骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2016-06-09 23:45


運命に抗え!少女たちは5つの頭を持つ怪物、トルコ人監督が語る『裸足の季節』

アカデミー・ノミネート、結婚を強制される姉妹の反抗
運命に抗え!少女たちは5つの頭を持つ怪物、トルコ人監督が語る『裸足の季節』
映画『裸足の季節』より © 2015 CG CINEMA – VISTAMAR Filmproduktion – UHLANDFILM- Bam Film – KINOLOGY

トルコのデニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督の長編デビュー作で、アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた映画『裸足の季節』が6月11日(土)より公開。両親を亡くし祖母の家で外出を禁じられ暮らしている5人姉妹が、古い慣習に則り家族が決めた結婚相手にひとりずつ嫁がされていくことに抵抗を試みる姿を描いている。webDICEでは、デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督のインタビューを掲載する。

叱責されるシーンはティーンの私に実際に起きたこと

──監督はトルコ・アンカラ生まれですが、現在ではほぼフランス在住ですね。デビュー作をトルコで撮影したのはなぜですか?

家族のほとんどはトルコ在住で、私自身もずっと行き来してきました。トルコを舞台にした物語に興味がひかれるのは、トルコには活気がありすべてが変化しているからです。近年、国はより保守的な方向へと舵を切りましたが、それでもパワーやエネルギーを感じます。信じられないほどフィクションの宝庫でもあるのです。

映画『裸足の季節』デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督
映画『裸足の季節』デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督

──監督自身の経験は映画に反映されていますか?

冒頭で、少女たちが海辺で少年たちの肩によじ登り、その後、暴力的なまでに叱責されるシーンがありますが、あれはティーンだった頃の私に実際に起きたことです。ひとつだけ違うのは、当時の私は恥ずかしくて顔を伏せ、まったく反抗しませんでした。抗議できるようになるまで何年もかかったのです。

登場人物をヒロインにしたかった。彼女たちの勇気が報われるものにしたかったのです。私は5人の少女を、5つの頭を持つ怪物だととらえていていました。物語から一人ずつ脱落していくたびに、頭を失くしていくのですが、最後に残った者が成功するというイメージを持っていました。姉たちが罠にかかってしまったからこそ、一番年下のラーレは彼女たちの運命を拒絶しました。ラーレは、私が夢見たすべてを凝縮した存在です。

映画『裸足の季節』より © 2015 CG CINEMA – VISTAMAR Filmproduktion – UHLANDFILM- Bam Film – KINOLOGY
映画『裸足の季節』より、五女・ラーレ役のギュネシ・シェンソイ © 2015 CG CINEMA – VISTAMAR Filmproduktion – UHLANDFILM- Bam Film – KINOLOGY

トルコは保守的な女性自身が男尊女卑の掟を作っている

──トルコの地方では、男尊女卑がいまだに強く残っているという印象を持つのですが、実際にそうなのでしょうか?男性だけでなく、大人の女性の意識もそうである印象を受けます。その意識に一石を投じたいという意図はあるのでしょうか。

トルコにはいろんな部分、いろんな考えを持っている人がいます。ですから、すべての人が同じ考え方をしている訳ではありません。一方で、保守的で家父長制度がいまだに根付いているところもあれば、とても自由な女性がいるところもあります。トルコでは他の国に先駆けて、女性の参政権が認められました。しかし、保守的な考えの人たちもいて、女性自身が男尊女卑の掟を作っています。そして、それを守るために女性自身がその存続に加担している部分があります。この映画だと祖母がそれにあたります。

オバマ大統領が話していましたが、人種差別問題のなかにある大きな問題というのは、被害者側が問題を外に出さずに、内側にずっと秘めていることだということです。私も、そうした掟を守るために、自分自身に問題提起をしないということに問題があるのだと思います。

映画『裸足の季節』より © 2015 CG CINEMA – VISTAMAR Filmproduktion – UHLANDFILM- Bam Film – KINOLOGY
映画『裸足の季節』より © 2015 CG CINEMA – VISTAMAR Filmproduktion – UHLANDFILM- Bam Film – KINOLOGY

