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2015-04-24 20:55


モンサントの新たな戦略オーガニック市場にも進出

『モンサントの不自然な食べもの』マリー=モニク・ロバンによる著書『モンサント』試し読み
モンサントの新たな戦略オーガニック市場にも進出
マリー=モニク・ロバン著『モンサント──世界の農業を支配する遺伝子組み換え企業』表紙

フランスのジャーナリストで、監督したドキュメンタリー映画『モンサントの不自然な食べもの』(2012年)が日本でもアップリンク配給により公開されたマリー=モニク・ロバンの書籍『モンサント──世界の農業を支配する遺伝子組み換え企業』が作品社より1月17日に刊行された。

世界43ヵ国で、遺伝子組み換え種子の90%のシェアを誇る、世界最大級のバイオ化学企業、モンサント。マリー=モニク・ロバンは本著で、遺伝子組み換え作物によって世界の農業を支配しようとしている同社が、政治家との癒着、政府機関への工作、科学者への圧力、そして農民たちへの訴訟により、いかに健康や環境への悪影響を隠蔽し、世界の農業を支配下に収めてきたかを、詳細な調査を元に明らかにしている。

今回の日本語版刊行にあたり、マリー=モニク・ロバンによる今著刊行とドキュメンタリー『モンサントの不自然な食べもの』公開後の反響を補論として追加。

そして、遺伝子組み換え情報室の河田昌東氏による解説も巻末に掲載。河田氏の解説は、刻々と変わる遺伝子組み換え作物を巡る状況を伝えるため、三刷からは2015年3月加筆版に変更されており、現在アメリカ29州でGM作物の表示義務化に関する84の法律が議会に提出されていることや、現在政府間交渉が進められているTPPにおいては関連企業が相手国政府を訴えることができるISD条項「投資対国家間の紛争解決条項」のため、モンサントが日本の遺伝子組み換え食品の表示義務を撤廃させ、日本へのGMO食品・種子の売り込みをしようとする可能性があると指摘。また、世界的なGM作物批判に対し、モンサントは新たな戦略として、アメリカの有機農家が使用している種子会社セミニスを買収することで、オーガニック市場にも進出していると書いている。

スペイン語・ドイツ語・ポルトガル語・英語など16ヵ国で出版された560ページを超えるこの本より、今回はII部の「遺伝子組み換え作物──アグリビジネス市場、最大の陰謀」の中から知っておくべき4つのキーワードをピックアップして紹介。冒頭部分の試し読みも掲載する。

なお、アメリカでモンサント社をはじめとする企業が生産する遺伝子組み換え食品がいかに市民の生活のなかに拡大しているかを描くドキュメンタリー映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』が4月25日(土)より公開される。

【マリー=モニク・ロバンが警告する、
モンサントと遺伝子組み換え作物をめぐる4つのキーワード】

①「実質的同等性の原則」は単なるアリバイにしかすぎない。


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映画『モンサントの不自然な食べもの』より、マリー=モニク・ロバン

「実質的同等性の原則」とは、これまで人が食べてきた自然のままの作物と遺伝子組み換え作物を、形や姿、主要成分、性質などで比較し、構成要素が〈ほぼ同等〉とみなすことができれば、自然の作物と同じ安全性を持つという考え方。マリー=モニク・ロバンは、この観念が、企業とFDA(アメリカ食品医薬品局)が、遺伝子組み換え作物を他の食品添加物と同じように扱われることを避けるためにでっち上げたもので、単なるアリバイにすぎないとしている。

②モンサント社と政府・機関を行き来する人事「回転ドア」


映画『モンサントの不自然な食べもの』より
映画『モンサントの不自然な食べもの』より、モンサントの研究所を訪れたジョージ・ブッシュ副大統領(当時)

