骰子の眼

cinema

2019-07-05 19:53


ウェスタンとノワールサスペンスの融合『ゴールデン・リバー』

ジャック・オーディアール監督が初の英語作品について語る
ウェスタンとノワールサスペンスの融合『ゴールデン・リバー』
映画『ゴールデン・リバー』でシスターズ兄弟役を演じたホアキン・フェニックス(左)とジョン・C・ライリー(右) ©2018 Annapurna Productions, LLC. and Why Not Productions. All Rights Reserved.

フランスの名匠ジャック・オーディアール監督が初めて挑んだ英語作品『ゴールデン・リバー』が7月5日からロードショー公開となる。舞台はゴールドラッシュに湧く1851年のアメリカはオレゴンのとある町。最強と恐れられる殺し屋兄弟に与えられた新たな仕事は、黄金を見分ける化学式を発見した化学者を追いかけることだった……。

3~4年に1本という、そこそこ寡作なオーディアール監督の待望の新作が、ホアキン・フェニックスやジェイク・ギレンホールら今もっとも旬なハリウッド男優陣を起用した西部劇と聞けば、期待せずにはいられない。オーディアール監督といえば、自ら手がける精到な脚本と、時に「ジャン=ピエール・メルヴィルの後継者」と評されるようなムーディーでスタイリッシュなノワールスリラーで知られるが、本作も黄金に魅了された男4人の疑心と友情と欲望が交錯する、巧緻なサスペンスに仕上がっている。『預言者』(2009年)でカンヌ国際映画祭グランプリ、『ディーパンの闘い』(2015年)でパルム・ドール受賞後も、ハリウッド進出への興味はなかったが、かねてからアメリカ人俳優とは一緒に仕事をしてみたいと思っていたという。以下にオーディアール監督のインタビューを掲載する。

Audiard-portrait, The Sisters Brothers
映画『ゴールデン・リバー』のジャック・オーディアール監督 ©2018 Annapurna Productions, LLC. and Why Not Productions. All Rights Reserved.

初の他人企画かつ初の英語作品

──このプロジェクトはどのようにして始まったのですか。

私にとっては珍しい始まり方だった。このプロジェクトのアイデアは、私ではなく、ジョン・C・ライリーと彼の奥さんで本作のプロデューサーであるアリソン・ディッキーが思いついたんだ。2人と会ったのは2012年のトロント国際映画祭だった。私が監督した『君と歩く世界』が上映されていた。2人は私に、パトリック・デウィットの小説を読んでほしいと言ってきた。そのときすでに彼らはこの小説の映画化権を取っていたんだ。小説を読んでみると、たちまち夢中になったよ。

そのときは気づいていなかったが、このプロジェクトは、私が人から勧められた題材を使った初めてのケースなんだ。それまでは自分自身のアイデアや自分が読んだ小説を基にして、映画を作っていた。どんな映画を作るかは、自分で決めていた。だから言っておきたいんだが、もし自分だけの裁量に頼っていたなら、デウィットの小説を読む機会はなかっただろうし、西部劇を作ろうなんて思いもしなかっただろう。あのときすでに『ディーパンの闘い』の脚本を書いていたから、次のプロジェクトも決まっていたんだ。

The Sisters Brothers
シスターズ兄弟の運命を変えるモリス役のジェイク・ギレンホール(左)とウォーム役のリズ・アーメッド(右) ©2018 Annapurna Productions, LLC. and Why Not Productions. All Rights Reserved.

──2組のコンビが登場します。シスターズ兄弟、そしてウォームとモリスです。観客は、この4人が出会って関わり合いながら、最後に対決して問題解決に至るという展開を想像します。でも4人は関わり合っていくものの、予想通りの展開にはなりません。

川の土手で4人が出くわすシーンは、これまでの西部劇にはなかった新しい側面と重要性を持つシーンになっていると思う。ウォームとモリスを深みのあるキャラクターに作り変えたからだ。ほとんどの西部劇では、悪事の露呈も闘いも、もっと単純だ。だが本作では、キャラクターの成長と感情の反応がしっかりと描かれている。こういったタイプの物語ではあまりなかったことだ。

──キャスティングについて教えて下さい。

本作のプロデューサーでもあるジョン・C・ライリーがいて、そのあとライリーの推薦ですぐにホアキン・フェニックスが決まって。そして、ジェイク・ギレンホールはとても情熱的だったから、彼もすぐに決まった。リズ・アーメッドのことは、僕は知らなかったけれど、人から勧められて『ナイト・オブ・キリング/失われた記憶』というテレビシリーズを観て、とても興味深い俳優だと魅了された。それで彼が化学者ウォームの役に決まって、それによってモリスとウォームの役割が、原作よりもずっと重要になったんだ。

The Sisters Brothers
映画『ゴールデン・リバー』より ©2018 Annapurna Productions, LLC. and Why Not Productions. All Rights Reserved.

