骰子の眼

cinema

2014-08-30 12:00


クラシックで強烈な恋愛映画、『イヴ・サンローラン』喝采と孤独

パートナーだったピエール・ベルジェとイヴ・サンローラン財団が全面協力、ジャリル・レスペール監督インタビュー
クラシックで強烈な恋愛映画、『イヴ・サンローラン』喝采と孤独
(C)WY productions - SND - Cinefrance 1888 - Herodiade - Umedia

ハイブランドの創始者にして、伝説の天才デザイナーの輝かしいキャリアと知られざる孤独と苦悩の人生を描いた映画『イヴ・サンローラン』が2014年9月6日(土)より公開される。

1957年、21歳の若さで故クリスチャン・ディオールの後を継いだイヴ・サンローランは、初めてのコレクションを成功させ、華々しいデビューを果たす。その後、恋人のピエール・ベルジェと共に自身のブランドを立ち上げ、革命的なコレクションを次々と発表。ファッション界の頂点を極めデザイナーの彼もカルチャーアイコンとしてその名を世界に知らしめていく。しかし、孤独とプレッシャーが彼の心を蝕み、次第にアルコールやドラッグに依存していく。

イヴ・サンローラン役に抜擢されたのは、国立劇団コメディ・フランセーズに在籍するピエール・ニネ。サンローランに酷似したヴィジュアルと繊細なキャラクターを見事に再現した。また、本作はサンローランのパートナーだったピエール・ベルジェが全面協力し、財団所有のアーカイブ衣装を貸し出している。本物の衣装に彩られた映画の美しさは息を飲むほどだ。

監督のジャリル・レスペール氏は俳優としても活動しており、ロウ・イエ監督の『パリ、ただよう花』ではその姿をみることができる。webDICEでは、監督のインタビューを掲載する。




ジャリル・レスペール監督インタビュー
「ピエール・ベルジェ、イヴ・サンローラン財団とのコラボレーションは不可欠だと思えた」

映画『イヴ・サンローラン』
ジャリル・レスペール監督

──これはファッションについての映画ではなく、ファッション界に生きた人々についての映画と言えると思いますが、ファッション界を舞台にするという点で何か拘束を感じましたか。またイヴ・サンローランを題材に選んだ理由はどんな点にありましたか。

僕はもともとクラシックで強烈な恋愛映画を撮りたいと思っていた。その一方で、自分の夢を叶えるために一生懸命に頑張っている人々を描きたいという思いもあって、いろいろと題材を考えているうちにイヴ・サンローランに行きついたわけなんだ。これはファッションの世界の話ではあるけれど、それはあくまでバックグラウンドで、僕自身はできるだけファッションとは切り離して考えたかった。もともとファッションの世界を描こうと思ったわけではないし、少なくともファッションという視点で見どころを作ろうとは思わなかった。

というのも、僕が惹かれたのはイヴ・サンローランのクリエーションに対する姿勢、ほとんどアーティストと言えるような地点に到達した彼のあり方だから。自分の夢や、自分がサバイバルするために苦しみながらも創造をする必要性、でもそのクリエーションによってさらにまた自分が苦しむことになる、というパラドックスを描きたかった。そしてそんなクリエイターと出会って彼を支える――ここではそれがピエール・ベルジェなわけだけれど、そんな人々の姿を描くことにも惹かれた。僕にとって彼らの関係のユニークなところは、お互いを見るというよりはふたりで同じ方向を見ているという点だった。

映画『イヴ・サンローラン』
恋人のピエール・ベルジェと共にブランドを立ち上げ

──ピエール・ベルジェとは企画の段階から密に連絡を取り合ったそうですね。映画の中身について彼から具体的に要求されたことなどはありましたか。

僕はまず、このプロジェクトが発表される前に彼に会って了解を取った。それは僕自身にとってとても大切なことだったし、純粋に僕自身を自己紹介させてもらうことが誠実なやり方だと思ったから。僕はまだ若手で、これが3本目の監督作にすぎない。それでも、どうしても彼らのストーリーを語りたいのだということを理解してもらう必要があると思った。それにピエール・ベルジェ、イヴ・サンローラン財団とのコラボレーションは不可欠だと思えたからね。

財団はサンローランに関する充実したコレクションや貴重な資料をそなえているし、ずっと長いあいだサンローランと一緒に仕事をしてきた人たちとも繋がっている。彼らは俳優たちが役作りをする上で欠かせないサポートになってくれるだろうと思った。だからまずベルジェのところに行って納得してもらった。でも同時に、彼のほうは最初から脚本に干渉することはできないと理解してくれた。もちろん、僕自身は彼のなかにある大切なメモリーや思いを裏切りたくはなかった。それは人間としてのリスペクトだ。でもそれ以上ではない。それで脚本の最終稿を彼に送ったところ、彼はむしろ満足してくれたよ。それ以上意見を言うのは控えてくれたのだと思う。というのもこれはフィクションでドキュメンタリーではないから。おそらく彼も、僕が彼の人生をコピーするのではなく、僕自身ひとりの映画作家として自由にそれを表現することを望んでいたのではないかと思う。

