骰子の眼

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東京都 中央区

2015-08-25 21:30


どん底から抜け出すため荒野を目指す女性の自伝を映画化『わたしに会うまでの1600キロ』

「原作者シェリル・ストレイドの友達になりたいと思った」ジャン=マルク・ヴァレ監督インタビュー
どん底から抜け出すため荒野を目指す女性の自伝を映画化『わたしに会うまでの1600キロ』
映画『わたしに会うまでの1600キロ』より ©2014 Twentieth Century Fox

『ダラス・バイヤーズクラブ』のジャン=マルク・ヴァレ監督が、1995年の夏3ヵ月をかけて1600キロもの自然歩道踏破に挑んだ女性シェリル・ストレイドの手記を映画化した『わたしに会うまでの1600キロ』が8月28日(金)より公開される。『ゴーン・ガール』などプロデューサーとしても活躍する女優リース・ウィザースプーンがプロデュース・主演を担当。最愛の母親をガンで亡くし、離婚による傷心とドラッグで身を滅ぼしかけながらも、厳しい道程を歩き通すことで母親の「自由であれ」という言葉にふさわしい自分になることを証明しようとする姿を、過去と現在の時間軸を交錯させながら描いている。その緊張感溢れる編集のほか、音楽についても、サイモン&ガーファンクルの「コンドルは飛んで行く」など主人公シェリルが歩き続ける間に口ずさむ歌やヒッチハイクの車の中で流れる音楽のみで構成することで、彼女の抜き差しならない状況を一緒に体験しているようなスリリングな気分を、そしてその先のこの上ない開放感を味あわせてくれる。第87回アカデミー賞では、リース・ウィザースプーンが主演女優賞に、シェリルの母親役を演じたローラ・ダーンが助演女優賞にノミネートされた。公開にあたりwebDICEではジャン=マルク・ヴァレ監督のインタビューを掲載する。

原作者シェリルの声に忠実になること

──この作品はシェリル・ストレイドによるベストセラーを小説家/脚本家のニック・ホーンビィが脚色しています。最初に脚本を読んでどのような感想を持ちましたか?

本作は、ある女性が人生を変えるためにしたことを描いた作品だ。彼女が選んだのはトレッキングという方法だ。当時、彼女にはつらいことが続き、人生観が変わるような経験を求めていた。そして100日間かけ、1600キロを旅した結果、シェリルは気づいたんだ。これぞまさに、彼女が求めていた体験だった。つまり、平穏な気持ちで過ごすことさ。

映画『わたしに会うまでの1600キロ』ジャン=マルク・ヴァレ監督
映画『わたしに会うまでの1600キロ』ジャン=マルク・ヴァレ監督

私がこの作品を選んだのではなく、作品が私を選んだんだ。チームの一員になれて光栄だったし、この物語を世界に伝えることができて良かった。シェリルの友達になりたいと思った。彼女のストーリーを読んで、地球という惑星で、荒野の中で、我々がどれほど小さな存在か、自然と深くつながっているか、どれだけ力強い存在になり得るかについて考えた。映画を原作と同じように感動的にするにはどうすればいいか?その答えは、シェリルの声に忠実になることだ。シェリルは生と死、愛と悲しみについて、徹底した率直さで考える。そして何が悪いかを知ろうとするんだ。

Cheryl Strayed
『わたしに会うまでの1600キロ』原作者のシェリル・ストレイド(2012年) via Sam Beebe's Photostream

──この物語は、監督自身の境遇とも深く結びついているそうですね。

最初に脚本を読んだ時には、感動すると同時に感傷的になってしまったよ。僕は2010年に母をガンで亡くした。母は72歳だったから、シェリルの親ほど若くないが、シェリルの悲しみを僕自身の体験と重ね、深く共感したんだ。彼女はなんとかその苦しみから逃れたいと思っていた。シェリルは立ち直るまで4年間が必要だった。思えば、僕の母親もとても強い女性だったんだ。母のおかげで僕も強くなれた。僕はとてもつつましい家庭に生まれたんだ。そんなところにもシェリルとの共通点を感じる。彼女の悲しみは僕にはよく分かる。そして、映画を作るということは2年間、毎日同じ物語と向き合うということだ。こういう内容なら僕自身も喜んで関わりたいと思ったよ。

