骰子の眼

cinema

福島県 福島市

2015-01-13 21:47


原発12キロの町に理想郷を作った男を描く映画『ナオトひとりっきり』クラウドファンド実施中

無人地帯となった富岡町で動物たちの面倒を見続ける姿に一年間密着したドキュメンタリー
原発12キロの町に理想郷を作った男を描く映画『ナオトひとりっきり』クラウドファンド実施中
映画『ナオトひとりっきり Alone in Fukushima』より

クラウドファンディングサイトMotionGalleryとwebDICEとの連動連載、今回は『孤独なツバメたち~デカセギの子どもに生まれて~』の中村真夕監督の新作『ナオトひとりっきり Alone in Fukushima』の劇場上映を支援するプロジェクトを、中村監督からのメッセージとともに紹介する。

今回のプロジェクトでは、4月18日(土)からの劇場公開のための配給・宣伝費用として、1,500,000円を目標に、2015年3月9日23:59までクラウドファンディングを行なう。3,000円から協力可能で、5,000円以上で完成した作品の試写会へのご招待、10,000円以上で映画の特別鑑賞券と映画本編DVDをプレゼント、そして300,000円の協力で中村監督のティーチイン付き上映会開催権が進呈と、各種特典が用意されている。詳しくはプロジェクトページまで。

今作の舞台となるのは、福島県双葉郡富岡町。2011年3月11日の東日本大震災と福島原発事故直後に全町避難となり、無人地帯となった町には、緑があふれ、動物たちがのびのびと暮らしている。松村直登(ナオト)さん(55歳)は、この原発から12キロの町に一人残り、いきものたちと暮らしている。松村さんは動物たちにエサを与え続け、犬猫は動物愛護団体に救出されたものの、ほとんどの牛や家畜は殺処分されてしまう。殺処分を拒否した畜主から預かった牛たち約30頭ほどを預かって、牛飼いの経験もないのに、面倒を見始める。

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映画『ナオトひとりっきり Alone in Fukushima』より

松村さんは震災前までは富岡町で建設業の会社を営んでいた。30年ほど前までは出稼ぎで、関東近辺の建設現場で働いていたものの、バブル崩壊の後は、仕事が一切なくなり、妻とも離婚し年老いた両親と実家で暮らしていた。原発事故直後、親戚の家に両親と避難しようとしたが、放射能の影響を恐れられ受け入れてもらえず、避難所もいっぱいだったので自宅に戻り、両親は兄弟とともに避難したが、松村さんは一人町に留まることにした。国の命令で自分の家を追われることに納得がいかない気持ちとともに、無人地帯に一人で残った孤独のなか、取り残された動物たちを生かしつづけることが松村さんの新たな生きる道となったという。

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映画『ナオトひとりっきり Alone in Fukushima』より

中村真夕監督は、海外メディアでのリポートにより、松村さんと動物たちのことを知ったという。町に残された動物たちを面倒をみている松村さんの姿に衝撃を受けた中村監督は、海外メディアで動物たちの救世主としてヒーローのように取り上げられている姿と、富岡町に残っていることは隠され報道されている日本のメディアでの取り上げ方の違いについて自ら確かめたいと、2013年の夏、富岡町を初めて訪れた。町から離れることを拒否し、残された動物たちを町の同胞として世話をし始め、一緒に生きてゆく松村さんの姿に接し、彼の怒りと抵抗に共感したという。

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映画『ナオトひとりっきり Alone in Fukushima』より

一年にわたる撮影を経て今回完成した作品は、劇場だけでなく学校や地方自治体でも上映される予定。この作品を通して、富岡町そして双葉郡の町の存在を全国の人たちに知らしめ、国が原発事故をなかったことかのように、また原発再稼働をして、他の町でも同じような事をしようとしようとしていくことをやめさせる力につながればと中村監督はプロジェクト・ページで綴っている。また原発立地県での上映も行うほか、この映画からの収益の一部は、ナオトさんのNPOを通して、牛たちを生かし続けるために必要な飼料をまかなうための資金にも使われることになっている。

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映画『ナオトひとりっきり Alone in Fukushima』より