「回転ドア」とは、企業を監督する立場の当局とその対象である企業の間を同じ人物が行き来することで、企業の規制を緩和させる人事のこと。マリー=モニク・ロバンは本著で、①ホワイトハウスからモンサントへのドア、②議会の元メンバーがモンサントのロビイストになるドア、③規制機関からモンサントへのドア、④モンサントから政府機関や政府間組織へのドア があると触れている。『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』でもFDA、モンサント、農務省と所属を変えGMの規制撤廃を推進したマイケル・テイラーの存在が描かれている。

モンサント社とアメリカ政府との関係を象徴するエピソードとして、1987年5月、ジョージ・ブッシュ副大統領(当時)がモンサントの研究施設を訪れた際、「新品種の試験栽培を認めてほしいと農務長官にお願いしているが、何もしてくれない」というモンサント社幹部の言葉に対し、ブッシュは「それなら私を頼ってくれたらいいんだよ。規制緩和が私の仕事なんだからね。皆さんの力になろう」と答えたという。この映像は映画『モンサントの不自然な食べもの』にも収録されている。

③遺伝子組み換えが施された微生物への「特許」

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映画『モンサントの不自然な食べもの』より

1970年代まで「生物」は特許の対象とされていなかったが、1980年、ジェネラル・エレクトリック社で働いていた遺伝子学者の申請により、遺伝子組み換えが施された微生物への特許が認められた。このことにより、生物の私有化が加速。モンサントの研究者たちは大豆に除草剤ラウンドアップへの耐性を与えるために開発した「遺伝子カセット」の特許を出願し承認。農家が収穫した種子を次年度に使用できないようにした。

④「遺伝子組み換え小麦」を製造、しかし市民の反対で停止

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映画『モンサントの不自然な食べもの』より

2002年、モンサント社は除草剤への耐性を持つ小麦を開発し、市場に出荷する申請書を提出したと発表。それまで、モンサントの遺伝子組み換え作物は主に飼料作物や、油・衣類の原料となる大豆、アブラナ、綿花に限定されていた。しかし人類の基礎的食料である小麦に対しての操作は農民そして消費者たちからの大きな抵抗運動を生み、2004年、モンサント社はラウンドアップ耐性小麦の市場出荷の延期を発表した。




【試し読み実施中】
『モンサント──世界の農業を支配する遺伝子組み換え企業』を試し読みできます。 下記テキストは「はじめに」より冒頭の5ページ、pdfで「はじめに」全10ページを掲載しています。

※pdfの試し読みは、Google Chromeで閲覧の方はページ右下にカーソルを合わせ表示されたツールバーから拡大・縮小してください。FireFox、Internet Explorerで閲覧の方はページ上部に表示されるアイコンから拡大・縮小してください。閲覧できない場合は、こちらをクリックして直接pdfを開いてください。http://www.webdice.jp/ex/pdf/150416_monsanto.pdf

【はじめに】モンサントとは何か?

「モンサントを調べてください。あのアメリカの多国籍企業の正体を暴かなければ。あの会社は、植物の種子に手を出しています。ようするに、世界中の食糧を独占するつもりなのです……」

2004年12月のニューデリー空港で、ユドヴィル・シンは、私にこう伝えた。彼は、およそ2,000万のメンバーからなる北インドの農民組織「バラティヤ農民組合」のスポークスマンである。

■調査の必要性

私は、パンジャブ州とハリヤナ州を、彼と一緒に2週間かけて、歩き回ってきたところだった。この二つの州は、インド小麦のほとんどすべてが生産されている地域で、「緑の革命」のシンボルとされていた州であった。

当時の私は、ドイツとフランスのテレビ局「アルテ(Arte)」からの依頼で、『テーマ』という夜の番組で放映するために、二つのドキュメンタリーを制作している途中だった。その番組では、『自然へ忍びよる悪魔の手』というタイトルで、生物多様性の特集を組むことになっていた。