──現代で北アメリカを再現するためには、スペインとルーマニアで撮影しなければならなかったのですか。

予算の問題だけでなく、そう希望したからなんだ。アメリカ西海岸やカナダのアルバータに、適切な場所があった。TVシリーズの『デッドウッド ~銃とSEXとワイルドタウン』が撮影されたところだ。映画の舞台として、撮影にうってつけの場所だ。大きな空があり、山々が広がっていて、昔の町を作るのにぴったりの土地なんだ。これまで何度も映画やTVで使われている。だが私は、この作品にはもっと個性的な場所が必要だと思った。監督として、私が特に大切にしているのはリアリティだ。『預言者』でも同じような過程を通った。フランス、スイス、ベルギーにある本物の刑務所を検討したが、それらの場所では、ドキュメンタリー映画にはなるが、俳優の自然なしぐさやリアルな動きがあまり引き出されない。

──終わり方が非常に皮肉で、どこか『ディーパンの闘い』に近いものがありますね。

『ディーパンの闘い』では暴力を正す、前に進むというテーマが存在したよね。確か、ジュリエット・ウェルフランだったと思うんだが(両方の映画の編集者)……、彼女が僕に言ってきたんだ。『ディーパンの闘い』の企画/制作の最中に『ゴールデン・リバー』の話が決まったから、内容が重なる部分があるんだろう、ってね。『ゴールデン・リバー』の最後には、みんな、自分にとっての真の居場所を再発見するんだ。

この映画のように、物語の時系列に関係なく撮影したのは初めてだよ。でも、エンディングはどうしても最後に撮りたかった。出演者全員が、今まで撮影した部分を踏まえて演じられるように。撮影最終日の朝には、俳優たちと今まで起きたことを振り返る時間を設けた。真実味のあるエンディングにするためにね。

The Sisters Brothers
映画『ゴールデン・リバー』より ©2018 Annapurna Productions, LLC. and Why Not Productions. All Rights Reserved.
(オフィシャル・インタビューより)



ジャック・オーディアール(Jacques Audiard)

1952年4月30日生まれ。フランスパリ出身。『プロフェッショナル』 (81)〈未〉で脚本家としてのキャリアをスタート。監督デビュー作『天使が隣で眠る夜』 (94)でセザール賞新人監督賞を受賞以降数々の映画賞に輝き高い評価を受け続けている。『つつましき詐欺師』 (96)〈未〉でカンヌ国際映画祭脚本賞受賞。ヴァンサン・カッセル主演『リード・マイ・リップス 』(01)はセザール賞脚本賞含む3冠に輝き、『真夜中のピアニスト』 (05)は同賞作品賞、監督賞含む8冠に、『預言者』 (09)では9冠となった。『預言者』はカンヌ国際映画祭グランプリも受賞し、アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた。マリオン・コティアール主演『君と歩く世界』 (12)ではゴールデン・グローブ賞外国語映画賞と主演女優賞にノミネートされた。『ディーパンの闘い』 (15)ではカンヌ国際映画祭パルム・ドールに輝いた。




映画『ゴールデン・リバー』

映画『ゴールデン・リバー』
7月5日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

監督:ジャック・オーディアール(『君と歩く世界』)
原作:パトリック・デウィット「シスターズ・ブラザーズ」(創元推理文庫刊)
出演:ジョン・C・ライリー(『シカゴ』)、ホアキン・フェニックス(『ザ・マスター』)、ジェイク・ギレンホール(『ブロークバック・マウンテン』『ナイトクローラー』)、リズ・アーメッド(『ナイトクローラー』『ヴェノム』)
配給:ギャガ
原題:The Sisters Brothers
2018年/フランス、スペイン、ルーマニア、ベルギー、アメリカ/122分/シネマスコープ/5.1ch/字幕翻訳:風間綾平

公式サイト


▼映画『ゴールデン・リバー』予告編

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