骰子の眼

cinema

2019-05-22 17:45


“ロックンロールの精神に溢れた作品”と絶賛!『メランコリック』ウディネ映画祭で受賞

ヨーロッパ最大のアジア映画祭体験記―田中征爾監督が綴る現地の熱気
“ロックンロールの精神に溢れた作品”と絶賛!『メランコリック』ウディネ映画祭で受賞
「第21回ウディネファーイースト映画祭」壇上で挨拶する『メランコリック』田中征爾監督(中央左)、の主演/プロデューサーの皆川暢二さん(中央右)(FEFF21 © P. Jacob)

2019年4月30日から5月4日までイタリア・ウディネで開催されていたヨーロッパ最大のアジア映画祭、「第21回ウディネ・ファーイースースト映画祭」にて、アップリンク渋谷にて8月公開の映画『メランコリック』が新人監督に贈られるホワイトマルベリー賞を獲得。webDICEでは、映画祭に出席した田中征爾監督によるレポートを掲載する。

映画『メランコリック』は、名門大学を卒業後、うだつの上がらぬ生活を送っていた主人公・和彦が、たまたま訪れた銭湯でバイトを始めるが、その銭湯は閉店後の深夜、風呂場を「人を殺す場所」として貸し出していることを知り……。ひょんなことから人生が動きだしてしまう人間模様を変幻自在な展開とストーリーで描いた、巻き込まれ型サスペンス・コメディ。第31回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門では田中征爾監督に監督賞が贈られた。


イタリアで気付かされた作品の社会性
―ウディネファーイースト映画祭に参加して
文:田中征爾監督(『メランコリック』監督)

2019年4月末から開催された「第21回ウディネファーイースト映画祭(以下 FEFF21)」に、脚本/監督の田中(筆者)と、主演/プロデューサーの皆川暢二くんの2人で参加してきました。初めて制作した長編映画『メランコリック』で、初めての海外映画祭への出品&参加。初めてづくしの旅をレポートしたいと思います。

日本の10連休GWとスケジュールが重なったためか、「東京→北京(3時間待ち)→プラハ(6時間待ち)→ヴェニス」というかなりハードな乗継ぎスケジュール。そしてこの渡航が偶然にも「メランコリック」の劇場公開に関する特報公開日と重なり、それによって各所との連絡事項も多数発生していたため、プロデューサーの皆川くんがとにかく飛行機を降りるなり空港のWi-Fiに接続するのに必死だったのが印象的でした。
プラハの空港では比較的安定した電波を使う事ができ、時差を気にしつつ、広報の近藤さんのSNS投稿に関する指示を気にしつつ、無事に劇場公開の特報リリースを完了。バタついたおかげで6時間のトランジット待ちもあっという間に時間が過ぎ、「こんなに時間あったから少しはプラハの街を覗きたかったな」などと(僕だけ)後ろ髪を引かれつつ、ヴェニス行きの飛行機へ。

■1日目:ヴェニスからウディネ、そしてオープニングセレモニーへ

プラハからの飛行機の出発が遅れ、ヴェニスに到着したのはオープニングセレモニー開始の1時間前。「こりゃ遅れるね」などと言いながら荷物をピックアップし、空港からの送迎車に乗り込み、いざ、ウディネへ。
1時間半ほど車に揺られ、ホテルに到着。シャワー浴びる気満々だったもののそんな時間があるはずも無く、そそくさとスーツに着替え、再びロビーへ。そこで合流したのが現地に長くお住まいの日本人、サイさん。通訳/コーディネーターとして付いてくださるとの事。3人で会場へ向かい、まずは記念写真をパシャリ。そう、僕らは映画祭で映画をアピールするだけでなく、「メランコリック」劇場公開に当たっての宣伝素材やネタを大量に調達するというミッションも負っていたのです。

映画『メランコリック』
FEFF21のメイン会場 Teatro Nuovo前にて田中監督(左)と主演/プロデューサーの皆川さん(右)

オープニングセレモニーが始まり、今回参加しているゲストが作品ごとに呼ばれるごとに、(もちろんまだ作品は見ていないにも関わらず)暖かい拍手。この時点で「ん、なんかみんながすごい歓迎してくれている……?」という雰囲気を早くも察知し、それは後に確信に変わる事になります。
セレモニー内では韓国の超有名女優チョン・ドヨンさんにゴールデン・マルベリー生涯功労賞が授与され、そのまま彼女が主演した映画『Birthday』の上映。

映画『メランコリック』
ゴールデン・マルベリー生涯功労賞のチョン・ドヨンさん(画像中央)

22時頃、会場を移動しみんなでディナー。30時間の移動の疲れがピークに達していたものの、オムニバス映画『十年 Ten Years Japan』の監督さん達や映画祭関係者の方々とテーブルを共にし、イタリア料理に舌鼓を打ちました。

