド「裸のラリ-ズ」メンバ-として音楽家としてのキャリアをスタート。 73年・東芝よりソロアルバムを発表。「夕焼け楽団」とともに数々のアルバムを発表。アレンジャ-、プロデュ-サ-としても喜納昌吉の本土紹介に関わり、アルバム『ブラッドライン』では「花」のオリジナル・ヴァ-ジョンでライ・ク-ダ-とも共演。80年代はサンセッツとともに海外でも広く活動。90年より専業プロデュ-サ-として多くのトップ・アーティストのプロデュースをてがける。2009年、宮古でも途絶えようとしている古謡を収めた『SKETCHES OF MYAHK』をリリース。他に著書「世界の音を訪ねる」(岩波新書 2006年)等。
http://www.kubotamakoto.com

大西功一 プロフィール

1965年、大阪生まれ。大阪芸術大学在学中よりテレビ報道カメラマンのアシスタントにつく。1988年、学友らと製作したドキュメンタリー作品『河内遊侠伝』が卒業制作学科賞。同年上京、映像プロダクションへ。1991年、退社後、フォークシンガー高田渡を象徴的役柄に配し、映画『吉祥寺夢影(きちじょうじむえい)』を製作。1995年、北海道函館を舞台に、前作についで出演に高田渡を配し、モノクロ映画『とどかずの町で』を発表。他にテレビ番組、ミュージックビデオ、DVD作品等、多ジャンルの映像作品を手掛ける。『スケッチ・オブ・ミャーク』は16年ぶりの映画となる。




『スケッチ・オブ・ミャーク』
9月15日(土)より東京都写真美術館ホールにてロードショー 他全国順次公開

ミャーク(宮古島)には、今まさに失われようとしている「記憶」がある。人々によってずっと大切に歌い継がれてきた「唄」がそれだ。老人達は語る。かつて島での厳しい生活と信仰と唄が切っても切り離せないひとつの時代があったことを。そして、今でも神の存在がかけがえのないものであることを。老人達の心を映すかのように、この島の御嶽では神事の火が数百年に渡り人から人へと受け継がれてきた。神女達(ツカサンマ)は、生きる願いとともに「神歌」を神に捧げる。宮古島の唄の源流とされる古い唄だ。しかし、「神歌」の響きが、今この島から途絶えようとしてる。2009年、九十歳を超えた老婆達が東京へと渡る。コンサートホールの舞台に立ち、「神歌」を歌うために。満場の観客を前に彼女らは力を振り絞り、歌う…。ミャークの「神歌」が一般聴衆に届いた最初の瞬間だ……。

製作・監督・撮影・録音・編集:大西功一
原案・監修・整音:久保田麻琴
出演者:久保田麻琴、長崎トヨ、高良マツ、村山キヨ、盛島宏、友利サダ、本村キミ、ハーニーズ佐良浜、浜川春子、譜久島雄太、宮国ヒデ、狩俣ヒデ、嵩原清 ほか
デザイン:有山達也+岩渕恵子(アリヤマデザインストア)
宣伝協力:鎌田雄介、天久雅人、穐場慶吾、サラーム海上
協力:東京[無形文化]祭
後援:沖縄県、宮古島市、宮古島市教育委員会、エフエム沖縄、沖縄タイムス社、沖縄テレビ放送、宮古新報、宮古テレビ、宮古毎日新聞社、ラジオ沖縄、琉球朝日放送、琉球新報社、琉球放送(順不同)
特別協賛:特定非営利活動法人 美ぎ島宮古島、日本トランスオーシャン航空株式会社、有限会社 宮古ビル管理(順不同)
配給:太秦
2011年/日本/カラー/HD/ステレオ/104分
公式サイト:http://sketchesofmyahk.com


▼『スケッチ・オブ・ミャーク』予告編


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