リース・ウィザースプーンにとって果敢な挑戦となった

──シェリル・ストレイド本人も撮影に立ち会ったと聞きました。

シェリルは技術アドバイザーのような存在だった。ローラ・ダーンやリース・ウィザースプーンも彼女に電話し、いろいろ質問を投げかけていたようだ。シェリル自身のことや、母親であるボビーとの関係について聞いていた。現場でもシェリルのことは大歓迎していたよ。僕にとってはすごく心強い存在だった。技術的な問題がある時には助言を求め、「カット」と叫ぶたびに彼女に確認を取った。撮影の直前に質問することもあった。ディテールが大事だからね。

映画『わたしに会うまでの1600キロ』より ©2014 Twentieth Century Fox
映画『わたしに会うまでの1600キロ』より ©2014 Twentieth Century Fox

シェリルは撮影現場でもとても謙虚で、アーティストとしての僕らの仕事に敬意を払い、映画化を見守ってくれた。僕らに疑問がある時には、すぐに答えてくれたよ。どんな風にバックパックを背負っていたのかとか、火をおこした方法とか、テントの張り方まで何でも教えてくれた。とても忍耐力のある人だ。シェリルの立ち会いには僕らも感激したし、彼女自身も感動していたようだよ。リースは僕が「カット」と言いづらいくらい、全身全霊でシェリルを演じていた。そんな時、振り返ってシェリルの顔を見ると、目を赤くしているんだ。シェリルは本当にすばらしい人さ。彼女との友情は一生続くと思うよ。

実は、編集の段階でもシェリルが立ち会ってくれて、いくつかアドバイスをくれたんだ。彼女も一緒にこの作品を作ったんだよ。今も生きている人の自伝だからね。作者に敬意を払うのは僕らの義務でもある。

映画『わたしに会うまでの1600キロ』より ©2014 Twentieth Century Fox
映画『わたしに会うまでの1600キロ』より ©2014 Twentieth Century Fox

──リース・ウィザースプーンの、シェリルという役柄に対する挑戦についてはいかがでしたか?

『ダラス・バイヤーズクラブ』のマシュー・マコノヒーもそうだが、リースも本を読んだ瞬間に気に入り、シェリルの人生や人柄に深く共感したそうだ。リースもつつましい家族のもとで生まれ育った。だから、よく理解していたよ。この主人公の人となりをね。難しい役であることは承知の上だったんだ。いつものリースの役とは違い、彼女にとって果敢な挑戦となった。とても謙虚にこの役を演じていたよ。エゴとは無縁の人だ。

──ローラ・ダーン演じるシェリルの母親のボビーについては?

ローラはなにか新しいこと、クレイジーで心に訴えることをやろうとしていた。彼女は勇ましいファイターなんだ。彼女に新しいシーンを作ったほどだ。

映画『わたしに会うまでの1600キロ』より ©2014 Twentieth Century Fox
映画『わたしに会うまでの1600キロ』より、シェリルの母親ボビーを演じたローラ・ダーン(右) ©2014 Twentieth Century Fox

シェリルの心の中から聞こえてくるような音楽

──撮影についてですが、撮影監督のイヴ・ベランジェは、リアルな効果を生み出すために、手持ちのデジタル・カメラで人口の照明をほとんど使わずに撮影したそうですね。

たいていはリースのすぐ側にいて、彼女と一緒に歩いた。彼女の顔に近い位置にいることで、彼女が見ているものを容易に見られるし、何を考えているか感じることができるからだ。時には、彼女の姿を荒野の中、自然の美の中の“小さな存在”として遠く離れて見ることも重要だった。

映画『わたしに会うまでの1600キロ』より ©2014 Twentieth Century Fox
映画『わたしに会うまでの1600キロ』より ©2014 Twentieth Century Fox

