骰子の眼

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東京都 渋谷区

2018-04-06 17:30


舞台は厚木基地のある町 "最新"のヒップホップ日本映画『大和(カリフォルニア)』

NORIKIYO、GEZANらミュージシャンが出演、韓英恵主演作 宮崎大祐監督インタビュー
舞台は厚木基地のある町 "最新"のヒップホップ日本映画『大和(カリフォルニア)』
映画『大和(カリフォルニア)』 ©DEEP END PICTURES INC.

神奈川県大和市を舞台にティーンのラッパーの日常を米軍基地や貧困といった問題も交えながら描く映画『大和(カリフォルニア)』が4月7日(土)より公開。webDICEでは宮崎大祐監督のインタビューを掲載する。

米軍基地の航空機騒音が止まない町を舞台に、母親、兄、カリフォルニアからやってきた母親の恋人の娘との関係を通して、自らの言葉を探していく主人公サクラを演じた韓英恵の存在感に圧倒される。設定から行き場のない日々をサバイブするハードな物語を想像しがちだが、家族や友人との関係や葛藤を経て、地元ののど自慢大会「全部まとめて生きてやる」「現実見ながら夢見るんだ」とラップするサクラのふっきれたような佇まいには、ある種の爽やかささえ覚える。地元相模出身のNORIKIYOといったヒップホップのアーティストだけでなく、割礼の宍戸幸司やGEZANといった日本のオルタネイティブ・ロックを代表するミュージシャンも出演。全編を覆うビートメーカーCherry Brownによる不穏なサウンドトラックの効果もあり“音響映画”としても楽しめる仕上がりとなっている。

「編集が上がったあと、映画全体にどこか物足りなさを感じていた時、音響担当の黄永昌さんが『騒音』を入れる提案をくれました。大和市全体で鳴っている騒音は独特で、戦闘機ひとつとっても種類があるし、丁寧に色んな音を録って重ねていきました。出来上がったものはやっぱりすごく良くなっていて、“音で映画を観る”という可能性を見出すことができました」(宮崎大祐監督)

コミカルさを排除、純粋にラップだけの企画を目指す

──まず、製作の始まりについて教えてください。

2010年に『夜が終わる場所』の撮影をしてから12年の公開までの2年間、次の企画のことを考えていて、ヒップホップ中心の映画にしようと思っていたんです。ただ、やはり当時はヒップホップのもつアングラなイメージはかなり強くて、コミカルさを排除した純粋にラップだけの僕の企画には出資者がなかなか見つからなかったんです。それでも11年ごろから毎週イベントなどを回ってラッパーに出演を依頼したりしていましたね。すぐに『夜が終わる場所』につづく映画を撮らないと、というあせりもありました。

映画『大和(カリフォルニア)』 宮崎大祐監督
映画『大和(カリフォルニア)』宮崎大祐監督

しかし震災もあって、1〜2年どこかぽかんとしていて。そこで、とりあえず脚本の強度をアップすることを目標に大和市の中をロケハンすることにしました。いままで土着的な作品づくりをしたことはなかったんですが、取材に行ったりすることが好きになって歩き回るうち町に相当詳しくなりました。

そして公開は『大和(カリフォルニア)』のあとになるのですが、2014年に『5TO9』(6月に池袋シネマ・ロサにて劇場公開)の撮影にはいったこともあって、じぶんの映画製作に対する勢いがでてきて、『大和(カリフォルニア)』も本格的に動きはじめました。脚本の具体化は、YouTubeで横須賀の海辺で歌っているヤンキー風のフィーメール・ラッパー、メリー・クアントを見たことがきっかけでした。そのイメージがもとになっています。しかしラップができて、芝居ができて、という20人を見つけるのはとても難航しました。時にはディズニーランドで探したり(笑)。クランクインは15年のことで、撮影は9日間という短いものでした。完成したのは2016年の夏でした。

ノイズ・ミュージックとラップを融合

──主人公サクラ役に韓英恵さんを起用した理由は?

