骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2016-04-23 15:30


移民・教育・失業…イタリアの現実を映画で体験する―特集『映画で旅するイタリア』

渋谷アップリンクでの月1上映企画、日本未公開作・人気作6作品を紹介
移民・教育・失業…イタリアの現実を映画で体験する―特集『映画で旅するイタリア』
映画『モスクでピッツァ!?』より

イタリア映画の翻訳、配給、本、絵本の翻訳などを中心にイタリア文化を紹介する団体・京都ドーナッツクラブによるイタリア映画の連続上映イベント『映画で旅するイタリア』が、昨年に引き続き今年も4月26日(火)より渋谷アップリンクで開催される。
4月から9月まで、京都ドーナッツクラブによりセレクトされたイタリア映画の新たな潮流を代表する作品や人気作を上映。毎回、ドーナッツクラブ代表の野村雅夫さんらによるトークも実施され、イタリア映画の魅力を多角的に知ることができる6ヵ月のイベントとなっている。開催にあたり、京都ドーナッツクラブのメンバー・二宮大輔さんに6作品の観どころを解説してもらった。




“非イタリア化”が進むイタリア映画界の現在

最近のイタリア映画の傾向として言えるのは非イタリア化だ。大御所のジュゼッペ・トルナトーレやパオロ・ソレンティーノが新作を国外で撮影し、マッテオ・ガローネとガブリエレ・サルヴァトレスが、今までのイタリア映画に存在しなかったファンタジーやSFに挑戦する。一方で、イタリア国内で活動を始める外国籍の監督も見受けられる。逼迫する経済状態とグローバリズムがそうさせるのだろうか。ここまで国内外の境界が曖昧になると、改めてイタリア映画のアイデンティティについて考えずにはいられない。そして、それは進化と呼ぶべるものなのだろうか。

『映画で旅するイタリア』では、そんなイタリアの現状をよく表した6本の映画をセレクトした。企画者である私たち京都ドーナッツクラブが提示したいのは、観光としての旅ではなく、生々しいイタリアを体験する旅だ。観客の皆さんには、どうか映画を鑑賞して、イタリアという現実世界に叩き落とされてほしい。




4月26日(火)19:30上映

『モスクでピッツァ!?』

移民2世の監督が描くヴェネチアのイスラム教コミュニティー

映画『モスクでピッツァ!?』より ©2015 BOLEROFILM
映画『モスクでピッツァ!?』より

中東クルディスタンにルーツを持つイタリア生まれの若き映像作家ファリボルツ・カムカリが2015年に発表したコメディー。モスクを追い出されたヴェネチアのイスラム教コミュニティー。その神聖な場所は今風な美容室に様変わり。コミュニティーの面々は、アフガニスタンから送り込まれてきた若き指導者サラディーノとともに、モスク奪還のために奮起する。イスラム教=テロという現在のヨーロッパで持たれがちな否定的な偏見を見事に裏切り、登場人物は皆どこかとぼけていて愛らしい。監督のカムカリは、自らのルーツである中東という主題にこだわり作品をつくり続けているが、コメディーを手掛けるのは今回が初めて。ジャンルは違うが、移民2世である彼独自の視点でムスリムを描くという本質は同じだ。原題の"Pitza e datteri"は、「ピッツァ」がアラブ風になまった造語「ピトザ」と「ナツメヤシ」。イタリアにおけるぎこちないムスリム受容を端的に表したタイトルだ。

監督:ファリボルツ・カムカリ(Fariborz Kamkari)
原題:Pitza e datteri
2015年/イタリア/カラー/92分
配給:ADRIANA CHIESA ENTERPRISES
日本初公開




