骰子の眼

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東京都 渋谷区

2013-01-29 16:00


原発事故の真実を明らかにすれば日本は変革をリードしていくことができる

初の自叙伝『ジャスト・キッズ』を刊行、来日したパティ・スミスが語る震災と原爆
原発事故の真実を明らかにすれば日本は変革をリードしていくことができる
初の自叙伝『ジャスト・キッズ』を日本で刊行したパティ・スミス (c)yoshie tominaga

60年代から70年代にかけてのニューヨークを中心にしたカルチャー・シーンの重要人物であり、現在に至るまで数多くのクリエイターからリスペクトを寄せられているパティ・スミスが現在来日中。初の仙台・広島公演を含むライヴツアーを敢行中の彼女が、TBS「報道特集」キャスターの金平茂紀氏のインタビューに答えた。昨年日本語版が刊行された初の自叙伝『ジャスト・キッズ』について、そして東日本大震災被災地への思いや、原発、原爆、ウォール街デモについて、忌憚なく語った。

震災と原発事故は日本だけでなく、地球規模の問題です

──今回で来日は何回目ですか?

5回目かしら。FUJI ROCK FESTIVALに数回出演していますし、日本でツアーを行ったこともあります。映画『ドリーム・オブ・ライフ』のために訪れたこともあります。今回の来日は特別で、仙台、広島など初めての場所を訪れるので、とても楽しみにしています。

──今回の日本ツアーは、仙台からスタートするそうですが、仙台を選んだ理由は?

東日本大震災の被災者のためにライヴをしたいと思いましたし、人があまり足を向けない場所を訪れたいと思ったからです。被災した皆さんとお会いし、学校や、子供たちのために、集めたお金を寄付したいと思っています。自分が暮らす町が破壊された方々が今どんな暮らしをしているのかを理解するのは、とても大切なことだと思います。

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パティ・スミスと金平茂紀氏 (c)yoshie tominaga

──私は記者として、被災地を訪れ取材をしましたが、信じがたいほどひどい状態でした。今も、大変苦労されています。

ええ。だからこそ、自分の目で見てみたいんです。実際に被災地を訪れて思いを届けたいんです。私が訪れたところで、何かが変わるわけではありませんが、少なくても、街のみなさんを励ましたいと思っています。

──私たちは、あの震災を3.11と呼んでいます。アメリカの人々が、9月11日に起きた同時多発テロを9.11と呼んでいるのと同じです。ニューヨークの方々は、東日本大震災について、どのような思いを抱いているのでしょうか?

ニューヨークの人々も、震災のことを、とても気にかけています。そして、今なお放射能汚染や土壌汚染の被害で苦しんでいる人たちがいるのではと心配しています。こうした災害が起きた時は、国際社会全体で問題の解決に取り組むべきだと思います。これは、日本だけでなく、地球規模の問題です。一つの災害から教訓を学び、協力しながら克服するべきです。みんな、いかにひどい震災だったか、そして、今なお苦しんでいる人がいることも、震災の後遺症がいかに深刻なものかも、よく理解しています。

昨年10月にニューヨーク州、ニュージャージー州、ペンシルバニア州フィラデルフィアを襲ったハリケーンは、各地に深刻な被害をもたらしました。私が暮らす街、また沿岸の街の状況から、自然災害がいかに深刻な被害をもたらすかは、よく理解しています。

日本で起きた震災による被害がいかに深刻なものが、想像するだけで胸が痛みます。ですから、ぜひ日本に来たかったのです。日本を訪れ、みなさんからお話を聞き、みなさんのことを気にかけていることを伝えたかったのです。

アメリカが犯してきた罪は重い

──あなたのニューアルバム『バンガ』には、「フジサン」という歌が収録されています。富士山に、日本の復興を願う気持ちを込めたと伺っていますが、日本人にどのようなメッセージを伝えたいのでしょうか?特に、被災して今も苦しんでいる人たちには、何を伝えたいですか?