■2日目:『メランコリック』上映

映画『メランコリック』
ウディネの美しい街並み

時差ボケのせいか2人して6時頃に目が覚め、朝食後に街中を30分ほど散策。ああ、ヨーロッパに来たんだなという実感をやっと感じつつ、SABU監督の『jam』を見にTeatro Nuovoへ。 SABU監督が壇上に上がるのを見て、その日の午後に『メランコリック』の上映を控えていた僕らは「ああ、午後はああいう感じで振る舞えばいいんだな!」と勉強させていただいた。とにかく会場の盛り上がりに圧倒され(なにせ1200人以上のキャパに会場)、映画鑑賞後の拍手喝采にも、僕自身がそういう環境に慣れていないせいもあり、一種の畏怖さえ覚えるほど(なんせ映画がすこぶる面白かったので!)。そして「果たして『メランコリック』はこんなに喜んでもらえるんだろうか……?」という不安で心がいっぱいになりました。

そこから、非常に由緒正しいというレストランにてビュッフェ形式のランチをごちそうに。この映画祭のホスピタリティに早くも感動を覚え始めていました。食事中、通訳のサイさんに「イタリア語で挨拶すると喜んでくれますよ」と言われ、日本語で考えた挨拶文をイタリア語に翻訳していただくことに。すると出来上がった文章が予想以上に長く、「これ読めるんだろうか」とまた別の不安が押し寄せ、頑張って練習。

会場入りし、いよいよ『メランコリック』の上映。FEFF21のプレジデント、サブリナが僕らの名前を呼び、壇上へ。僕、それから皆川くんと順に挨拶し、最後に再び僕がマイクを持ってイタリア語の挨拶。
「この映画のタイトルは『メランコリック』ですが、もしこの会場の中にメランコリックな方がいるなら、この映画で笑顔になれると思います」。喜んでくれました。

映画『メランコリック』  FEFF21 © P. Jacob
壇上から挨拶 (FEFF21 © P. Jacob)

映画が始まり、一気に僕の中で緊張が高まります。全くもって海外を意識して作ったわけではないにも関わらず、終始クスクス笑い等のリアクション、そしてとあるシーンでは爆笑が起き、その度にだんだんと緊張がほぐれていきました。
そして映画が終了。拍手喝采(と言わせてください)が起き、会場の皆さんに向かって会釈。慣れないせいでさっさと座ろうとするもサブリナに「もっともっと」と促され、手を振ったり頭を下げたり。戸惑いつつも幸せな数分間でした。
そして、シアターの外で観客の皆さんとコミュニケーション。感想を聞いたり、サインしたり写真を撮ったり、作品についての質問に答えたり。

映画『メランコリック』
上映後の様子

■3日目:FEFF TALKS

この日のメインミッションは作品に関するQ&A「FEFF TALKS」。開始前に、現地の若い女の子が「『メランコリック』の人ですよね?すごいおもしろかったです!」と話し掛けてくれました。上映の翌日になってもこうして声を掛けてもらえる、というのはすごく嬉しいものがあり、更にその後に彼女がくれた感想が「台詞やストーリーは分かりやすく作られているのに、テーマはすごく力強い」という、作り手としてこの上なく嬉しい内容でした。

そしてFEFF TALKS。日本映画のコーディネーターのマークと赤のソファに腰掛け、プレスや他映画祭の関係者、そして一般のお客さんの前でトーク。やはり自主制作映画という事でこの映画の成り立ちについての質問が多く、「皆川くんが発起人となり、僕と磯崎義知の3人でOne Gooseを結成し、アイデアを出し合って物語設定を考え、出来上がった映画が東京国際映画祭で上映された」というストーリーを披露。また、「この映画祭での反応で印象深いものは?」という質問に対しては、先ほどの女の子の感想を紹介しました(その女の子も参加していたのでこちらの気持ちが伝わって良かった)。また、「『高学歴でもインセンティブの高い仕事に就く事ができない人がたくさんいる』という現状はイタリアも同じ」という感想をいただき、この映画がそういった社会性を内包しているという事に気付けたのも、個人的には非常に嬉しかったです。

映画『メランコリック』
FEFF TALKSの様子

■4日目:映画鑑賞

見たい映画が目白押しとなっていたので、この日は特に取材等も無かったため他作品の鑑賞に時間を使いました。
1本目に見たのがマレーシアの『Motif』。一夫多妻制に端を発したサスペンス映画。英語字幕のスピード速く、しかもミステリーなのでややストーリーを追うのが困難ではあったものの、非常に端正に仕上がった映画で存分に楽しみました。
その直後の作品も続けて鑑賞し、こちらは韓国の歴史大作『The Great Battle』。そのタイトル通りと言うべきか、古代中国の戦争が大迫力で描かれおり、上映直後から観客は大喜び。「こんな作品と同じ観客賞を争うのか」と思わず笑ってしまうほどの大作でした。
こうして他国の最新作をヨーロッパという地で鑑賞できるのは、日本で映画館で普通に鑑賞するのとはまた違った、一種の人種的な客観性を帯びた感覚が新鮮でした。

その夜は「Korean Night」というFEFFでは毎回開催されている、大韓航空が主催のイベント。立食パーティ後、カラオケ大会が催されるのが通例。お世話になっているマークがカラオケが大好きとの事で、マイクを独占するのもまた毎年恒例との事でした。みんな大盛り上がりで、これまた非常に楽しいイベントでした。

■5日目:『十年 Ten Years Japan』の鑑賞とメディア取材

この日は最終日。『十年 Ten Years Japan』の上映にあたり、この数日間で仲良くなったこの作品の監督さんたちの舞台挨拶などの様子の写真撮影。映画も鑑賞したのですが、5本のオムニバスそれぞれ非常に完成度の高い作品となっており、同じ若手として(と言っても圧倒的に彼らの方が経験が上ですが)強く刺激を受けました。早川監督、木下監督、津野監督、藤村監督、石川監督、お会いできて本当に良かったです。おもしろかったです!!