5月30日(月)19:30上映

『ローマの教室で~我らの佳き日々~』

高校教師と生徒の触れ合いをベテラン監督が描く

映画『ローマの教室で〜我らの佳き日々〜』より © 2011 BiancaFilm
映画『ローマの教室で~我らの佳き日々~』より

レプブリカ紙の寄稿などで確かな人気を誇る教師兼作家マルコ・ロドリ原作のヒューマンドラマ。原作は小説ではなくエッセイ集。作者ロドリは、職場であるローマ郊外の高校における生徒との触れ合いを時に冷笑的に、時にコミカルに綴っている。類似の文学作品は、アンドレア・バイヤーニ『Domani niente scuola』(『明日は学校がない』未邦訳)やアルビーノ・ベルナルディーニ『Un anno a Pietralata』(『ピエトララータの一年』未邦訳)など秀作揃いだ。学校で生徒たちと一緒におりさえすれば、話のネタに事欠かないほど続々と問題が勃発するということだろうか。移民、落第、子供に無関心な親。ベテラン監督ジュゼッペ・ピッチョーニが短いエッセイを繋ぎ合わせて一本の映画に変身させた。2014年には日本でも全国公開されている。

監督:ジュゼッペ・ピッチョーニ(Giuseppe Piccioni)
原題:Il rosso e il blu
2012年/イタリア/カラー/101分
配給:クレストインターナショナル




6月21日(火)19:30上映

『俺は平凡イタリアン』

下品なダメ男が主人公のコメディー

映画『俺は平凡イタリアン』より ©2015 Medusa Film
映画『俺は平凡イタリアン』より

一部で絶大な人気を誇る芸人マッチョ・カパトンダが監督と主演を務めたコメディー。彼の人気の秘密は卓越した笑いのセンスにある。イタリアの最先端の笑いには、周知の事実である「イタリアのダメっぷり」を自虐するものが多い。テレビで活躍するカパトンダは、架空の映画の予告編をつくるという手法で、その自虐を体現した。その延長線としてつくったのが、『俺は平凡イタリアン』だ。人間の脳の働きを2%に抑える薬を飲むことで、別人に生まれ変わった主人公のサクセス・ストーリー。真面目だった主人公が、下品なダメ男へと変貌する。この堕落した姿こそが平凡イタリアンだというのが、カパトンダの主張だ。また、町のホームレスが「ワイファイのパスワードを恵んでください」とすがりつく一場面は、80年代の人気B級コメディー『ファントッツィ』シリーズに見る現代社会への皮肉を思い出す。新しいようで、古いイタリアの笑いを受け継いだ作品なのかもしれない。

監督:マッチョ・カパトンダ(Maccio Capatonda)
原題:Italiano medio
2015年/イタリア/カラー/86分
配給:Medusa Film
日本初公開




7月26日(火)

『幸せのバランス』

人生を転げ落ちる男を通し市民の生活を活写

映画『幸せのバランス』より ©2014 Action Inc.
映画『幸せのバランス』より

俳優としても活躍するイヴァーノ・デ・マッテオの4作目となる映画。日常から社会問題を切り取る彼だが、本作では夫婦生活、労働賃金、失業問題という、イタリア人の生活にとって最も身近なテーマで勝負している。浮気がばれて妻子と別居することになったジュリオ。お役所勤めで月給は1,200ユーロ(日本円で約145,000円)。家賃に娘たちの養育費にと、生活は困窮する一方。野菜の卸市場で直接手渡しの日雇いバイト、住居も転々として挙句の果てに車中泊。人生を転げ落ちる男の姿を名優ヴァレリオ・マスタンドレアが巧みに演じている。本作で2012年ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門に選ばれたイヴァーノ・デ・マッテオ監督は、これからが期待されるイタリア人監督の一人だ。

監督:イヴァーノ・デ・マッテオ(Ivano De Matteo)
原題:Gli equilibristi
2012年/イタリア、フランス/カラー/107分
配給:Action Inc.




