骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2020-03-11 09:46


イスラームの起源、占領続く西サハラの抵抗運動、必見作続々「イスラーム映画祭5」開催

映画を楽しみながら、世界を知るために―映画祭主宰の藤本高之さんによる解説
イスラームの起源、占領続く西サハラの抵抗運動、必見作続々「イスラーム映画祭5」開催
『アル・リサーラ/ザ・メッセージ』アラブ・バージョン〈デジタル・リマスター〉より

中東やアジアに広がるイスラーム圏の国や地域を描いた映画を紹介する映画祭「イスラーム映画祭5」が、3月14日(土)渋谷ユーロスペースを皮切りに、4月25日(土)より名古屋シネマテーク、5月2日(土)より神戸・元町映画にて館開催される。

2015年の開始以来、今年で5回目となる今回。webDICEでは、映画祭主宰の藤本高之さんによる解説と上映される全13作品を掲載する。


「映画を楽しみながら、世界を知るために―」
5周年の集大成

文:藤本高之(イスラーム映画祭主宰)

「イスラーム映画祭5」では、イスラーム発祥の地である中東を基点に、南米からアフリカの北西端まで過去最も幅広く作品を集めました。イスラームが広まる国や地域を舞台にした映画を介し、あらためて“世界は広い”ことを示す多彩なラインアップになったと自負しています。

目玉は、預言者ムハンマドを開祖とする7世紀に興ったイスラームの起源を描き、日本でも1977年(昭和52年)に『ザ・メッセージ 砂漠の旋風』の題で公開されたハリウッドの英語歴史大作の、“キャストをアラブ人俳優に入れ替えて同時撮影された幻のアラブ・バージョン”、『アル・リサーラ/ザ・メッセージ』です。『ザ・メッセージ 砂漠の旋風』はDVDにもなっていますが、アラブ・バージョンが上映されるのは今回が日本初となります。
監督のムスタファ・アッカド(1930-2005年、シリア・アレッポ出身)は、日本ではホラー映画『ハロウィン』シリーズのプロデューサーとして知られますが、ハリウッドが描くアラブやイスラームの偏ったイメージを払拭するために、なんとリビアのカダフィ大佐の資金提供を受け、アメリカ人向けの英語版とアラブ世界向けのアラビア語版の2バージョンを同時に製作しました。(なのでロケーションのほとんどがリビア)
しかし彼は2005年、ヨルダンのアンマンで起きたイスラーム過激派による爆弾テロで命を落としてしまうのです…。初日の本篇上映後には、監督と同じくシリア出身のジャーナリスト、ナジーブ・エルカシュさんにこの作品が生まれた背景と、ムスタファ・アッカド監督の数奇な人生について語っていただきます。なお、上映権等の関係で本作の上映は各会場1回のみ、その後の上映予定はいっさいありません。

他には、アフリカ北西端に位置し、1975年にスペインからの独立過程で隣国モロッコの侵攻を受け、以来40年以上にわたり占領され続けている「西サハラ」の抵抗運動を描いたドキュメンタリー映画『銃か、落書きか』を同じく日本初上映します。西サハラを題材にした映画が劇場公開されるのは極めて貴重な機会です。
また、これまでに続き「シリア危機」や「パレスチナ問題」など、ますます混迷を深める中東の問題を描いた作品も上映します。アサド政権の爆撃でともに家族を亡くし、トルコへ避難したシリア人女性と少女の交流を描く『ゲスト:アレッポ・トゥ・イスタンブール』も、イスラエルの封鎖が続くガザの海で、サーフィンをしている時だけは現実を忘れられると語るパレスチナ人たちを描いた『ガザ・サーフ・クラブ』も、ニュースだけでは決して知ることができない現地の人々の心情をリリカルに伝えてくれます。
そして、かつて20世紀初頭にレバノンからアルゼンチンに移住したムスリム移民の足跡を、その末裔の女性が追ったドキュメンタリー映画『ベイルート - ブエノス・アイレス - ベイルート』は、一人のアルゼンチン女性の“血”のルーツをめぐる旅を通じ、“単一民族”という幻想に一石を投じる珍しい作品です。

さらに映画祭5周年のアンコール上映として、過去4回の映画祭から話題を集めた、『神に誓って』『私たちはどこに行くの?』『アブ、アダムの息子』『花嫁と角砂糖』『わたしはヌジューム、10歳で離婚した』の5作品を再映します。『私たちはどこに行くの?』は、昨年大ヒットした『存在のない子供たち』のナディーン・ラバキー監督の日本未公開だった第2作で、イスラーム映画祭2の際は東京、名古屋、神戸で全回満席となりました。

また、映画祭開催に合わせ、今回の上映作品を含む「イスラーム映画祭全上映作品」の解説と、錚々たるジャーナリストや研究者の方々による読み応え満点のコラム15本を掲載した公式ムック『イスラーム映画祭アーカイブ2015-2020』を劇場限定販売します。
「映画を楽しみながら、世界を知るために―」。このテーマのもとに開催してきた、その集大成である「イスラーム映画祭5」に、どうぞご期待ください。


『アル・リサーラ/ザ・メッセージ』アラブ・バージョン〈デジタル・リマスター〉

1_Al Risalah アル・リサーラ

1976-2018年
リビア=モロッコ=エジプト=サウジアラビア
207分
監督:ムスタファ・アッカド / Moustapha Akkad
原題:Al-Risalah
英題:The Message
言語:アラビア語 / 英語
字幕:日本語 / 英語