原発の危険性について、日本人だけでなく、世界中の人々に伝えたい。原発がどこに建設されているのか、災害が起きた時、除染作業がいかに困難で、人々にどんな影響を与えるかを、しっかり理解してもらいたい。それに、自然を敬い、大切にする気持ちを忘れないで欲しいと思います。私たち人間の暮らしが、川や、海、大気を汚染し、動物や植物など、様々な生物の命を奪っていることを自覚して欲しい。私たちに与えられた美しい地球を破壊しているのです。だから日本での震災は、ひとつの教訓です。自然災害は、人々の命を奪い、家を奪うだけでなく、土壌を汚染し、そこで育てた穀物をだめにしてしまう。家畜も処分しなければなりません。そうしたことを伝えたくて、私は「フジサン」という歌を作りました。富士山に、その麓で暮らす人々を見守って欲しい、と願いを込めました。そして、人々には、自然保護への意識を高めて欲しいと願いを込めました。いつか、自然から、しっぺ返しをもらわないようにね。自然は、今回のように、時として私たちに猛威をふるうことがあります。

──福島第一原発での事故は、原子力エネルギー開発史上、もっとも深刻な事故となりました。しかし、原子力発電の技術は、もともとアメリカから運び込まれたものです。

ええ。分かっています。アメリカは、日本に随分とひどいことをしているわね。日本は、すでに十分苦しんでいます。私が生まれる前、アメリカは広島と長崎に原爆を落としました。アメリカが日本に対して行ったことの中で、最もひどいことだと思います。日本は、被爆体験など核開発の歴史において、最も辛い思いをしてきました。震災後の原発事故で再び苦しむことになるなんて、悲しいことです。私たちは、新しい技術の開発に取り組む中で、自然とのバランスをないがしろにし、環境を破壊してきました。その意味で、私の祖国アメリカが犯してきた罪は重いと思います。私は、そのことを、心から恥じています。今、環境汚染について、世界中の人々が理解を深めることが求められています。中国での環境汚染は、深刻です。ジャカールで起きた洪水は、河川での汚染が深刻で、川の流れが滞ったのが原因でした。私たちは、目を覚まさなければなりません。

──ソングライターとして、3月11日の震災によって、どのような影響を受けましたか? 震災によって、何か影響を受けましたか?9月11日のテロの後すぐ、あなたは、あの事件から大きな影響を受け「twin death」という詩を書きましたね。あの詩を読んで、とても感動しました。

ですから、3月11日のすぐ後に「フジサン」を書いたんです。震災そのものについては、私自身はその場にいなかったのですから、歌詞を書けないと思いました。実際に経験していないことについて書くべきではないと思ったのです。でも、何かせずにはいられず、祈りの気持ちを歌にしました。「フジサン」はロックによる祈りです。富士山に、日本の人々を守って欲しいと祈る歌です。あの歌が、私の震災に対する思いです。

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渋谷AX公演より (c)yoshie tominaga

──私は、歌や詩、本などの文化が持つ力を信じています。しかし、こうした大災害に対して、音楽は無力だという人たちもいます。そうした声に対するあなたの意見は?

あの歌によって何かが変わることを期待しているわけではありません。政治的なメッセージを込めた歌でもありません。単なる祈りの歌です。私は、これまで様々な問題に対して、自分の意見を訴えてきました。原発事故による被害について訴えるなど、他にも私にはできることがあります。ですが、先ほど話したように、自然を敬う気持ちを持っていますので、今回は、素朴な祈りの気持ちを歌にしました。実際に経験していない出来事でも、私が感じている悲しみは、本物です。ですから、自分の気持ちをシンプルな形で表現したのです。ライヴで歌うと、力強い曲だと実感します。

私たちに求められているのは、新たな革命

──数年前、私はワシントンDCに滞在していました。ブッシュ政権の時でしたが、アメリカはイラクに対して戦争を始めました。その時、ワシントンDCでは、大規模な反戦デモが起きました。