一つめのドキュメンタリー『生物への海賊たち』では、遺伝子組み換え技術の登場により、世界中で遺伝子の争奪戦が行なわれるに至った経緯を語った。バイオテクノロジーの巨大企業たちは、特許制度を悪用しながら、発展途上国の自然資源を遠慮なく横取りしている。たとえば、コロラドの大胆なある農業家は、メキシコで大昔から栽培されていた黄インゲンの特許を取得した。そして彼は、アメリカ大陸での「発見者」を名乗って、合衆国に黄インゲンを輸出しているメキシコの農民たちに、特許の使用料を要求している。また、モンサントというアメリカ企業は、あの有名な「チャパティ」(インドの無酵母パン)で使われているインド小麦の遺伝子特許を、ヨーロッパで取得した。

二つめのドキュメンタリー『小麦―予告された死の記録?』では、小麦の長い物語(人類が小麦の栽培をはじめた1万年前から遺伝子組み換え作物〔GMO〕が登場した現代まで)を通じて、生物多様性とその危機を歴史的に描き出した。ちなみに、このGMOの世界的リーダーが、モンサント社である。当時の私は、これらの作品のほかに、アルテの報道番組のために、もう一つのドキュメンタリーを制作していた。私は、そのドキュメンタリーに『アルゼンチン―餓えの大豆』というタイトルをつけ、牛肉と牛乳の産出国であるアルゼンチンに、遺伝子組み換え作物がもたらした悲惨な結果をまとめようとしていた。

ところで、アルゼンチンでは全国の耕作面積の半分をGMOが覆っており、そこで起こっている問題のほとんどは、いわゆる「ラウンドアップ・レディ」という商品名の大豆に関連している。「ラウンドアップ・レディ」という名前は、除草剤「ラウンドアップ」に耐性をもつように、モンサント社によって遺伝子操作を施された大豆だからである。そして「ラウンドアップ」は、1970年以降、世界でもっとも売れている除草剤で、その製造企業も、やはりモンサント社なのである。

この3つのドキュメンタリーで私が検証したのは、それぞれ別の角度からではあるが、常に同一の問題であった。はたしてバイオテクノロジーは、世界の農業に、また人類の食料生産に、いったいどのような影響を及ぼしているのだろうか? それらのドキュメンタリーを撮るために、私は1年がかりで世界各地──ヨーロッパ、合衆国、カナダ、メキシコ、アルゼンチン、ブラジル、イスラエル、インド──を駆けまわったのだが、いたるところにモンサントという会社の影が忍び寄っていた。この会社は、あたかも世界規模で農業の新たな秩序を監視する「ビッグ・ブラザー」のように感じられ、そのことに私は胸騒ぎをおぼえていた。

冒頭で引用したユドヴィル・シンの言葉は、私がインドを出国する時に伝えられたアドバイスである。それまでの私は、まだ漠然と、モンサントという北米の多国籍企業の歴史──1901年にミズーリ州セントルイスで創設され、2005年に世界一の種子販売企業となり、現在では世界中のGMOの90%を支配している──をもっと詳しく調べなければならない、と思っていたにすぎなかった。しかし、彼の言葉によって私の思いは明確になったのだ。

ニューデリーから戻るとすぐに、私はパソコンの電源を入れ、お気に入りの検索エンジンに「Monsanto(モンサント)」と打ち込んだ。すると、700万件以上の検索結果が表示された。その検索結果を眺めるかぎり、この会社のイメージは、とうてい清廉潔白とはいえないもので、産業界で最大の問題を引き起こしている企業としか思われなかった。実際「Monsanto」に加えて「pollution(汚染/公害)」──英語でもフランス語でも同じように綴る──というキーワードで検索すると、34万3,000件がヒットした。「criminal(犯罪)」──これは英語とスペイン語で同じ綴りである──も加えると、16万5,000件。「corruption(買収)」にすると12万9,000件。「Monsanto falsified scientific data(モンサントは科学的データを捏造した)」と入力しても11万5,000件がヒットする。

