骰子の眼

cinema

2019-09-22 12:00


『パラサイト 半地下の家族』ポン・ジュノ監督&ソン・ガンホが語る「個人と社会」
『パラサイト 半地下の家族』ポン・ジュノ監督(右)と出演のソン・ガンホ(左)(撮影:維倉みづき)

ロカルノ映画祭では毎年 Excellence Awardとして長年映画に貢献してきた俳優を表彰しており、今年はアジアから初めて韓国のソン・ガンホさんが選ばれた。受賞を記念し、以下4作品が上映された(上映順)。本記事では、日本公開を控えた『パラサイト 半地下の家族』上映の様子と、現地で行われたポン・ジュノ監督とソン・ガンホさんへのインタビューをお伝えする。

-パク・チャヌク監督『復讐者に憐れみを』(2002)
-ポン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』(2019)
-ポン・ジュノ監督『殺人の追憶』(2003)
-キム・ジウン監督『反則王』(2000)

『パラサイト 半地下の家族』一度限りの上映

2019年8月11日(日)19時、ロカルノ映画祭でたった一度の『パラサイト 半地下の家族』上映。今年5月にカンヌ映画祭で韓国に初のパルムドールをもたらした作品であり、またカンヌ映画祭開催国であるフランスでも9月20日までに約165万人が劇場で鑑賞し、過去15年間で最もヒットしたパルムドール受賞作となった。しかし、ロカルノ映画祭では事前に特段の告知はなく、映画祭全体で400を超える上映回の1つとして「ポン・ジュノ監督、ソン・ガンホさんによる作品紹介あり」という説明と共に映画祭スケジュールに淡々と記載されていた。

上映前挨拶
『パラサイト 半地下の家族』ロカルノ映画祭上映前挨拶 (撮影:維倉みづき)

スイスでは既に劇場公開されている背景もあるのかもしれないが、その余りの事前の静けさに「あの『パラサイト 半地下の家族』?あのポン・ジュノ監督とソン・ガンホさん??」と不思議に思うほどであったが、蓋を開けてみると上映開始時間1時間半前には会場前に人が集まり始め、その出足の早さに会場警備員さんが驚いてしまう程。作品の話題性と、ポン・ジュノ監督とソン・ガンホさんの人気の高さが伺えた。

上映開始前、映画祭ディレクター リリ・インスタンさんの紹介でポン・ジュノ監督とソン・ガンホさん二人が登壇すると、会場から大きな拍手が起こったのは勿論のこと、韓国語で声援を送る人々が少なく無かった。今年のロカルノ映画祭に金豹賞候補『Pa-go(原題)』『イサドラの子どもたち』の2作品が選ばれた韓国。ロカルノを訪問中の韓国勢が2人を称えに駆けつけているような温かさがあった。

ポン・ジュノ監督は「この作品に関してこれまで見聞きしたことは全て忘れて楽しんで下さい」と挨拶。また、壇上でソン・ガンホさんが挨拶する様子をしばしばiPhoneで撮影。ポン・ジュノ監督がソン・ガンホさんをiPhoneで撮影する様子はロカルノ映画祭中頻繁に目撃され、それは Excellence Award授賞式でも見受けられた。

ソン・ガンホ Excellence Award授賞式 ポン・ジュノ監督撮影 © Locarno Film Festival Massimo Pedrazzini
ソン・ガンホ Excellence Award授賞式 ポン・ジュノ監督撮影 © Locarno Film Festival Massimo Pedrazzini
ソン・ガンホ Excellence Award授賞式 ポン・ジュノ監督セルフィー © Locarno Film Festival Ottavia Bosello
ソン・ガンホ Excellence Award授賞式 ポン・ジュノ監督セルフィー © Locarno Film Festival Ottavia Bosello

ポン・ジュノ監督の忠告を守り『パラサイト 半地下の家族』内容に言及することは避けるが、ロカルノ映画祭での上映中に生まれて初めて執筆者が経験したことは、作品の途中で会場が一体となった大きな拍手と歓声が沸き起こったこと。老若男女、国籍を問わず観客の心を鷲掴みにするエンターテイメント性も備えた作品だ。

『パラサイト 半地下の家族』あらすじ

半地下で暮らす貧しい家族の長男ギウが、裕福なパク氏の家の家庭教師となり、続いて妹ギジョンも足を踏み入れる……。

ロカルノ映画祭 現地インタビュー

以下にお送りするのは、上映翌日に行われたポン・ジュノ監督、ソン・ガンホさんへの聞き手3名(スイス、イギリス、日本)による合同インタビューである。『パラサイト 半地下の家族』について「日本公開は来年1月なので、ネタバレのない範囲でお願いします」とお伝えした上でお答え頂いた。

──『パラサイト 半地下の家族』はカンヌ映画祭でのパルムドール受賞を筆頭に既に世界各地で数多くの賞に輝いています。個人的に、また作品の経済的な成功にどのような影響がありましたか?