中村真夕監督からのメッセージ
「この男の数奇な人生と、
富岡という町を見つめていきたい」

中村真夕監督
映画『ナオトひとりっきり Alone in Fukushima』の中村真夕監督

【ドキュメンタリー映画
『ナオトひとりっきり Alone in Fukushima』について】

「今まで見たことがないような福島の映画を作ろう」- 震災から数年経ち、すでに福島関連映画が何本も作られている中、自分がどういうスタンスで、福島で映画を撮影するかということを考えた。これまで私が見た福島関連映画は避難されている方々を中心に、いろいろな方々の声を通して現在の福島の状況を伝えるといった形の作品が多かった。原発から12キロの町・富岡町に一人動物たちと暮らす男・松村直登さんに出会って、松村さんを通して、福島の現状、特に今まであまり報道されてこなかった20キロ圏内の状況を、季節を追って伝えいこうと考えた。それには覚悟も必要だった。ここで長期間をかけて作品を作るということは、自分も多少は被爆することを覚悟しないといけないということだった。また予算もなく、お金でスタッフを雇っていくところという場所ではなかったので、自分一人で運転し、撮影を続けた。

無人地帯に一人残って、いきものたちと住む男を描くことは、ある意味、ドキュメンタリーを作るというより、『ノアの箱船』のような寓話的な物語を作ることのように思えた。このSFのような状況をどう描くか、またここから何を訴えていくのかを考えた。人がいなくなった町で、緑は生い茂り、動物たちはのびのびと暮らし、松村さんは理想郷を作っているように見えた。放射能で汚染されているはずなのに、この場所でまだ命は続き、輝いていた。この矛盾にあふれた現状をどう表現していくか。「この放射能汚染された地域で生きることとはどういうことなのか?放射能汚染されても、どんないのちも穢れないものではないのか?」その問いを胸に、私は撮影を続けた。

「事実は小説よりも奇なり」と言うが、この死の町と化した場所で動物と一人生きる男を見つめていくことは、フィクションの世界を凌駕していた。松村さんの人生自身が「小説より奇なり」なものになっていた。50をすぎて、一人になって何も失うものはないと、自宅に残り、町に残された動物たちに出会い、世話をしたら出られなくなったというのが実情のようだった。しかし松村さんは海外のメディアに注目され、動物のために町に残った救済者、反原発のヒーローとして祭り上げられ、世界中の人に知られるようになった。本人も嬉しい反面、海外から注目され続けるプレシャーと責任を感じているようだった。彼には震災を通して出会った女性との間に2年前、子どもが生まれていた。しかし彼には、町に一人残り動物たちの救済者としての責務を果たさないといけないというプレッシャーもある。私が彼に問いかける質問は「なぜここに一人で残ったのですか?」から、「ずっとここに一人残って、いきものたちの世話を続けるのですか?」という質問に変わっていった。彼は「分からない」としか答えられなかった。彼の今後も、町がいつ帰還できるのかも、原発がいつ収束するのかも、何もかも「分からない」があふれていた。その彼の葛藤と混沌した状態自身が、この町の状況そのものを映し出しているように思えた。

今後もこの男の数奇な人生と、富岡という町を見つめていきたいと考えている。




中村真夕 プロフィール

コロンビア大学大学院を卒業後、ニューヨーク大学大学院で映画を学ぶ。2001年に文化庁芸術家在外研修員に映画監督として選出される。2006年、京都を舞台にした劇映画『ハリヨの夏』(主演:高良健吾、於保佐代子、柄本明、風吹ジュン)で監督デビュー。釜山国際映画祭コンペティション部門に招待される。2012年、浜松の日系ブラジル人の若者たちを追ったドキュメンタリー映画『孤独なツバメたち~デカセギの子どもに生まれて~』を監督。全国13館で劇場公開され、ブラジル映画祭ドキュメンタリー部門でグランプリを受賞。現在はNHKなどを中心にドキュメンタリーや旅番組、震災関連番組のディクレクターとして活動する。




映画『ナオトひとりっきり Alone in Fukushima』
2015年4月18日(土)、新宿K's Cinemaにて公開

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撮影・監督・編集:中村真夕
2014年/日本/97分/カラー/HD

公式Facebook:https://www.facebook.com/aloneinfuksuhima
公式Twitter:https://twitter.com/mayunakamura510


▼映画『ナオトひとりっきり Alone in Fukushima』予告編

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