映画『イヴ・サンローラン』
イヴのミューズであり、人気モデルのヴィクトワール(シャルロット・ルボン)

──この映画ではサンローランが天才的なデザイナーであったというだけでなく、彼の人格の負の面までもが描かれています。

それこそが真実だと思ったからだ。この映画は彼が21歳のときから、文字通り成功と愛を生きた20年間を描いている。クリスチャン・ディオールのメゾンを引き継ぎディレクターとなり、その後ベルジェと出会って独立して成功するまで。でもそんな栄光の一方で彼はエモーショナルな神経衰弱を繰り返し、ベルジェとの安定した関係にも息苦しさを覚えるようになっていった。あの20年間はとくにそんな波乱に富んだ時代だった。僕は彼を、たんにヒステリックで気まぐれなスター・デザイナーとしてではなく、苦悩を抱えながらもいかにそれと闘いながら素晴らしいクリエーションを残したかを描きたかった。それはとても美しいことで、語る価値があると思えたんだ。

映画『イヴ・サンローラン』
皆に促されてショーの最後に出て行き、恥ずかしそうに頭を下げるイヴ

──俳優たちが素晴らしい演技を見せていますが、ピエール・ニネとギョーム・ガリエンヌのとくに優れた点はどんなところにありますか。

僕は彼らと出会えて本当にラッキーだったと思う。ふたりともコメディ・フランセーズ(※17世紀から続くフランスの国立劇団)の俳優で、お互いをよく知っていたから息もぴったりだったし、同じようなメソッドを持っている。とても教養があって、言葉に対しても愛着があるから脚本のセリフも尊重してくれた。彼らの存在がなかったら、あれほど素晴らしいキャラクターになり得たかどうかわからない。技巧に長けている一方で、決してそれに頼らずエモーショナルなものをもたらしてくれた。ニネの場合は3人のコーチについて、外見からデッサン、スタイリングの技術などを完璧に自分のものにして、なおかつ20年にわたるキャラクターの変化も表現してくれた。僕自身俳優でもあるからわかるけれど、彼らは本当に素晴らしい才能を持っているよ。

映画『イヴ・サンローラン』
サンローラン(ピエール・ニネ)とピエール・ベルジェ(ギョーム・ガリエンヌ)

──映画で使用する衣装を着用するモデルはどのように選んだのですか?

それぞれ衣装に合う体型のモデルを選んだ。こうした衣装はイヴ・サンローラン財団が保存しているもので、実際に人が着用するのではなく時々ショーで見せるものなんだ。だから、本当にスレンダーな女性を見つけなければならなかった。当時のモデルは現在の女性と体型が違う。せいぜいSまたはXSサイズだったんだよ!本当に大変だった。適切なモデルが見つかり、ドレスにライトを当てると、それはもう素晴らしかったよ。モデルが2時間連続でドレスを着た後にそれを脱ぐのは、摩擦とか汗の影響もあって、ものすごく骨が折れた。この場を借りて、この映画で見事な手腕を発揮してくれた衣装デザイナーのマデリーン・フォンテーヌに称賛を送りたい。

映画『イヴ・サンローラン』
コレクションのラストを飾るのはウエディングドレス

──プロダクションデザインも目を見張るほど素晴らしいですね。

財団の協力のおかげで、当時とほぼ同じように映し出すことができた。僕たちはできるだけロケで撮影するようにして、サンローランが実際に暮らし、仕事をしていた場所――1974年に彼が仕事をしたスタジオ、改築され手入れの行き届いたモロッコのマジョレル庭園と呼ばれる邸宅、サンローランが年に2度ショーを行ったインターコンチネンタルホテル(現在のウェスティン・パリ)――にも出かけて行った。そうした場所や実際にそこで暮らして仕事をしていた人たちからインスパイアされたよ。映画からそれが伝わってくると思う。

映画『イヴ・サンローラン』
愛人を共有したカール・ラガーフェルドやアンディ・ウォーホルら、セレブとの交流も明かされる


インタビュアー 佐藤久理子(文化ジャーナリスト)



ジャリル・レスペール Jalil Lespert(監督・脚本・脚色)

1976年、パリ生まれ。19歳のとき、俳優の父に同行したオーディションで、父と子を演じる俳優を探していたローラン・カンテに見いだされ、その短編で映画デビューを果たす。4年後、カンテ監督と組んだ三作目の作品『ヒューマン・リソース』に主演し、セザール賞有望新人男優賞を受賞。その後もブノワ・ジャコの『Sade』、アラン・レネの『巴里の恋愛協奏曲』等、順調にキャリアを積むと同時に、映画制作にも興味を示す。短編制作を経て、2004年にブノワ・マジメルを主演に迎えた『24 Mesures』で初長編監督デビュー。本作が3本目の長編となる。




映画『イヴ・サンローラン』
2014年9月6日(土)より、角川シネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネマライズ他全国ロードショー

監督:ジャリル・レスペール
出演:ピエール・ニネ、ギョーム・ガリエンヌ 、シャルロット・ル・ボン、ローラ・スメット、ニコライ・キンスキー
(C)WY productions - SND - Cinefrance 1888 - Herodiade - Umedia
公式サイト


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