ポン・ジュノ:受賞はもちろん嬉しいですし有難いですが、正直言って過去20年間続けてきた私の映画作りはこれからも変わりません。受賞前から英語で一つ、韓国語で一つの作品に並行して取り組んでいますが、準備を進め、為すべきことを成すのに変わりはありません。

これまでもずっと私の作品を支持してくれてきた人、パルムドール受賞で始めて意識した人など様々ですが、これまで映画館に足を運ぶことが無かった人たちが映画館に向かうきっかけになったら嬉しいです。

※※『パラサイト 半地下の家族』は2019年5月30日に韓国で劇場公開され、公開2ヶ月半で約75億円、9月20日時点で今年第4位の興行収入を韓国国内で記録している。既に2020年第92回アカデミー賞国際長編映画賞(元 外国語映画賞)への韓国代表作品に決定。最終ノミネート作品に含まれれば、韓国映画として初のノミネートとなる。

© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
『パラサイト 半地下の家族』© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

──『パラサイト 半地下の家族』では貧しい家族と裕福な家族が登場しますが、社会学の文脈での富裕層対貧困層、ブルジョワ対プロレタリアなどの構造は一昔前のものでしょうか、それとも今日においても有効的な方法論として復活しているでしょうか。

ポン・ジュノ:若い時に映画クラブで時間を過ごしていたので社会学の知識がなくバツが悪いですが(笑)ただ自分の体験で言えば、小中学校の時に地元の友達とだけ遊んでいる時は気付かなかったですが、大学に入ると様々な家庭背景の人と出会いました。超富裕層から、極貧の田舎から出てきた人など様々です。彼らと毎日酒を飲み遊ぶことが、私にとっては教科書よりも有効な社会学の授業でした。もちろん自分の価値観と経験に限定されはしますが、関心を持つようになった一番の影響です。

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『パラサイト 半地下の家族』© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

──ソン・ガンホさんにお伺いします。これまでにもポン・ジュノ監督『グエルム -漢江の怪物-』『スノピアサー』で父親役を演じられてきましたが、『パラサイト 半地下の家族』での父親は何が違いましたか?

ソン・ガンホ:前2作品では必ずしも「普通」とは言えない父親を演じましたが、本作で演じたのはごく普通の家庭の家長としての父親です。彼の振る舞いや身なりがそれを象徴している部分もあります。一般的に言って、彼は私たち誰もが日常生活の中でなり得る可能性がある人物像であり、普遍的な存在です。その点が過去2作品で演じた役とは大きく異なる点だと思います。

──『グエルム -漢江の怪物-』での父親は、社会全体が大災害にあった中で、娘に対する自分の非を責めていましたね。

ソン・ガンホ:韓国はもちろんどこの国でも起こり得る、社会的な大災害がによって親しい人を亡くしたり生き別れになる中での、社会集合的な雰囲気を出そうとしました。観客にとっては面白可笑しく映る場面もあるかもしれませんが、現実にはこれが私たちが生きている社会であり日常的に起こり得ることです。彼が娘の手を離してしまった時、自分を責め、嘆き悲しみます。彼自身が悪い訳では決してないのに。自分自身を責めながら、社会に対する複雑な感情が胸中に渦巻く様子が表れていると思います。この点は韓国映画に特徴的ですね。

ポン・ジュノ:これはアジア的とも言えるでしょう。もしフランスで起こったら、人々は政府を責め立てるでしょう。しかしアジアでは何か悪いことが起こると、極端にまで自責の念にかられる傾向があります。例えば子どもが地下鉄事故で亡くなったら、その親が、直接的な事故の原因でなくとも「なぜ子どもに車を買ってやらなかったんだ」と後悔するような。政府や社会構造が原因であっても、自分を責める人は多く見られます。この点がソン・ガンホさん仰った『グエルム -漢江の怪物-』に多く含まれている要素です。

(文:moonbow cinema 維倉みづき)



© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
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映画『パラサイト 半地下の家族』
2020年1月、TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

出演:ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、パク・ソダム、イ・ジョンウン、チャン・ヘジン
監督・共同脚本:ポン・ジュノ
撮影:ホン・ギョンピョ
音楽:チョン・ジェイル
配給:ビターズ・エンド
2019年/韓国/132分
英題:PARASITE
原題:GISAENGCHUNG

公式サイト


▼映画『パラサイト 半地下の家族』予告編

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