骰子の眼

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東京都 中央区

2014-11-18 23:05


大島渚監督『青春残酷物語』デジタル修復版バリアフリー上映クラウドファンド実施中

第15回東京フィルメックスで上映、聴覚障がい者向け日本語字幕制作のプロセスについて解説
大島渚監督『青春残酷物語』デジタル修復版バリアフリー上映クラウドファンド実施中
映画『青春残酷物語』より ©1960/2014松竹

クラウドファンディングサイトMotionGalleryとwebDICEとの連動連載第9弾は、大島渚監督の『青春残酷物語』の「第15回東京フィルメックス」で行われるバリアフリー上映プロジェクトを、NPO法人メディア・アクセス・サポートセンターへの聴覚障がい者向け日本語字幕制作についてのQ&Aとともに紹介する。

今回のプロジェクトでは、300,000円を目標に、2014年11月27日23:59までクラウドファンディングを行なう。3,000円からファンドが可能で、11月28日夜に有楽町朝日ホールで行われる上映の招待や、上映時にクレジットが掲載されるなどの特典が用意されている。

詳しくはプロジェクトページまで。

国際映画祭「東京フィルメックス」は、「映画の未来」に向かってチャレンジする主にアジアの作家・作品を支援する映画祭として2000年にスタートし、今年で15回目を迎える。また日本の映画作家にも注目し豊田利晃『青い春』、園子温『愛のむき出し』といった野心作を世界に発信してきた。新作のみならず旧作・古典との関わりも深く、2003年の清水宏特集を皮切りに作家特集をフィルムセンターと共催(2009年)、2010年の島津保次郎特集からは松竹と共催している。単に旧作を回顧上映するだけでなく、全て英語字幕付上映により海外発信を目指し、特集の多くはベルリン、香港、サンパウロなど多くの映画祭でも組まれた。近年は、「映画を、より多く人々にひらく」目的で、相米慎二の『夏の庭』、木下惠介『二十四の瞳』の聴覚障がい者向け日本語字幕付き上映を行ってきた。

69大島渚(新宿泥棒)
大島渚監督

今回上映される大島渚監督作『青春残酷物語』デジタル・リマスター版は、東京五輪よりも前の1960年に作られた大島渚の劇映画デビュー作に続く2作目。後に大島監督は、松竹そして日本のヌーヴェル・ヴァーグの旗手として時代を牽引して海外に進出。作品を通じて内外の多くの映画人が影響を受け、『青春残酷物語』は大島監督初期の代表作として繰返し上映されてきた。

映画のフィルムは、アナログ・レコードと同じように映写されればされるほど傷んでしまう。複製(デュープ)が焼かれれば焼かれる程、原版は消耗する。日本のみならず世界の映画歴史上に残る傑作だが、製作から50年以上が経過し、映画フィルムの傷みが激しい状況だった。

修復は大島監督が映画キャリアをスタートさせ、『青春残酷物語』を製作した映画会社の松竹により、フル4K(4Kスキャン、4K修復、4KDCP制作)で行われ、画像監修は当時のキャメラマンで大島監督の盟友、川又昻氏と『小さいおうち』(2014年山田洋次監督、ベルリン国際映画祭銀熊賞)のキャメラマン、近森眞史氏が担当。退色したネガから、鮮やかな色彩と深い暗部を徹底的に再現、傷を修復し、手持ち小型キャメラを駆使した野外撮影でネガに付着した粉塵を除去。音声は、保存状況が原因のノイズをクリアにし、これ以上ないというデジタル修復版が完成。5月に行なわれたフランスのカンヌ映画祭でプレミア上映が行われた。

 
青春残酷物語_2
映画『青春残酷物語』より ©1960/2014松竹

この作品のバリアフリー上映にあたり、NPO法人メディア・アクセス・サポートセンター(MASC)に聴覚障がい者向け日本語字幕の制作プロセスについてwebDICE読者のために回答してもらった。

通常の映画の日本語字幕と、聴覚障害者用字幕の違いはどこにあるのでしょうか?

日本語字幕と聴覚障害者用字幕の違いは、製作会社や配給会社での呼び名が違うだけで邦画に日本語字幕が付く主旨としては、聴覚障害の方に向けての字幕ということで変わりありません。わたしたちはバリアフリー字幕とも呼んでいます。バリアフリー字幕はセリフだけでなく以下の情報も表示されます。

話者名(誰が何を話しているかかわるようにするため)
環境音(ドアの開閉音・足音など聞こえてくる音)
音楽情報(劇中にながれている曲)
※上記のような「音」が伝えている情報を字幕として伝えるのが基本です。

現状は、公式なガイドラインがないため表記する内容は各社で違います。洋画についている字幕(翻訳字幕)は各国のセリフを日本語に翻訳しているものですが、表示される字数制限もあるので実際に話しているセリフの内容よりもだいぶ要約されて表示されています。また、話者名がついていないので、聴覚障害者にとっては誰が話しているのかわかりづらいものです。

過去作品の4K上映にあたって、字幕作成作業の流れはどのようなものでしょうか?