私もデモに参加しました。

──ええ。あなたはあの時、歌を歌いましたね。

「ピープル・ハヴ・ザ・パワー」です。

──私は、あの歌からとても刺激を受けましたし、実際、市民の力を感じました。あの時はブッシュ、今はオバマ政権ですが、今でもなお……。

私たち市民には、力があると信じています。しかし、人類の歴史を振り返ると、政府、軍、企業などの力があまりにも巨大で、私たちは、彼らの前には無力だと思ってしまうことがあるのです。今後、私たちがやるべきことは……数千人規模のデモでは、不十分です。私たちは、世界規模で声を上げなければなりません。1万人が原発に反対するデモをしても、十分とはいえません。1,000万人規模のデモが必要です。

世界は、今、大きな危険にさらされています。気候変動、水質汚染、大気汚染、癌に冒される子供たちの増加、それらは、すべて事実です。そうした状況を変えるには、世界中の人々が手をたずさえて解決に取り組むべきですし、多くの犠牲も受け入れる覚悟が必要です。特に物質面では、その必要があります。たとえば私が『ジャスト・キッズ』の中で描いたのは、貧しくて、ほとんど何も持っていないけれど、仕事への高い意識を持っている若者の姿。アーティストを目指し、世の中を変えたいと思っている。今、私たちに求められているのは、新たな革命。技術革新、ネット革命などはすでに実現しましたが、もっとシンプルに生きるための革命が必要です。私たちの身の回りには、素晴らしいものがあふれていますが、本当に必要なのは何なのかを考え直すことが、今求められています。

高い技術ではなく、きれいな水、きれいな空気、安全な食べ物、自由、創造力、病から身を守る術が必要。そうしたことを、もっと多くの人々が理解するようになります。億万長者になったり、有名になっても、大気汚染などにより癌などの病気におかされたら、何の意味もありません。今こそ、基本に戻るべき、自然に返るべきです。そんな思いを込めて、「フジサン」を書きました。富士山は、自然がつくり上げた、とても清らかで美しい山ですから。

大切なのは物質的なものではなく、
志、行動、そしてエネルギー

──『ジャスト・キッズ』の話をしましょう。日本語版も、昨年の12月に発売になりました。

ええ。とても楽しみにしていたんです。

──非常に興味深い本でした。もちろん、英語で書かれたオリジナル版も読みましたが、正直、日本語版のほうが素晴らしかったです。

あなたのような感想を頂けて嬉しいわ。翻訳者が良い仕事をしてくれたのね。優秀な翻訳者は、作者のメッセージを、しっかりと伝えてくれる。

──デリアという少女が、ロバート・メイプルソープさんの遺品だった机の前にいる写真が、とても興味深かったです。これは、最初のハードカバー版にはなかったんですよね?

ええ。私がこの本を書き上げた後の出来事でしたから。この本の中でロバートの机に関する話を書いたのは、とても悲しく思ったから。机が、結局どうなったのか、気になったんです。ある少女がこの本を読んでくれたのですが、彼女の母親が、競売で、この遺品の机を買ったんです。そして、少女の母親が買ってくれたその机が、私の本に登場することに気がついたんです。それで母親も私の本を読んで、私に連絡をくれました。その少女が、私が子供の時と同じように、ロバートの机で書き物をしているのだと思うと嬉しかったです。

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『ジャスト・キッズ』より © 2010 Lynn Goldsmith. Used with permission.

──すてきなお話だと思います。私は、この本を読んで、ノルタルジックになりました。60年代後半から70年代初めが舞台ですからね。私は、今年59歳になります。

あなたなんて、まだまだ赤ん坊よ。私なんか66歳よ。

──私はあなたより6歳年下ですが、日本という東アジアにある小さな島国でも、文化的、政治的、そして社会的に、とてもエキサイティングな時代でした。

だから私も、この本が、何らかの形で若い人たちの役に立つことを願っています。60年代後半、私たちは何も持っていませんでした。お金もほとんど持っていませんでしたし、クレジットカードもありませんでした。お腹を空かしている時もありました。でも、頭の中は、様々なアイディアであふれていて、何かを創り出すことにエネルギーを注いでいました。文化的な爆発です。音楽、芸術、そして政治的にも、とてもエキサイティングな時代でした。インターネットや、携帯電話、ファックス、クレジットカードも、何もない時代でしたけれどね。今の若者は、経済的には苦しいのかもしれませんが、生き方は、他にもたくさんあることに、ぜひ気がついて欲しいと思います。大切なのは、物質的なものではなく、彼ら自身の志、行動、そしてエネルギー。それらが、その人の人間性を決めるのです。おしゃれなデザイナー・ブランドのバッグや携帯電話ではなく、その人の内面こそが大切なのです。