映画『メランコリック』
『十年 Ten Years Japan』の監督の面々

16時からはプレスの取材。イタリア国営テレビのインタビューから始まり、映画祭公式プレス、各媒体と順に1時間……の予定が2時間に。僕がちょっと喋り過ぎてしまった可能性が高いです。やはり皆さん「どのようにしてこの映画が企画され、成立したのか」「監督はサラリーマンとして働いてて、いつ撮影したのか」「主演の皆川くんはどのように役作りしたのか(普段の姿と彼が演じたキャラクターにギャップがあるため)」「高学歴なのに劣等感に苛まれているというのは監督の実体験か」といったあたりが気になるようでした。
その日の夜は最後のディナーで、チキンが名物というお店に。愚かにも直前にビッグサイズのケバブを平らげていた僕と皆川くんは終始、他の監督さん達やマーク、映画祭のスタッフさんとのお喋りに興じました。
そして翌朝、映画祭はあと4日間を残す中、後ろ髪を引かれつつ日本へ向けて出発しました。

映画『メランコリック』
プレスの取材に応える皆川さん

■振り返って

初めて制作した長編映画『メランコリック』で、初めての海外映画祭への出品&参加、そしてヨーロッパに来る事自体も初めてで、そんな初めてづくしの旅は、映画人として、そして人として大変に意義深い、素敵な経験となりました。
そして帰国後の5月4日、午前3時頃、現地のスタッフの方から、『メランコリック』が「ホワイトマルベリー賞(新人監督作品賞)」を受賞したという知らせを受けました。他作品のレベルの高さから「上映してもらえるだけでラッキー」と満足していた所への受賞の知らせだったため、非常に驚くと共に本当に嬉しかったです。授賞式の映像を見ると、審査員のフレディ氏(滞在中にも何度か話をし、少々寒くても常に半袖Tシャツの明るくチャーミングな方でした)が「ロックンロールの精神に溢れた作品」と評してくれていました。そんなつもりは無かった(僕自身は王道の人間ドラマを作っているつもりでした)ので、この評価も意外でありつつ、嬉しかったです。

『メランコリック』は2019年8月より、アップリンク渋谷を皮切りに全国順次公開を予定しています。2016年の年末に皆川くんの発案で始まった自主制作映画が、東京国際映画祭でプレミアを迎え、そしてこうしてイタリアの映画祭で皆さんに喜んでもらえて、そして日本国内で劇場公開となり、本当に嬉しく思います。




現在、8月の劇場公開に先駆け銭湯で行われる先行上映会の経費を募るクラウドファンディングを実施中。支援者には銭湯イベント参加権や、全国鑑賞券のほか、銭湯イベントならではの特製グッズなどを特典として準備している。

【PLAN GO:映画『メランコリック』”銭湯”上映会を成功させたい!!】
http://plango.uplink.co.jp/project/s/project_id/77





映画『メランコリック』

映画『メランコリック』
2019年8月、アップリンク渋谷ほか全国順次公開

バイトを始めた銭湯は、深夜に風呂場で人を殺していた――!?
名門大学を卒業後、うだつの上がらぬ生活を送っていた主人公・和彦。ある夜たまたま訪れた銭湯で高校の同級生・百合と出会ったのをきっかけに、その銭湯で働くこととなる。そして和彦は、その銭湯が閉店後の深夜、風呂場を「人を殺す場所」として貸し出していることを知る。そして同僚の松本は殺し屋であることが明らかになり……。

監督・脚本・編集:田中征爾
出演:皆川暢二、磯崎義知、吉田芽吹、羽田真 、矢田政伸 、浜谷康幸、ステファニー・アリエン、大久保裕太、山下ケイジ、新海ひろ子、蒲池貴範 他
撮影:髙橋亮
助監督:蒲池貴範
録音:宋晋瑞、でまちさき、衛藤なな
特殊メイク:新田目珠里麻
TAディレクター:磯崎義知
キャスティング協力:EIJI LEON LEE
チラシ撮影:タカハシアキラ

製作:OneGoose
製作補助:羽賀奈美、林彬、汐谷恭一
プロデューサー:皆川暢二

宣伝:近藤吉孝(One Goose)
チラシデザイン:五十嵐明奈
後援:VーNECK、松の湯
宣伝協力:アップリンク
配給:アップリンク、神宮前プロデュース、One Goose
2018年/カラー/日本/DCP/シネスコ/114分

公式サイト


▼映画『メランコリック』特報

キーワード:

メランコリック


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