──オーディションやスカウトで一目ぼれした少女たち。決め手や、監督から見たそれぞれの魅力をひとことずつ教えてください。

まず、キャスティングディレクターを決めました。彼女が、私がオーディションするべき数百人の人を集めてくれました。彼女に頼んだことは、オーディションではすべての人に同じことをしてもらうことです。今回の姉妹役についてですが、ひとりは演技経験があり、ひとりは空港でスカウトしました、他の3人はオーディションを受けてもらいました。彼女たちに演技経験があるかどうかに興味はありませんでした。それよりも私が彼女たちを演技指導できるかどうかが重要でした。それには、彼女たちの性格も問題になってきます。

映画『裸足の季節』より © 2015 CG CINEMA – VISTAMAR Filmproduktion – UHLANDFILM- Bam Film – KINOLOGY
映画『裸足の季節』より © 2015 CG CINEMA – VISTAMAR Filmproduktion – UHLANDFILM- Bam Film – KINOLOGY

ラーレ役のギュネシは、とても丁寧で優しくてそして控えめなところがあります。ラーレとは少し違いますが、とても強い意志、自由さを持っていたので、彼女であれば演技経験がなくてもこの壁を乗り越えることができるだろうと思いました。何より、彼女はとても頭がいい。本質的にはラーレに近いものを持っている。そしてとにかく映画映りがとてもいい。洗練された内面を持っています。

映画『裸足の季節』より © 2015 CG CINEMA – VISTAMAR Filmproduktion – UHLANDFILM- Bam Film – KINOLOGY
映画『裸足の季節』より、五女・ラーレ役のギュネシ・シェンソイ © 2015 CG CINEMA – VISTAMAR Filmproduktion – UHLANDFILM- Bam Film – KINOLOGY

四女のヌルを演じたドアもとても強いものを持っていました。サッカー会場で騒ぐシーンは、彼女の力強さが出ていると思います。グループで演技レッスンをしているときも、彼女の力強さが際立っていました。怒って椅子を壊すシーンを彼女にしてもらったのには、そういった理由があります。

映画『裸足の季節』より © 2015 CG CINEMA – VISTAMAR Filmproduktion – UHLANDFILM- Bam Film – KINOLOGY
映画『裸足の季節』より、四女ヌル役のドア・ドゥウシル © 2015 CG CINEMA – VISTAMAR Filmproduktion – UHLANDFILM- Bam Film – KINOLOGY

エジェ役のエリットが唯一演技経験のある女優でした。彼女が、キャストで一番シナリオの繊細な部分を理解していました。彼女たちは5人で1人、1人で5人のようなまとまったグループになっていました。撮影の時、私は一人に内容を話し、それを伝えてもらうという方法をとっていました。そういうときに、よくエリットに伝えていました。彼女がみんなに伝えてくれるからです。エジェとラーレとソナイ、この3人はどちらかというと攻撃性を持っている。ヌルとセルマはどちらかというとグループでいたい、他の人についていくような感じでした。

映画『裸足の季節』より © 2015 CG CINEMA – VISTAMAR Filmproduktion – UHLANDFILM- Bam Film – KINOLOG
映画『裸足の季節』より、三女エジェ役のエリット・イシジャン © 2015 CG CINEMA – VISTAMAR Filmproduktion – UHLANDFILM- Bam Film – KINOLOGY

セルマ役のトゥーバは子供っぽさ、思春期独特の感動的なものを持っていました。とても美しいと思うと、1日に10cm身長が伸びているんじゃないかと思うほど思春期の子供っぽいところがありました。

映画『裸足の季節』より © 2015 CG CINEMA – VISTAMAR Filmproduktion – UHLANDFILM- Bam Film – KINOLOGY
映画『裸足の季節』より、次女・セルマ役のトゥーバ・スングルオウル © 2015 CG CINEMA – VISTAMAR Filmproduktion – UHLANDFILM- Bam Film – KINOLOGY

長女役のイライダは、一番自身が演じたソナイに近かった。彼女自身、なにか一種の自信のようなものがあって、ロリータ的な要素を持っていました。今回の役柄にはピッタリでした。