主演女優探しに難航しているうちに、ラップではなくお芝居やドラマ中心にシナリオを考えていくようになっていったんです。そこでようやく方向が見えてきて、昔からどうしても出演してほしいと考えていた韓英恵さんにオファーしました。時間をかけて交渉しました。脚本自体も3時間半のものから2時間半のものにスリムアップさせ、かなり撮影が近づいた段階で最終承諾をいただきました。韓さんのラップはほとんど僕が書きましたが、韓さんからこう言いたい、サクラならこういうはず、こんなの用意したんですけど、と提案されることもあったので、それを混ぜながら進めました。ただ体育館のシーンは、韓さんも役に入り込んでいたのか、韓さん度が高いですね。

映画『大和(カリフォルニア)』 ©DEEP END PICTURES INC.
映画『大和(カリフォルニア)』サクラ役の韓英恵 ©DEEP END PICTURES INC.

──参加したミュージシャンたちについて教えてください。

企画段階から“相模のラッパーを出したい”ということは考えていて、そんなとき知人がNORIKIYOさんとつないでくれました。今はもうないのですが当時大和のイオンにタワーレコードが出来まして、僕の数少ない娯楽スポットでした。そこの地元ミュージシャン特集みたいな棚でサイン入りの『EXIT』を購入して、あまりの興奮にSNSでファンメールを送ってしまったほどだったので今回の出演は本当に感慨深いものがあります。曲の中で「大和」の名をだしてくれたミュージシャンはNORIKIYOさんがはじめてなのではないでしょうか。

映画『大和(カリフォルニア)』 ©DEEP END PICTURES INC.
映画『大和(カリフォルニア)』NORIKIYO ©DEEP END PICTURES INC.

『夜が終わる場所』のイベントに出演してもらったこともあるGEZANは、そもそも僕が渋谷WWWでライブを見て、その音楽と若さに衝撃を受けたことが始まりでした。PV「八月のメフィストと」をディレクションしたときも、廃墟や海で過激なスタントを提案したりこなしたりする彼らには、本当に驚かされました。

映画『大和(カリフォルニア)』GEZAN ©DEEP END PICTURES INC.
映画『大和(カリフォルニア)』GEZANと宍戸幸司(割礼) ©DEEP END PICTURES INC.

僕の中でおぼろげに、アメリカからきたけれど日本で独自に発達したノイズ・ミュージックとラップ=レベル・ミュージックを融合したいという気持ちもあって、割礼の宍戸幸司さんにオファーしました。知る人ぞ知る方なので初めてお話するときは本当に緊張しましたがご本人は気さくな方で、以降定期的に新しい音源や未発表の音源を送ってくださいました。撮影時は歌い始めると通りがかりの人たちがみんな立ち止まってしまったほど、圧倒的な空気感がありました。

映画『大和(カリフォルニア)』 ©DEEP END PICTURES INC.
映画『大和(カリフォルニア)』宍戸幸司(割礼) ©DEEP END PICTURES INC.

そして今回サントラをつくってくださっただけでなく出演もしてくださったCherry Brown A.K.A. Lil’Yukichiさんはギャングスター・ラップ×アニオタという作風が実に日本的でおもしろいなと思い2000年代の後半からよく聞いていたのですが、日本におけるサザン・バウンス・ビートの第一人者ということがなによりも大きかったですね。ここ20年、世界のヒップホップ・音楽の中心はアメリカ南部にあると思うのですが、なぜか日本ではいまだ90年代ニューヨークまわりのヒップホップが神聖化されていて、他のヒップホップ映画もしかりでした。しかしこの映画のヒップホップは最新のモードでなければならないという強いこだわりがあったので、Cherry Brownさんにオファーしました。また、これは偶然なのですが、Cherry Brownさんも同じく基地の町・横須賀出身で、お父様が元軍人だったりもして、興味深いつながりでした。

最後のシーンのスクリュー(ヒップホップのビートを低速度で再生したテキサス・ヒューストン発の音楽)は昔から懇意にしてくださっている$UGVRKVNXさんにミックスしてもらいました。スクリューを映画で使用したのはおそらく世界初で、『ムーンライト』(バリー・ジェンキンズ監督)よりも先です。

映画『大和(カリフォルニア)』 ©DEEP END PICTURES INC.
映画『大和(カリフォルニア)』 ©DEEP END PICTURES INC.

逃げ回りながらの基地近くの撮影

──大和市内のロケハンはどのよう進めたのでしょう?

