骰子の眼

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東京都 渋谷区

2014-12-12 12:45


一途な想いの強さ、日韓国境を越えた愛とアムステルダム国立美術館の妥協なき改革

音楽家・松本章『ふたつの祖国、ひとつの愛』『みんなのアムステルダム国立美術館へ』Wレビュー
一途な想いの強さ、日韓国境を越えた愛とアムステルダム国立美術館の妥協なき改革
左:映画『ふたつの祖国、ひとつの愛~イ・ジュンソプの妻~』 右:『みんなのアムステルダム国立美術館へ』

寒い以上に懐が寒い時に、韓国の国民的作家イ・ジュンソプの妻、山本方子の半生を描くドキュメンタリー映画『ふたつの祖国、ひとつの愛~イ・ジュンソプの妻~』(酒井充子監督作品)を鑑賞したのです。

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映画『ふたつの祖国、ひとつの愛~イ・ジュンソプの妻~』より

お話は、第二次世界大戦中、神戸に生まれた令嬢・山本方子は日本の美術学校に留学していたイ・ジュンソプと出会い、恋に落ちる。戦争末期に命がけで、方子はイ・ジュンソプの故郷の朝鮮に渡り、結婚をしたのです。子供にも恵まれて、幸せな時が訪れますが、朝鮮戦争が勃発し、戦火と貧困のため方子と子供は一時的に日本に帰ったのです。再び離ればなれになるのですが、二人の愛はなくならず、200通以上の手紙をやりとりするのです。再び二人は、一緒に暮らす事を夢見るのですが、イ・ジュンソプは、貧困のために39歳で亡くなったのです。

大正10年生まれと言う事は、関東大震災、第二次世界大戦、を経験した世代で、御年92歳の方子は、チャーミングで頭はボケていなくて、シルバーカーを引いて美容院に行くので立派だなーと思ったのです(遠距離は、車椅子だけど)。動きも話も老人のテンポで遅いけど、言葉数は少なく大切にして話してる感じなのでした(言葉数が多くて、こんだけ悲惨で不幸だったという話し方でないのです)。現在の価値観では分からないけど、朝鮮出身者と結婚するのはいろんな障害あったかもです。その上、戦争が重なったので、時代に飲み込まれた二人は、数年だけど家族で過ごせたのは凄い事だと思ったのです。

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映画『ふたつの祖国、ひとつの愛~イ・ジュンソプの妻~』より

離ればなれになった二人の手紙には愛と信頼に溢れており、イ・ジュンソプの手紙は、宛名の文字もかなり独自でイ・ジュンソプ流を通していたのです。添えられていた絵は絵画作品とは違い、家族が笑顔になるような感じだったり、穏やかな絵だったのです。92歳の方子は、韓国に渡り、イ・ジュンソプの友人達と会うのです。学生時代の話で微笑んだりして、重ねた年齢から生まれる何でもない話に強度を感じたのでした。イ・ジュンソプの絵画を観て、極貧の中イ・ジュンソプと暮らした部屋を観て、方子は言葉は無くただ佇むのでした。言葉にできない想いがありすぎたのかもです。

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映画『ふたつの祖国、ひとつの愛~イ・ジュンソプの妻~』より

微笑みで、想い出を見つめる方子に一途に生きた強さを感じたのでした。なんでもない、言葉、平穏な日常が大切なんだなーと思ったのでした。


さらに寒くなり湯たんぽも大事で生姜も大事だが、心がドンドン低予算になってくるので、心だけでも豊かにしようと、ドキュメンタリー映画『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』の続編『みんなのアムステルダム国立美術館へ』を鑑賞したのです。

映画『みんなのアムステルダム国立美術館へ』より
映画『みんなのアムステルダム国立美術館へ』より

お話は、2004年にオランダのアムステルダム美術館の全面改修工事が始まり、2008年に完成予定が、美術館を通る公道の設計に自転車愛好家達が猛反発し大騒動に発展。

建築家・内装家・美術館スタッフ・市民の意見の相違が埋まらず、計画は伸びて行く。さらに、資金難・政治家・プロダクトマネージャーが無能なので、現場は七転八倒し、10年もかかってしまうのでした。

レンブラントの絵画の修復の技術が凄い!美術館の建築の設計が凄い!内装が凄い!その国立美術館を支えるスタッフ・市民の美術に対する情熱が凄い!のだろうと思い見始めたのです。確かに、凄いのですが、改修の計画の延期の仕方が凄かったのです。決まったであろう改修の設計が、自転車が通りにくいという理由で、何回もひっくり返され、館長が交代されるし、もはや喜劇になっているのです。自転車なんて美術とあんまり関係ないし迂回すればいいのにと思ったけれど、全市民参加の民主主義なので、文化の違いを面白く感じたのです(日本の民主主義がいいという訳ではないのです。たぶん、滑稽なところはいっぱいあると思うのです)。