8月30日(火)

『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』

ヴェネチア国際映画祭金獅子賞のドキュメンタリー

映画『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』より © 2013 DocLab
映画『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』より

国際的評価の高いジャンフランコ・ロージ監督のドキュメンタリー映画。ローマ郊外を走る全長70キロの大型環状道路GRA(Grande Raccordo Anulare)の周辺に住む人々の生活風景を収めた静かな大作。害虫の調査をする植物学者、車中でタバコをふかす娼婦、母親のもとを訪れる救急隊員。荒んだ郊外に浮かび上がるのは、コロッセオもヴァチカンもないもう一つのローマだ。原題は、中世の騎士道物語に出てくる聖杯Sacro Graalをもじって『Sacro GRA』という。神聖さとはほど遠い郊外にこのタイトルをつけたのは、皮肉というだけではなく、何もないこの地にも美しさを見出せるというメッセージかもしれない。2013年、本作がヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を獲得した直後には、「あなたたちのGRAが金獅子賞を獲った」の文字が、環状道路の電光掲示板に踊った。

監督:ジャンフランコ・ロージ(Gianfranco Rosi)
原題:Sacro GRA
2013年/イタリア、フランス/カラー/92分
配給:シンカ




9月27日(火)

『越境の花嫁』

国境を越える仮面花嫁夫婦を追うドキュメンタリー

映画『越境の花嫁』より ©2015 Gina Films
映画『越境の花嫁』より

本イベントの最後を飾るのは2014年ヴェネチア国際映画祭で特別上映された『越境の花嫁』。ミラノ中央駅のカフェでコーヒーを飲んでいたイタリア人記者ガブリエーレ・デル・グランデ、パレスチナの詩人カレド・ソリマン・アル・ナッシリー、翻訳家タレク・アル・ヤーブル。彼らがアラビア語で会話をしているのを耳にした5人のパレスチナ人たちが、「スウェーデン行きの列車はどこから出る?」とたずねる。ミラノ発スウェーデン行きの列車など存在しない。彼らは戦禍を逃れ地中海経由でイタリアに着いたばかりの難民で、社会福祉の先進国スウェーデンを目指していたのだ。ガブリエーレたちは、5人が密入国者として逮捕されないように結婚式の格好で移動する計画を発案。だが、肝心の花嫁役が見つからない。しまいにはタレクが「僕が女装する」と言い出すほど、先行きが見えなかった。なんとか花嫁役も加えて、国境を越える旅を始める仮面花嫁夫婦の一行。常に不安と隣り合わせで旅を続ける難民たちの姿は、思わずうならされる。企画、撮影、編集に至るまで、ガブリエーレが友人、知人たちと作り上げた手作りのドキュメンタリー映画だ。

監督:アントニオ・アウグリアーロ、ガブリエーレ・デル・グランデ、カレド・ソリマン・アル・ナッシリー(Antonio Augugliaro, Gabriele Del Grande, Khaled Soliman Al Nassiry)
原題:Io sto con la sposa
2014年/イタリア、パレスチナ/カラー/89分




(文:二宮大輔)



二宮大輔(京都ドーナッツクラブ) プロフィール

関西学院大学卒業後、ローマ第三大学に入学し、マフィア文学の第一人者レオナルド・シャーシャに関する論文で学士号を取得。イタリア語検定一級、通訳案内士(イタリア語)。




『映画で旅するイタリア2016』チラシ

『映画で旅するイタリア2016』
4月26日(火)、5月30日(月)、6月21日(火)、
7月26日(火)、8月30日(火)、9月27日(火)
会場:渋谷アップリンク・ファクトリー

料金:前売一般1,500円/当日一般1,800円/UPLINK会員(前売・当日)1,300円
後援:イタリア文化会館
ご予約は下記より
http://www.uplink.co.jp/event/2016/43382

京都ドーナッツクラブ公式サイト:http://www.doughnutsclub.com/


▼映画『モスクでピッツァ!?』海外版予告編

▼映画『ローマの教室で~我らの佳き日々~』予告編

▼映画『俺は平凡イタリアン』海外版予告編

▼映画『幸せのバランス』予告編

▼映画『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』予告編

▼映画『越境の花嫁』海外版予告編

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