大和市内を車ではなく自分の足で、一駅一駅降りて巡ってみることから始めました。そうするうちに最初のシナリオの設定より面白いロケ地を見つけたり、撮影しようと思っていた場所がなくなっていたりと、発見がたくさんありました。

もともと大和は平屋が多い地域だったことや、母が住んでいた家がそうだったこともあって、平屋を探しました。現在平屋で撮影できるところを探すのは困難を極め、イメージ通りの場所を見つけるのは大変でした。結局、平屋の空き家を知り合いの紹介でみつけて、リサイクルセンターの家具を運び入れて仕上げました。

スタッフも合流してロケハンを重ねていった際に、ゴミの山や、キャンピングカーも見つけました。面白いものは積極的に物語に盛り込んでいきました。キャンピングカーを撮るのはアメリカ映画オタクとしては夢だったので嬉しかったです。でもいわくつきの車だったのでそういった現象や、放置車なので雨漏りがひどくて(笑)。そのほかにも、基地の真下を通る長いトンネルや監視所など面白い場所はいくつもあったのですが、シーン的に上手くはまらなくて結局削ってしまいました。

今ではロケーションサービスになれるくらい大和市に詳しくなっています(笑)。

映画『大和(カリフォルニア)』 ©DEEP END PICTURES INC.
映画『大和(カリフォルニア)』 ©DEEP END PICTURES INC.

──撮影は順調に進みましたか?

ありのままの大和を撮影しようとした今回、撮影現場は厳しいものでした。9日間の撮影のほとんど毎日、警察が注意に来ていましたね。その場所の撮影許可をちゃんと取っていたとしても、「ここらへんはややこしいから、わかってよ」と言われました。MPが来て、自衛隊が来て、地元の警察が来て、説得しながらの撮影でした。

それこそ「ここまでが大和で、あっちがカリフォルニア」のシーンの撮影は特に大変でした。基地のライトが光るのを待って、カメラを設置した途端にMPが来てしまい、芦澤さんがその日たまたま持っていた小さいカメラで撮影に挑みました。その時は韓さん、遠藤さん、芦澤さん、僕の4人だけで撮影を行って、スタッフは四方八方に走って逃げるスタイルをとりましたね。警察が混乱するように。芦澤さんと僕の2人で丘に登って飛行機を撮っていたときも、警察が来て素材を見せるように言われました。「飛行機を撮影できる位置にいる=飛行機を撃てる」ということなんですよ。

ただ、その後フィルムコミッション経由で、今回の撮影を経て、米軍が基地の中の映像を撮っていい、と言っていると聞きました。基地の中は過去おそらく記録がないものなので、近々映画を撮影したいなと思っています。

映画『大和(カリフォルニア)』 ©DEEP END PICTURES INC.
映画『大和(カリフォルニア)』 ©DEEP END PICTURES INC.

“音で映画を観る”

──編集と音響については時間をかけたそうですね。

クランクアップしてからは半年以上、平田竜馬さんと編集に挑みました。僕は編集でカットしていくことが苦手なので、常に客観的意見をもらっていましたね。そうすることによって物語がわかりやすくなった部分に、改めて自分のイメージを重ね合わせていく、というやり方です。シーンやカットの面白さを魅せ、音で気持ち良いようにつないだところもあります。

音響担当の黄永昌さんは僕が映画美学校に通っていた頃からの付き合いになります。当時黄さんは学校の事務局で働いていて、ある時ヒップホップの会話に突然参加してくれたんです。それ以来音楽の話題を介して仲良くなりました。今回、企画のためにずっと前からスケジュールを空けていてくれて、撮影が終わったあとも音録りや整音で長くこの映画に関わってもらいました。

編集が上がったあと、映画全体にどこか物足りなさを感じていた時、黄さんが「騒音」を入れる提案をくれました。大和市全体で鳴っている騒音は独特で、戦闘機ひとつとっても種類があるし、丁寧に色んな音を録って重ねていきました。出来上がったものはやっぱりすごく良くなっていて、“音で映画を観る”という可能性を見出すことができました。

その中でも音楽・騒音など音それぞれの配置やミックスは森永泰弘さんにお願いしています。オープニングの長回しからエンドクレジットまでのシークエンスを1曲の音の塊にしてくれました。

今回の作品はそれもあって観る会場で印象が相当変化するものになっています。映画祭などでいろんな場所を回ってきましたが、劇場史上最高音量で上映にトライしてくれたところもあったくらいで、それぞれの劇場がいろんな試みをしてくれています。今後もそれぞれの場所で新しい試みをしながら上映していけたらと思っています。

映画『大和(カリフォルニア)』 ©DEEP END PICTURES INC.
映画『大和(カリフォルニア)』サクラの家に居候するレイ役の遠藤新菜と母親役の片岡礼子 ©DEEP END PICTURES INC.