1)映像をみてセリフの文字書き起こし
2)ハコ割(いつ字幕を出すかのタイミング決め)
3)字幕チェック2回程度(誤字脱字、タイミングチェック)
4)モニター検討会
5)仮ミックス作成
6)クライアントチェック

まず、1⇒2の順に、映像から必要な要素を抜き出す作業を行います。環境音はセリフ書き起こしの際に入れたり、セリフ書き起こし後に入れ込んだりと人によって違うようです。
その後、3⇒6の順に、字幕を整えて実際に貼付ける作業を行います。
英語字幕については、過去に制作した字幕をベースにしつつ、現代の字幕となるよう翻訳者の方に監修していただき、それを手直しする形で障害者用字幕としております。『青春残酷物語』のように、もともとベースにできる英語字幕がある場合は、それを元に現代の観客にわかりやすいよう一部直して使用することになるかとおもいます。

聴覚障害者用字幕制作のうえで留意する点にはどんなものがありますか?

・環境音などは台本に書いてないので見落とさないように気を付ける(音の表現方法も含め)話者を間違えないようにする
・ハコ割などの工夫(長すぎると読み切れないので字幕が読みやすいようになど)
・字幕を出す位置の工夫(左より、右寄り、中央、縦など)
・聞き取りが難しい(方言など)場合の表示の仕方(説明しすぎてネタばれしないようにするために)

今後、インディペンデントの映画作家が自身の作品に聴覚障害者用字幕を入れたい、と思ったらどのようにしたらいいでしょうか?

字幕制作会社に依頼する場合は、翻訳字幕を製作しているところであれば比較的どこでも引き受けてくれるかと思います。制作期間は2~3週間程度。料金は相場では分単価2000円前後。これは純粋な製作費のみなので、DCPに入れる場合はまた別途調整費がかかります。当NPOでは聴覚障害者向け字幕の相談も受けております。

また、よりクオリティの高い字幕に仕上げるための「モニター検討会」も行っています。検討会には監督やプロデューサーなど製作サイドの方と聴覚障害の方にモニターして頂き、意見交換をすることでクオリティの高さを保っております。ご自身で字幕を製作したい場合は、当NPOが開発した「おこ助」という字幕制作ソフトというものがあります。このソフトは、自分の映像に簡単に字幕をつけることができ、youtubeにアップする際も字幕データを同時にアップすることで、YouTubeの自動翻訳システムにより自分が付けた字幕が各国で翻訳され世界の方にみてもらえることができます。 ご依頼があればご自身の映像に字幕を焼き付けることも承っております。

さらに、字幕制作に対しての助成金も本年度から始まっています。これは文化庁芸術文化振興基金で、今年度製作費の助成をうけた50作品に対してバリアフリー字幕制作費として上限100万円の助成がでることになりました。すでに助成金を使用して数作品は字幕制作をおこない上映しています。
http://www.ntj.jac.go.jp/kikin/grant/applicant/download04.html




映画『青春残酷物語』バリアフリー上映
2014年11月28日(金)18:50開映
会場:有楽町朝日ホール

夜遊び帰りの高校生・真琴が、軽い気持ちで中年男の車に声をかけるが、ホテルに連れ込まれそうになる。そこに大学生・清が通りかかり、真琴を助けた。二人は男が苦し紛れに差し出した金で遊び、清は木場で強引に真琴を抱いた。数日後、愚連隊にからまれたのをきっかけに、二人は中年男を誘惑し、強請るという金儲けをはじめ同棲し、真琴はやがて妊娠してまう。

監督:大島渚
出演:桑野みゆき、川津祐介、久我美子、渡辺文雄
音楽:真鍋理一郎
撮影:川又昂
編集:浦岡敬一
1960年/96分
http://filmex.net/2014/sp01.html




69大島渚(少年)

大島渚 プロフィール

1932年3月31日京都生まれ。1954年京都大学法学部卒業。松竹大船撮影所入社。1959年第一回監督作品「愛と希望の街」発表。翌年「青春残酷物語」で第1回日本映画監督協会新人賞を受賞、日本ヌーベルバーグの旗手とうたわれるが、「日本の夜と霧」の上映中止をめぐって松竹を退社。以後独立プロ創造社を主宰、「白昼の通り魔」「日本春歌考」「絞死刑」「儀式」などを発表。1968年以降全作品が海外で公開される。1975年大島?プロダクションを創立、日仏合作映画「愛のコリーダ」を製作、翌年のカンヌ映画祭で絶賛をあび、シカゴ映画祭特別賞、英国映画協会賞を受賞。1978年「愛の亡霊」でカンヌ国際映画祭最優秀監督賞を受賞。その後、日英ニュージーランド合作「戦場のメリークリスマス」、フランス映画 「マックス、モン・アムール」と国際的映画製作を展開。1996年2月脳出血のため倒れるも、その後1999年「御法度」を完成させた。2000年文部 大臣芸術選奨、紫綬褒章を受章。2001年毎日芸術賞、芸術文化勲章コマンドゥール(フランス)を受賞。妻は女優の小山明子。2013年1月15日肺炎のため死去。




第15回東京フィルメックス
2014年11月22日(土)~11月30日(日)

会場:有楽町朝日ホール[有楽町マリオン11階][地図を表示]
TOHOシネマズ 日劇[有楽町マリオン9F][地図を表示]
※上映時間・料金などの詳細につきましては、
東京フィルメックス公式サイトをご覧ください。


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