映画『みんなのアムステルダム国立美術館へ』より
映画『みんなのアムステルダム国立美術館へ』より

映画に出てくるキャラが立っていて、新しい館長はデビッド・ボウイ風のクールな皮肉屋(かなり「ツッコミ」が毒舌で面白い)で、内装屋のおじさんは疲労なのか話し合いの時に寝てるし、現場の工事も図面と間違って削るし、状況が過酷になってくると面白みがましてくる。教養のための美術館というドキュメント作品でなく、自分の正義をよりよく叶えようとする涙と笑いのエンターテインメント映画であると思ったのです。

しれっと当初の計画通りに改修ができてたら、美術品の改修作業の技術などにクローズアップしたオランダの教養と美術文化を誇る映画になったと思うのですが、およそ倍の10年もかかったので、この映画を作った人達も撮影当時は大変で、編集も当初の狙いと違う筈なので大変な苦労があったと思うのです。

意見の対立で緊迫した場面もあるのですが、若いスタッフが、日本のかなり寂れた山寺を訪れ金剛力士像に惚れ込み、美術館に運ばれた時はうっとりしていて、心の底から美術とこの美術館を愛しているのだなーと思ったのです(仕事をしてないように見えるぐらい好きそうだった)。

映画『みんなのアムステルダム国立美術館へ』より
映画『みんなのアムステルダム国立美術館へ』より

10年かかってようやく改修されるが、市民との意見と衝突など適当に聞いて、適当にごまかすか、市民同士で揉めさせて、適当にやったら、時間も予算も無駄無く使えそうですが、各個人の意見(正義)対立があって、時間も予算も無駄になるかもしれないけれど、エンドロールを観た時に、映画の中での七転八倒ぶりは、無駄でなく、必要な事なのだなーと思ったのです。

結論、両作品とも一途な想いを通す作品なのでした。心も温まり、豊かになったのでした。皆様、風邪に気をつけて、いい映画を観て、お餅を買って良い年を迎えよう。来年は今年より悪くならなければええな!!あっっ!選挙が!!!

(文:松本章)



■松本章(まつもとあきら)プロフィール

1973年生まれ、大阪芸術大学映像学科卒。東京在住。熊切和嘉監督作品、山下敦弘初期作品の映画音楽を制作に係る。熊切和嘉監督『ノン子36歳(家事手伝い)』、内藤隆嗣監督『不灯港』、山崎裕監督『トルソ』、今泉力哉監督『こっぴどい猫』、内藤隆嗣監督『狼の生活』、吉田浩太監督『オチキ』『ちょっと可愛いアイアンメイデン』『女の穴』などの音楽を手掛けた。
Twitterは @akiraise
blogは http://ameblo.jp/akira-toumei/




映画『ふたつの祖国、ひとつの愛~イ・ジュンソプの妻~』
2014年12月13日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次ロードショー

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映画『ふたつの祖国、ひとつの愛~イ・ジュンソプの妻~』

監督:酒井充子
出演:山本方子 山本泰成 キム・インホ ぺク・ヨンス 他
製作:天空 アジア映画社
配給・宣伝:太秦
2014年/日本/カラー/HD/80分
c 2013天空/アジア映画社/太秦

公式サイト:http://www.u-picc.com/Joongseopswife
公式Facebook:https://www.facebook.com/Joongseopswife
公式Twitter:https://twitter.com/u_picc




映画『みんなのアムステルダム国立美術館へ』
12月20日(土)より、渋谷ユーロスペースにて公開 他全国順次公開

みんなのアムステルダム国立美術館へ_メイン
映画『みんなのアムステルダム国立美術館へ』より

監督:ウケ・ホーヘンダイク
2014年/オランダ/カラー/97分/オランダ語・英語/DCP/日本語字幕:松岡葉子
配給:ユーロスペース
c2014 Column Film BV

公式サイト:http://amsmuseum.jp/
公式Facebook:https://www.facebook.com/amsmuseum.jp
公式Twitter:https://twitter.com/showgatesenden

▼映画『ふたつの祖国、ひとつの愛~イ・ジュンソプの妻~』予告編

▼映画『みんなのアムステルダム国立美術館へ』予告編

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