映画『裸足の季節』より © 2015 CG CINEMA – VISTAMAR Filmproduktion – UHLANDFILM- Bam Film – KINOLOGY
映画『裸足の季節』より、長女・ソナイ役のイライダ・アクドアン © 2015 CG CINEMA – VISTAMAR Filmproduktion – UHLANDFILM- Bam Film – KINOLOGY

撮影中、女の子たちの感情が伝染した

──光に満ちた、躍動感あふれる映像。特にこだわった点は?なにか参考にしたものはありますか?映画の冒頭の部分では、とにかく光を浴びていること、太陽の輝きがあることがとても重要でした。

ラストシーンに向かうにしたがって、暗いトンネルに入っていきます。ですから最初の光はとても重要でした。そして、ドラマ的な意味でも光が動くことはとても重要でした。私が参考にしたのは、テレンス・マリックの『天国の日々』です。あの自然光を私は思い描いてこの映画を撮影しました。

映画『裸足の季節』より © 2015 CG CINEMA – VISTAMAR Filmproduktion – UHLANDFILM- Bam Film – KINOLOGY
映画『裸足の季節』より © 2015 CG CINEMA – VISTAMAR Filmproduktion – UHLANDFILM- Bam Film – KINOLOGY

──撮影中、妊娠していたことは、作品にどんな影響を及ぼしましたか?

もちろん、これは計画的だったわけではありません。嬉しい驚きでした。妊娠していたことによって、私自身とても落ち着いていたように思います。なぜなら、この撮影に入る数日前に、この映画のプロデューサーが辞退するという大変なことがありました。嵐のような撮影だったのです。だからこそ、落ち着いて、そして静かに平穏にいようと心がけました。また、女の子たちと撮影を行ったこともあり、一人が笑ったり、泣いたりすると、それが伝染するような雰囲気がありました。私も、感情的になっていたと思います。それは妊娠していたからかもしれません。

(オフィシャル・インタビューより)



デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン(Deniz Gamze Ergüven) プロフィール

1978年6月4日、トルコ・アンカラ生まれ。フランス、トルコ、アメリカをまたぎ、非常に都会的に育った。熱心なシネフィルであり、ヨハネスブルグ大学で文学、同大学院修士でアフリカの歴史を専攻後、フランス国立映画学校(La FEMIS)の監督専攻で学んだ。卒業制作の「Bir Damla Su (Une goutte d’eau)」はカンヌ国際映画祭のオフィシャル・セレクションで上映され、ロカルノ映画祭のレオパーズ・オブ・トゥモロー賞を受賞した。ヴェールを被った女性がガムを噛むショットから始まるこの19分の短篇映画は、若いトルコ人女性(監督自ら演じている)が、家父長的な考え方と彼女のコミュニティにいる男性の権威主義に反抗する物語である。フランス国立映画学校卒業後、1992年のロサンゼルス暴動のサウス・セントラルを舞台にしたデビュー作の制作に取りかかった。「Kings」と題された企画は、Emergence、シネフォンダシオン・ワークショップ、サンダンス脚本ラボに選出されたが現在休止中。




映画『裸足の季節』ポスター

映画『裸足の季節』
6月11日(土)シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開

13歳のラーレは5人姉妹の末っ子。10年前に両親を事故で亡くし、いまは祖母の家で叔父とともに暮らしている。学校生活を謳歌していた美しい姉妹たちはある日突然、家に閉じ込められてしまう。古い慣習のもと、電話を隠され、扉には鍵がかけられ、自由を奪われた「カゴの鳥」となった彼女たちは、ひとりひとり見知らぬ男のもとへと嫁がされる。そんな中、自由を取り戻すためラーレは秘かにある計画をたてる……。

監督:デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン
音楽:ウォーレン・エリス
出演:ギュネシ・シェンソイ、ドア・ドゥウシル、トゥーバ・スングルオウル、エリット・イシジャン、イライダ・アクドアン、ニハル・コルダシュ、アイベルク・ペキジャン
配給:ビターズ・エンド
2015年/フランス=トルコ=ドイツ/97分

公式サイト:http://www.bitters.co.jp/hadashi/

▼映画『裸足の季節』予告編

レビュー(0)


コメント(0)