──この本に出てくる『俺たちに明日はない』、『真夜中のカーボーイ』、ゴダールの『ワン・プラス・ワン』など、私は同じ映画をみています。ジョン・コルトレーン、ドアーズのファースト・アルバムや、ジム・モリソン……同じ経験を共有していたんです。日本への言及は、この本の中に2回出てくるのですが、その一つはロバートの……。

彼は、神風隊員の軍服が好きだったの。ロバートは、白いシルクのスカーフを神風特攻隊員の白いスカーフに見立てて、いつも首に巻いていたわ。彼は、それがカッコイイと思っていたのよ。

──神風特攻隊員のストイックなところが気に入っていたのかもしれませんね。戦闘に出かける前、白いスカーフを丁寧に畳んでいたといった、折り目正しい姿にあこがれていたのでしょう。その他にも、この本には興味深いエピソードがたくさん記されています。私はニューヨークで2年間暮らしていました。ですから、アラトン・ホテルやコニーアイランド、ワシントン・スクエアで「彼らは、アーティストではなく、まだほんの子供(ジャスト・キッズ)だよ」とを言われる場面など、本の中に登場する地名をみると、ノスタルジックな気持ちになります。ステファニーの話や、ロバートの書店でのエピソードや、ロバートが草むらで靴を探す話……ウェルフェア・アイランドも登場しますよね。

標本を見つける場面ね。私は記憶力が良く、それが今回は幸いしました。ロバートは、私に手紙を何通もくれました。そして、私は若い頃、いつも日記をつけていました。だから、日記を読めば、私がロバートの髪をロカビリー・スターのように切ってしまったとか、今日はジャニス・ジョプリンに会ったとか、今夜は満月だったとか、日々どのように暮らしていたか、どんな服を着て、何を食べたか、どんな悩み事を抱えていたか、どんな作品を作ったかなどを感覚として思い起こせるんです。

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『ジャスト・キッズ』より (c)Judy Linn. Used with permission.

放射能の被害に対し理解を深め、協力しながら、
世界規模で話し合うことが大切

──ところで、昨年のウォール街を占拠したデモについて、どう思いますか?

抽象的な、何を訴えたいのかがはっきりとしない運動だったと思います。でも、自分の意見をはっきりと訴えるのは、よいことだと思います。ウォール街でのデモの問題点は、規模が小さすぎたこと。現代では、レコードを発売しても全く売れないか、ミリオンセラーとなるかの、いずれかになるように、文化が大衆化しており、少人数では、大した影響力をもちません。何万人もの人々が協力して、大きなうねりを作らなければなりません。数百万規模で、デモを行わないと効果がありません。

例えば、今のアメリカでは、全国民を上げて、銃規制の必要性を訴える必要があります。世界中の人々が一つになり、様々な問題に取り組むべきです。それが、現代の文化です。今は、政府や企業の力が巨大化していますから、私たちも数で対抗しなければなりません。でも、それは可能です。ガンディーが、そのいいお手本です。ガンディーの説得に答え、数百万の人々が立ち上がり、大英帝国の支配に終止符を打ちました。そのためには、みんなが、真の意味で心を一つにしなければなりません。

──あなたは、ガンディーに負けないくらいパワフルですね。私が、あなたのライヴを初めて見たのは、ワシントンDCにいた時だと思います。「ガンディー」という歌を歌っていました。ステージで裸足になって歌っていましたね。原発の話に戻りますが、広島や長崎への原爆投下については、アメリカの人々は様々な意見を持っていると思います。原爆投下に謝罪の気持ちを持っている人は、少数派だと思うのですが?