──では、音楽の使い方について教えてください。

トレイルのシーンでは、ぼんやりした形で音楽を流し、残響効果を使い、シェリルの心の中から聞こえてくるような印象を与えようとした。まるで、彼女が歌を思い出そうとしているかのように、遠くに低く流れる音にした。その音楽によって、ゆっくりとフラッシュバックのシーンに移り、またそこから抜け出す手法だ。フラッシュバックのシーンでは、カー・ラジオやCDプレーヤーから音楽が流れているようにした。だから、シェリルが実際に聞いている音楽を観客も聞くことになる。映画の舞台は1995年だから、あの時代の優れた音楽を選ぶようにした。サイモン&ガーファンクルの「コンドルは飛んで行く」は、シェリルが歌をハミングするから、彼女がトレイルを歩いている時に常に流れている曲だ。終わりに近付いた時だけ、感情を爆発させるために、サイモン&ガーファンクルが歌う曲を流したんだ。

(オフィシャル・インタビューより)



ジャン=マルク・ヴァレ(Jean-Marc Vallee) プロフィール

1963年、カナダ、ケベック生まれ。1995年『Liste Noire』で監督デビュー。フランス語で撮った『C.R.A.Z.Y.』(05)がトロント国際映画祭最優秀カナダ映画賞を始め数々の賞に輝き、カナダの国内興行収入でトップの成績を収める。その後、『ヴィクトリア女王 世紀の愛』(09)が、アカデミー賞衣装デザイン賞を始め数々の賞を受賞し、主演のエミリー・ブラントがゴールデン・グローブ賞など多数のノミネートを受ける。続くヴァネッサ・パラディ主演の『カフェ・ド・フロール』(11)では、脚本と編集も手掛ける。そしてトロント国際映画祭でプレミア上映された『ダラス・バイヤーズクラブ』(13)が大絶賛され、アカデミー賞に作品賞他6部門でノミネートされ、マシュー・マコノヒーとジャレッド・レトーが主演と助演のW受賞を果たし、映画批評家協会賞を総なめにした。最新作はジェイク・ギレンホール、ナオミ・ワッツ出演の『Demolition』(15)。




映画『わたしに会うまでの1600キロ』
2015年8月28日(金)、TOHOシネマズシャンテ他全国ロードショー

映画『わたしに会うまでの1600キロ』より ©2014 Twentieth Century Fox
映画『わたしに会うまでの1600キロ』より ©2014 Twentieth Century Fox

スタートしてすぐに、「バカなことをした」と後悔するシェリル。今日から一人で砂漠と山道を歩くのだが、詰め込みすぎた巨大なバックパックにふらつき、テントを張るのに何度も失敗し、コンロの燃料を間違ったせいで冷たい粥しか食べられない。この旅を思い立った時、シェリルは最低の日々を送っていた。どんなに辛い境遇でもいつも人生を楽しんでいた母の死に耐えられず、優しい夫を裏切っては薬と男に溺れていた。遂に結婚生活も破綻、このままでは残りの人生も台無しだ。母が誇りに思ってくれた自分を取り戻すために、一から出直すと決めたのだ。だが、この道は人生よりも厳しかった。極寒の雪山、酷暑の砂漠に行く手を阻まれ、食べ物も底をつくなど、命の危険にさらされながら、自分と向き合うシェリル。果たして彼女が、1600キロの道のりで見たものとは──?

監督:ジャン=マルク・ヴァレ
出演:リース・ウィザースプーン、ローラ・ダーン、トーマス・サドスキー
脚本:ニック・ホーンビィ
原作:シェリル・ストレイド
撮影:イヴ・ベランジェ
音楽:スーザン・ジェイコブス
原題:WILD
日本語字幕:佐藤恵子
配給:20世紀フォックス映画
2014年/アメリカ/英語/カラー/シネマスコープ/116分

公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/1600kilo/
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▼映画『わたしに会うまでの1600キロ』予告編

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