骰子の眼

cinema

東京都 中央区

2013-02-06 18:40


原発事故には甘っちょろい夢など入り込む余地がほんの少しも与えられないのだ

ドキュメンタリーとは別のアプローチでチェルノブイリの鮮明なイメージを焼き付ける『故郷よ』クロスレビュー
原発事故には甘っちょろい夢など入り込む余地がほんの少しも与えられないのだ
映画『故郷よ』より (c) 2011 Les Films du Poissons

今作は1986年4月26日、チェルノブイリ原発事故が起きた当日を舞台にしている。隣の町プリピャチではどんな人々が生活を営み、事故に対してどんな行動をとったのか、そして10年後、故郷を忘れられない人々はどのような心境なのかがつぶさに捉えられている。フィクションのようなドキュメンタリー、ドキュメンタリーようなフィクションとは映画を語る上でしばしば用いられる言葉だが、実際にチェルノブイリ近郊の立入制限区域内で撮影され、ここにたくましく生きるひとりの女性、放浪の旅を続ける技師、そしてその息子を軸に、私たちがチェルノブイリという名前にイメージとして持つ、廃墟と化した住宅地や忘れられた観覧車とともにドラマが展開していくのには、忘れられてた風景を思い出すような不思議な感覚を覚えてしまう。

webdice_s-『故郷よ』sub3
映画『故郷よ』より (c) 2011 Les Films du Poissons

主演のオルガ・キュリレンコは、美しさとはかなさを兼ね備えた容姿で、運命に翻弄される女性を見事に演じきっている。原発そのものの映像こそ出てこないものの、いたずらに不穏な空気を駆り立てるのではなく、当日に降り注ぐ黒い雨や、ラジオから流れる避難勧告、“石棺”の労働者、ゴーストタウンと化したツアーガイドとして故郷で生き続けるアーニャの素朴な暮らしぶりなど、丹念な生活の描写が続く。あらためて、事故後もこのプリピャチで生活していた人がいたのだということに気付かされるとともに、最終的に浮き彫りになるのは、どんな環境であっても、喪失感を乗り越え生き続ける人々の生命力なのだ。

webdice_s-『故郷よ』sub4
映画『故郷よ』より (c) 2011 Les Films du Poissons




映画『故郷よ』
2013年2月9日(土)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー

監督・脚本:ミハル・ボガニム
共同脚本:アントワーヌ・ラコンブレ
共同脚本・編集:アン・ウェイル
出演:オルガ・キュリレンコ、アンジェイ・ヒラ、イリヤ・イオシフォフ、セルゲイ・ストレルニコフ、ヴャチェスラフ・スランコ、ニコラ・ヴァンズィッキ、ニ/キータ・エムシャノフ、タチアナ・ラッスカゾファ
撮影:ヨルゴス・アルヴァニティス
撮影:アントワーヌ・エベルレ
音楽:レシェック・モジジェル
録音:フランソワ・ウァレディッシュ
編集:エルヴェ・ド・ルーズ
編集:ティエリー・デロクル
製作:Les Films du Poisson
提供・配給:彩プロ
宣伝:ザジフィルムズ
2011年/仏・ウクライナ・ポーランド・独/フランス語・ロシア語・ウクライナ語/108分/ドルビーSR/ヴィスタ

公式サイト:http://kokyouyo.ayapro.ne.jp/
公式twitter:https://twitter.com/kokyouyo




■関連作品

DVD『プリピャチ~放射能警戒区域に住む人びと~』
2013年2月22日リリース

チェルノブイリ原発事故から12年。「死のゾーン」と呼ばれる放射能警戒区域で生きる人々をとらえたドキュメンタリー。『いのちの食べかた』のニコラウス・ゲイハルター監督作品。

発売:アップリンク
販売元:角川書店
3,990円(税込)
DABA-4342

★作品の購入はジャケット写真をクリックしてください。Amazonにリンクされています。



レビュー(5)


コメント(0)