私はそうは思いません。先ほどお話をしたように、私は第二次世界大戦のすぐ後に生まれました。私の父はヨーロッパ戦線ではなく、日本との闘いに参加しました。父は、自分は正しいことをしていると信じていました。でも原爆が投下された時、これは戦争ではなく、人類に対する犯罪だと、とても胸を痛めました。ですので私は、原爆投下はずっと悲しい出来事だと思ってきました。原爆のことは、いつも話していますし、アメリカでは、機会あるたびに、この話をしています。私たちが日本に対して行ったことを、決して忘れてはいけないのです。今では、原爆の投下を正当化する彼らこそが少数派だと思います。人間性、家族や人を愛する気持ちがわずかでもある人なら、原爆投下は、あってはならない残虐な行為だと感じているはずです。

──原子力発電所については、いかがですか?

人々の間で認識は高まってきていると思いますが、もっと急がなければなりません。もう一つの問題ですが、チェルノブイリで原発事故が起きた時、ロシアはそれを隠ぺいしました。政府が事実を隠したことが原因で土壌汚染が拡がり、多くの人が癌に冒されました。政府は、国民への情報提供を怠ったのです。日本は、今、ユニークな特殊な立場にいます。日本が、原発事故で何が起きたのか真実を明らかにすれば、土壌汚染や、子供や女性にどのような影響を与えたかなどを公表すれば、日本は、原発について変革をリードしていくことができます。現時点において、原発事故の実態について知っているのは日本だけなのです。私たちには、何が起きたのか、正確には分かりません。私たちは、お互いに対し正直であるべきです。これは、日本だけでなく、世界のすべての人に関わる問題です。自分が知らない出来事が何か起きた時、私は、人から聞いた話やメディアや専門家からの情報で、理解するように努めるしかありません。でも、もし、放射線による影響を受けた子供たちがいるのだとしたら……。

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(c)yoshie tominaga

子供たちは皆、私たちみんなの宝です。私も母親ですから、もし影響を受けた子供がいるのだとしたら、それは私の子供が影響を受けたのと同じです。私たちそれぞれが理解を深め、協力しながら、世界規模で話し合うことが大切です。恥じたり、経済への影響を心配する余裕などありません。これは、経済よりもずっと重要な問題で、人類の未来がかかっているのです。危険から目をそらさずに、事故が起きた時の除染や、事故を防止する対策などを考えるべきです。もっと深刻な事故が起きる可能性もあります。

複雑な問題であることは理解しています。私たちの世界では、時として事実が隠ぺいされます。河川の汚染や放射能汚染についても、事実が隠ぺいされましたが、いずれ、隠す場所がなくなってしまうでしょう。それが私たちの暮らす世の中となってしまうのです。お互いに心を開き話し合うべき時がきています。これまでの過ちを認め、環境に関する知識をあらため、協力し合うことが大切です。今を犠牲にしても、子供たちの未来のために保護しなければなりません。

若い方々に生き方を見直してもらいたいと
『ジャスト・キッズ』を書いた

──まったく同感です。日本で起きていることについてお話しましょう。3月11日の震災から、もうすぐ2年が経ちます。日本では、昨年12月に総選挙がありました。その選挙で、有権者は、非常に保守的な党を選びました。

ええ。存じています。

──その党は、あれだけの事故があったにもかかわらず、今後も原発推進の方針です。生活を支えるために、有権者は、経済を優先したのです。私は、ジャーナリストの一人として、その結果に苛立ちをおぼえました。原発の問題は、あなたの国アメリカの政策と深く関わっていると考えています。