インターネットユーザーとして腕に自信があった私は、それから数週間にわたってネット検索に没頭した。サイトからサイトへとネット・サーフィンを繰り返し、膨大な未分類の資料やレポート、新聞記事を調べてまわった。私は調査をしながら、きわめて複雑なパズルのすべてのピースを忍耐強く一つ一つ組み立てているような感覚に陥った。そして、インターネットで調べたかぎり、この会社は嘘で塗り固められているように思われた。実際、モンサント社のホームページを開くと、この企業は「農業関連企業」を自称しており、その目的は「世界中の農業生産者たちが、より健全な食品を生産することを助け〔……〕自然環境に対する農業の影響を減らすことにある」と書かれている。

しかし、ホームページに書かれていない事実がある。それは、農業に関心を向ける以前には、この企業が20世紀中もっとも巨大な化学企業の一つであり、とりわけプラスチックやポリエステルなどの化学繊維を主として生産していたことである。「私たちは何者なのか/会社の歴史」という見出しのページでは、数十年にわたってこの企業の主要商品だった猛烈な有毒物質について、ただの一言さえ触れられていない。その有毒物質とは、すなわちPCB(ポリ塩化ビフェニル)である。この物質は、かつて変圧器の絶縁体として使用された脂溶性化学物質で、合衆国では「アロクロール」、フランスでは「ピラレーヌ」、ドイツでは「クロフェン」という商品名で、ほぼ50年間にわたって販売された。モンサント社は、1980年代に生産禁止になるまで、この物質の有害性を隠してきたのである。さらに、ダイオキシンを含む強力な除草剤である「2,4,5-T」がある。これは、ベトナム戦争でアメリカ軍が枯葉剤として使用した、オレンジ剤の主成分である。モンサント社はこの物質の有毒性を、科学データを捏造して巧みに否定した。また、「2,4-D」(オレンジ剤の別の主成分)、あるいは現在は使用禁止されている「DDT」(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)も、モンサント社が生産している。さらに、人体への有害性が指摘されている「アスパルテーム」(人工甘味料)も、乳牛や肉牛の成長促進ホルモン(人間や動物の健康に危険を及ぼす可能性があるため、ヨーロッパでは使用が禁止されている)も、モンサント社の商品なのだ。

激しい議論を引き起こした多くの製品が、モンサントの公式の歴史から、すっかり消えてしまっている(乳牛の成長促進ホルモンは例外。これについても、本書で取り上げる)。モンサント社の内部文書をよく調べれば、この企業の過去のいかがわしい歴史が、現在の活動にも影響を与えつづけていることがわかる。というのも、この会社は、次々と起こる訴訟にそなえて、つねに巨額の貯蓄を強いられているからである。

(文:マリー=モニク・ロバン)




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『モンサント──世界の農業を支配する遺伝子組み換え企業』
著:マリー=モニク・ロバン
監修:戸田清
翻訳:村澤真保呂、上尾真道
発売中

3,672円(税込)
565ページ
作品社

購入は書影をクリックしてください。amazonにリンクされています。




DVD『モンサントの不自然な食べもの』
監督:マリー=モニク・ロバン
発売中

ULD-623
4,104円(税込)
アップリンク

購入はジャケットをクリックしてください。amazonにリンクされています。

▼映画『モンサントの不自然な食べもの』予告編




映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』
4月25日(土)より渋谷アップリンク、名古屋名演小劇場、横浜シネマ・ジャック&ベティほか全国順次公開

映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より

監督:ジェレミー・セイファート
出演:セイファート監督のファミリー、ジル=エリック・セラリー二、ヴァンダナ・シヴァ
協力:大地を守る会、生活クラブ生協、パルシステム生活協同組合連合
字幕:藤本エリ
字幕協力:国際有機農業映画祭
配給:アップリンク
2013年/英語、スペイン語、ノルウェー語、フランス語/85分/カラー/アメリカ、ハイチ、ノルウェー

公式サイト:http://www.uplink.co.jp/gmo/
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▼映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』予告編

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