──大和市についてはどんな思いを持っていますか?

もともと母の本家が大和なので、親戚もそのほとんどが大和界隈に住んでおり、ぼくも大和を中心に各地を転々としながら育ちました。高校時代から本格的に大和に住むようになりましたが、反抗期の少年にあの騒音はまさに火に油で、毎日毎時間イライラしていましたし、町の誰も憤らないことに強い疑問をいだいていました。今でこそややこしい背景がわかってきたので一概には言えませんが、やはり「慣れ」と「あえて」によって沈黙している方が多いとは思います。大和から基地を追い出したところで、それは他の地域に同じ基地ができることを意味しているわけで。

厚木基地は中がとても広いからなのか、横須賀や沖縄の一部のように周囲の町に米兵が繰り出してくるということはあまりありません。安全・防犯上の理由から高い建物もまわりにないですし、中を覗けないようになっているので、一年に数回あるお祭りの日にパスポートをもって中に入る以外にはなかなかなにが起きているのかわからない状態です。本当にあの騒音だけが一方的なコミュニケーションといいますか、そんな感じです。

大和市は非常に小さい市ですが、北部は田園都市線の終点・中央林間駅があるので、「田園都市」、「横浜の一部」というアイデンティティが強いように思います。撮影が主に行われた大和駅、桜ヶ丘駅周辺やぼくがすむ高座渋谷駅をふくむ南部はより「大和」アイデンティティが強いと思います。神奈川の下町的な猥雑で昭和な雰囲気に基地の影響によるアメリカンな香り、そして定住センター経由でいちょう団地にたくさんお住いの外国人の方々が混ざって今の「大和」アイデンティティを形成しています。

(オフィシャル・インタビューより インタビュアー:樋口泰人)



宮崎大祐(みやざきだいすけ) プロフィール

1980年、神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。2007年に黒沢清監督作品『トウキョウソナタ』に助監督として参加して以来、フリーの助監督として活動。脚本を担当した綾野剛主演、筒井武文監督作『孤独な惑星』が2011年冬に全国公開され、話題を呼ぶ。同年、初の長編作品『夜が終わる場所』を監督。サンパウロ国際映画祭、トランシルバニア国際映画祭など世界中の国際映画祭に出品され、トロント新世代映画祭では特別賞を受賞した。翌年2012年に渋谷ユーロスペースで行われた国内初公開ではのべ三週にわたり、個人での宣伝配給作品としては異例の記録的動員を達成。公開中は連日、アート・ジャンルを横断するイベントを行い、「映画館」という場所の従来のイメージを更新するまったく新しい興行スタイルを提示し大きな話題となった。2013年にはイギリス・レインダンス国際映画祭が選定した「今注目すべき日本のインディペンデント映画監督七人」にも選ばれ、2014年には日本人監督としては実に四年ぶりにベルリン国際映画祭のタレント部門に招待された。直近の活動としては2015年にアジア四ヶ国によるオムニバス映画『5TO9』のうちの一編『BADS』を永瀬正敏主演で監督し、同作が中華圏のアカデミー賞こと金馬影展など様々な国際映画祭で上映された。本作が二本目の長編監督作となる。




映画『大和(カリフォルニア)』
4月7日(土)より新宿K's cinemaほか全国順次ロードショー

監督・脚本:宮崎大祐
出演:韓英恵、遠藤新菜、片岡礼子、内村遥

西地修哉、加藤真弓、指出瑞貴、山田帆風、田中里奈、
塩野谷正幸、GEZAN、宍戸幸司(割礼)、NORIKIYO、
音楽:Cherry Brown、GEZAN、宍戸幸司(割礼)、
NORIKIYO、のっぽのグーニー
撮影:芦澤明子(J.S.C.)
照明:小林誠
美術:高嶋悠
編集:平田竜馬
音響:黄永昌
サウンド・デザイン:森永泰弘
スタイリスト:碓井章訓
ヘアメイク:宮村勇気
助監督:堀江貴大
制作主任:湯澤靖典
カラリスト:広瀬亮一
プロデューサー:伊達浩太朗 宮崎大祐
キャスティング:細川久美子
製作:DEEP END PICTURES INC.
配給:boid
協賛:さがみの国 大和フィルムコミッション
2016/日本・アメリカ/カラー/119分/アメリカン・ビスタ/5.1ch

公式サイト


▼映画『大和(カリフォルニア)』予告編

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