ええ。私も、よく理解しています。これは複雑な問題だと申し上げたのは、ご指摘の点を十分理解しているからです。例えば、ニュージャージー州では、化学物質が川に投棄され、深刻な環境汚染が広がっている地域があり、そこでは癌になる人の数が増えています。若くして亡くなる女性もいます。生まれてくる赤ちゃんに異常がみられることもあります。小児癌患者の数も増えています。河川に投棄された化学物質によって、土壌や水が汚染されたことが原因だと分かっているのに、みんな、仕事を失いたくないと、工場の閉鎖を求めたり、工場に抗議しようとはしません。しかし、その仕事によって、子供たちの命が奪われていくのです。当事者は難しい立場に置かれていると思います。時計の針をリセットするのに似ています。考えを一新して、経済的にしばらくは厳しくなっても、変化を起こすんだという覚悟が必要です。それが、私たち自身、私たちの子供たち、そして私たちの未来を救うことになるのです。難しいのは十分分かっています。川に薬品を流している工場に抗議すれば、仕事を失うのではと心配するのは分かります。でも放置すれば、癌になって、化学療法を受けることになるかもしれません。どこかで、汚染を止めなければならないのです。

世界中で、ストライキを行うべきです。世界中の人が「もうやめよう」と一緒に声を上げることを、私は期待しているのですが、実際はどうでしょう?私の祖国、アメリカでは、ブッシュ大統領が、再選されました。イタリアではベルルスコーニ首相が再選されたり、保守勢力が支持されるのは、なぜでしょう?みんな怖いからです。経済への影響を心配しているのです。経済は、いまや、世界を動かすうえで、中心となる原動力となりました。しかし、信条に関わることでも、創造的でもなく、物質的な豊かさをもたらすだけです。物しか残りません。

私がこの『ジャスト・キッズ』という小さな物語を書いたのは、若い方々に、生き方を見直してもらいたいと願っているから。犠牲と伴うこともあるでしょう。犠牲を伴うと辛いこともありますが、その犠牲とみかえりに大きなごほうびがあるはず。マスクをしなくても、自由に空気を吸うことできます。このままでは、常にマスクをしていないといけない時代が来ます。そんな生活、誰も望んではいません。きれいな空気を吸う生活を、誰もが望んでいるはずです。神様が私たちに与えてくれた恵みはパソコンではなく、新鮮な空気なのです。神様が私たちに与えてくれた恵みは車ではなく、きれいな水なのです。

──ありがとうございました。『ジャスト・キッズ』は、日本人にとって大きな励みになると信じています。とても勇気づけられました。

ありがとうございます。

──最後に、被災者の方々にメッセージをお願いします。

私は、地震が起きたその日から毎日、被災された方々や子供たちのことを思い、土壌汚染や大気汚染、水質汚染などを心配しています。私はアメリカにいますが、遠くからいつも、みなさんのことを思っています。今こそ、お互いのことを思いやる時です。私には何もできませんが、みなさんを愛する気持ちだけでもお届けできたらと思います。

(インタビュー・掲載協力:金平茂紀)



『ジャスト・キッズ』
著:パティ スミス

ニューヨークを舞台に
写真家ロバート・メイプルソープとの
出会いから別れまでの20年を綴った、
パティ・スミスによる青春回想録。

発売中
翻訳:にむらじゅんこ、小林 薫
ISBN:978-4309909707
価格:2,499円
版型:192×136ミリ
ページ:472ページ
発行:アップリンク
発売:河出書房新社


『無垢の予兆』パティ・スミス詩集

亡き夫や、弟妹たちなど、
愛する者たちへ向けた、
やわらかなまなざしに満ちた詩の数々。
1980年代から2007年までに書かれた28篇を収録。

発売中
翻訳:東 玲子
ISBN:978-4309909714
価格:2,000円
版型:218×138ミリ
ページ:160ページ
発行:アップリンク
発売:河出書房新社


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アップリンク パティ・スミス 公式ページ http://www.uplink.co.jp/pattismith/




PATTI SMITH AND HER BAND JAPAN TOUR 2013

2013年1月30日(水)広島CLUB QUATTRO
2013年1月31日(木)福岡DRUM LOGOS

ツアーに関する問合せ SMASH 03-3444-6751
http://www.smash-jpn.com




最新アルバム『バンガ』

発売中
12曲収録/歌詞・対訳付き
SICP-3562
2,520円(税込)
ソニー・ミュージックジャパン インターナショナル

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