骰子の眼

cinema

東京都 中央区

2014-07-09 13:15


『トガニ』のファン・ドンヒョク監督が『怪しい彼女』で20歳の姿をした70歳のおばあちゃんを主人公にした理由

「原案の8頭身の典型的な美女という設定を猟奇的で不思議なキャラクターに変更した」
『トガニ』のファン・ドンヒョク監督が『怪しい彼女』で20歳の姿をした70歳のおばあちゃんを主人公にした理由
映画『怪しい彼女』より ©2014 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved

『トガニ 幼き瞳の告発』のファン・ドンヒョク監督が『サニー 永遠の仲間たち』のシム・ウンギョンを主演に、70歳のおばあちゃんが20歳の姿となり、青春を取り戻そうとする姿を描く映画『怪しい彼女』が7月11日(金)より公開される。大学の教授となった息子を誇りに持つものの、老人ホームに入居されることを聞きショックを受けた70歳の主人公が、突如20歳の頃の姿に変貌し、新しい生活をスタート。彼女が、貧困の時代を過ごしてきたゆえの頑固な性格と口の悪さで周囲を巻き込みながら、孫のいるロック・バンドでヴォーカルを務め大舞台で歌うことを目指すまでをコミカルに描いている。これまでとは異なる作風に挑んだファン・ドンヒョクが制作の経緯について語った。

20歳のオ・ドゥリはオードリー・ヘプバーンを意識した

──最初に、原案のストーリーが映画化されるまでのプロセスを教えて頂けますか?

話は3年前に遡ります。本作のプロデューサーがかつて資金不足で映画化が頓挫したまま放置されていたシナリオを発見し、3人の脚本家にリライトさせるのですが、それも頓挫してしまいます。その後、僕自身が最初に頓挫したシナリオを読む機会があり、とても面白いと思ったので自分でリライトしてみようと考えたんです。

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映画『怪しい彼女』のファン・ドンヒョク監督

前作『トガニ 幼き瞳の告発』が重いテーマだったこともあり、シナリオ段階から苦労し、食欲も失せ、ストレスで不眠症にもなって5キロもやせてしまいました。大きな反響もあったけれど、このような作品を撮り続けていたら、長生きできそうにないな(笑)、と思い、今度はもっと明るく、観客の皆さんにも楽しんでいただける作品を撮りたいと思いました。

──シナリオのどの部分を手直ししたのですか?

最大の変更点はオ・ドゥリの設定です。映画ではオ・ドゥリは歌手として有名になりますが、オリジナルの脚本では下宿屋の料理人として成功するんです。また、彼女が憧れているのはオードリー・ヘプバーンですが、オリジナルでは韓国で人気の美人女優、キム・ジニに憧れていて、若返った時にオ・ドゥリではなくジニと自ら名乗るんですよ。

──なぜ、オードリーだったんですか?

オードリーなら、どの世代も、どんな国の人でもよく知っているし、実を言うと、僕自身がオードリー・ファンだからです。『ローマの休日』は勿論、『ティファニーで朝食を』も『麗しのサブリナ』も、全部見ました。彼女は僕の理想のタイプなんです。

──衣装が『ローマの休日』のアン王女そのものなのは監督の意向なんですね。

勿論、それを念頭に置いて作らせました。それに、あれは韓国で1960~70年代に人気があった女優が着ていた服のリメイクでもあります。もし、オ・マルスンが若返ったら着るであろう服だし、かと言って古臭くもなく、今の若い人が着ても可愛く見える服を意図して衣装担当に発注をかけました。

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映画『怪しい彼女』のシム・ウンギョン ©2014 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved

──キャスティングの経緯を聞かせて下さい。

当初シム・ウンギョンはキャスティングリストになかったのです。初稿のキャラクターも20歳になったら、キム・ジニのような典型的な美人なロングヘアの8頭身の美女だったんです。なので初稿段階でシム・ウンギョンは思い浮かびませんでした。でも、それでは面白くないと思ってリライトして行くうちに、この明るく溌剌として愉快な主人公はウンギョンに合うような気がしてきたんです。そこで少し猟奇的で不思議なキャラクターに変更し、シム・ウンギョンをイメージしながらシナリオを書き換えていきました。と言うのも、シム・ウンギョンは『サニー 永遠の仲間たち』でコミカルな演技をする一方で、『王になった男』では一転してシリアスな面を見せていたから。オ・ドゥリ役にはその両方が必要だったんですよね。

実は、最初僕がウンギョンを候補にしたとき、周りからは反対されました。『サニー 永遠の仲間たち』で人気を博したとはいえ、まだ知名度も足りないし、主演をやるにはどうかと。でも彼女なくしてはと説得し、そして完成した映画を見た皆が、ウンギョンが素晴らしい!と言ってくれて僕も嬉しかったですね。

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映画『怪しい彼女』より ©2014 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved

監督になるためには感情の幅を広げ、経験値を増やすことが大切

──外見は20歳なのに中身は70歳というウンギョンの“2重構造”の演技が絶妙ですね。

最も重要なことはオ・ドゥリとオ・マルスンが同一人物に見えることです。それには2つのキャラクターをシンクロさせなければなりません。そこで、ウンギョンとナ・ムニをプリプロの段階から同席させ、僕も交えてマルスンが使う全羅道の方言指導を徹底的に受けました。後は、ウンギョンにナ・ムニの話し方や歩き方を観察させました。物語の設定上、観客に真似をしていると思わせた段階ですべてが終わってしまいます。若い女の子の中に本当に70歳のお婆さんが居るように感じさせないと。訓練の甲斐があって、未だに僕とウンギョンは方言でやり取りしています。携帯のメールも方言なんですよ(笑)。

── バンドマンの孫役のパン・ジハを演じたジニョンはどうですか?

この役のオーディションはジニョンが所属しているB1A4よりも韓国では人気も知名度もあるグループのメンバーも受けに来ました。その中で演技が一番巧かったのがジニョンだったんです。ともすると、韓国のアイドル歌手の中には演技を副業と捉えている人も少なくないのですが、ジニョンはたまたま歌手でデビューしただけで、元は俳優になるために演技の勉強もしている人なんです。

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映画『怪しい彼女』より、ジニョン(左) ©2014 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved

──この映画には、時間そして経験という大きなテーマのなかに、すべての母親世代に対するリスペクトが感じられますね。

映画を撮る段階で時間というものを意識して作ったということではないのですが、元々時間というものを遊んでみるのが好きですね。それに少なくとも映画をみている2時間は、現実から離れ、実際にはないようなことを感じて楽しみたい、というものだと思うので、この作品では時間を使ったファンタジーで楽しいものを作りたいという気持ちがありました。

そして私自身、映画監督になるために何をどうすればいいのかわからなかった。ただ作り手にとっては、いろんなことを経験すること、恋愛、旅、趣味とか、感情の幅を広げ、経験値を増やすことがとても大事だと思います。

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映画『怪しい彼女』より ©2014 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved

この映画を撮ろうと思った一番の要因は、母や祖母への感謝の思いを伝えられると思ったからです。世代と言うことではなく、彼女たちが生きてきた人生に対する尊敬の気持ちが反映されています。僕の祖母は早くに祖父を亡くしていますし、母も早く父を亡くして苦労して僕を育ててくれましたので、女手一つで育ててくれた母の苦労を目の当たりにしてきました。どんな人にも親がいて、愛情と献身と自己犠牲を払ってでも子供を育てています。ある意味この映画は僕自身の映画でもありますね。そしてこのような気持ちはきっと皆さんにも共通する思いなのではないかなとも思っています。

(オフィシャル・インタビューより)



ファン・ドンヒョク プロフィール

短編映画『奇跡の道路』(2005)でカンヌ国際映画祭に招待される。以後、マスコミと観客の好評を博した本格映画デビュー作『マイファーザー』に引き続き、470万人もの観客を動員した映画『トガニ 幼き瞳の告発』で、社会的に大きな反響を呼び一気にヒットメーカー監督として注目される。3作目となる本作では、いままでとは違った作風の映画に挑戦。映画界で大きな話題になっていた完成度の高いシナリオをベースに、しっかりとした演出力で韓国では860万人以上を動員し注目を浴びている。




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映画『怪しい彼女』より ©2014 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved

映画『怪しい彼女』
7月11日(金)TOHOシネマズみゆき座ほか 全国順次ロードショー

キュートなルックスと並外れた歌唱力を持つハタチの女の子、オ・ドゥリ。容姿とは裏腹に、彼女は歯に衣着せない毒舌で、わが道を猛烈に突き進む、最凶の20歳だったのだ。しかし、誰も彼女の秘密を知らなかった。実は70歳のおばあちゃんだということを……そんな“怪しい”彼女が突然現れてから、奇跡のような日々が始まった。

監督:ファン・ドンヒョク
出演:シム・ウンギョン、ナ・ムニ、ジニョン(B1A4)、イ・ジヌク、ソン・ドンイル
プロデューサー:イム・ジヨン 、ハン・フンソク
プロダクション・デザイン:チェ・ギョンソン
脚本:シン・ドンイク、ホン・ユンジョン、ドン・ヒソン
編集:ナム・ナヨン
音楽:モグ
衣裳デザイン:チェ・ギョンファ
提供:CJ Entertainment
配給:CJ Entertainment Japan
2014年/韓国/125分/カラー/ビスタ/5.1chサラウンド/日本語字幕:久保直子/原題:수상한 그녀

公式サイト:http://ayakano-movie.com/
公式Facebook:https://www.facebook.com/ayakano.movie.jp
公式Twitter:https://twitter.com/ayakano_movie


▼映画『怪しい彼女』予告編

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