【物語】
唯一神(アッラー)の啓示を受けたムハンマドはその教えを広めるが、マッカの支配層に迫害されてしまう。 信徒たちとマディーナに移住した彼はイスラーム共同体を結成、やがてマッカを治め、アラビア半島を統一する…。
【解説】
7世紀に誕生したイスラームの起源を描く歴史大作です。預言者ムハンマドの姿は描かれず、その叔父ハムザを中心に物語が展開します。日本でも公開された英語版とは別にアラブ世界向けのバージョンとして作られました。

『銃か、落書きか』

2_Rifles or Graffiti 銃か落書きか

2016年
スペイン
52分
監督:ジョルディ・オリオラ・フォルク / Jordi Oriola Folch
原題:Rifles or Graffiti
英題:Rifles or Graffiti
言語:スペイン語、ハサニーヤ語、英語
字幕:日本語 / 英語

【物語】
メディアチームを結成し、「西サハラ」の実態を世界に発信するサハラーウィたち。 武力闘争で占領者モロッコに圧力をかけることを望む若者もいる中、活動家アミーナートゥ・ハイダルはあくまで非暴力の闘争を訴える…。
【解説】
1975年にスペインからの独立過程でモロッコに侵攻され、領土の大半を占領され続けているアフリカ北西の「西サハラ」。 現地で命懸けの抵抗運動を続けるサハラーウィたちの焦燥と葛藤を描いたドキュメンタリーです。

『ゲスト:アレッポ・トゥ・イスタンブール』

3_The Guest:Aleppo - Istanbul ゲスト:アレッポ・トゥ・イスタンブール

2017年
トルコ=ヨルダン
89分
監督:アンダチュ・ハズネダルオール / Andac Haznedaroglu
原題:The Guest: Aleppo to Istanbul
英題:The Guest: Aleppo to Istanbul
言語:アラビア語 / トルコ語 / ロシア語
字幕:日本語 / 英語

【物語】
爆撃で家族を失った8歳のリナは、幼い妹を連れ、隣人のマリヤムや友だちの家族と一緒にイスタンブールへ避難する。 シリアに帰りたがるリナは何かとマリヤムに反抗するが、ある朝全員で住み処を追い出されてしまう…。 【解説】
実際に難民の少女が主人公を演じている作品です。 幼い妹を必死で守ろうとする少女と、彼女を懸命に世話しようとする女性の物語が、“数”でしか伝えられないシリア難民それぞれの人生や尊厳について考えさせてくれます。

『ガザ・サーフ・クラブ』

4_Gaza Surf Club ガザ・サーフ・クラブ

2016年
ドイツ
87分
フィリップ・グナート、ミッキー・ヤーミン / Philip Gnadt、Mickey Yamine
原題:Gaza Surf Club
英題:Gaza Surf Club
言語:アラビア語 / 英語 / ハワイ語
字幕:日本語 / 英語

【物語】
42歳のアブー・ジャイアブは、若者たちにサーフィンを教えている。 23歳のイブラヒームは、いつかガザでサーフショップを開くのが夢。そして15歳のサバーフは、子どもの頃は父親にサーフィンを教わっていたが…。
【解説】
イスラエルによる封鎖が続くガザの人々の現実を、サーフィンを通じて描いたドキュメンタリーです。 天井のない監獄のようなガザの窮状や保守的な社会に夢を阻まれながらも、人間らしく生きる彼らの姿に希望が湧きます。

『ハラール・ラブ (アンド・セックス)』

5_Halal Love (and Sex) ハラール・ラブ(アンド・セックス)

2015年
レバノン=ドイツ
91分
監督:アサド・フラドカール / Assad Fouladkar
原題:Halal Love (and Sex)
英題:Halal Love (and Sex)
言語:アラビア語
字幕:日本語 / 英語

【物語】
毎晩求めてくる夫に困り果て、一夫多妻の教義にのっとり2人目の妻を探す女性。 一時婚の規範を利用して、不倫関係のような夫婦となるカップル。そしてすでに二度離婚している若い夫婦は、嫉妬深い夫のせいでついに…。
【解説】
シャリーア(イスラーム法)に基づいてそれぞれの愛や夫婦間の悩みに対処しようとする人々を、ユーモア交じりに描いた作品です。 ムスリム社会の婚姻規範に驚きつつも、女性の苦難や男の身勝手さは万国共通に感じます。

『ベイルート - ブエノス・アイレス - ベイルート』

6_Beirut Buenos Aires Beirut ベイルート - ブエノス・アイレス - ベイルート

2012年
アルゼンチン
84分
監督:グレイス・スピネリ、エルナン・ブロン / Grace Spinelli、Hernan Belon
原題:Beirut Buenos Aires Beirut
英題:Beirut Buenos Aires Beirut
言語:スペイン語 / アラビア語 / 英語
字幕:日本語 / 英語

【物語】
ある日グレイスは大伯母から、彼女の父(曾祖父)が家族を置き去りにして、アルゼンチンではなく故国レバノンで他界したことを聞かされる。 やがて大伯母の死に突き動かされたグレイスは、曾祖父の足跡を追い始める…。 【解説】
ブエノス・アイレスに暮らすレバノン移民の末裔の女性が、曾祖父の人生を追ってレバノンを旅する姿を描いたドキュメンタリーです。 1万キロ以上の距離と、長い年月を越えてつながる二つの家族の物語に胸を打たれます。

『ラグレットの夏』

7_Un ete a La Goulette ラグレットの夏

1996年
チュニジア=フランス=ベルギー
89分
監督:フェリッド・ブーゲディール / Ferid Boughedir
原題:Un ete a La Goulette
英題:A Summer in La Goulette
言語:アラビア語 / フランス語 / イタリア語
字幕:日本語

【物語】
1966年、夏のラグレット。アラブ人でムスリムのマリヤム、ユダヤ教徒のジジ、そしてクリスチャンのティナ。 同じアパートの同じフロアで家族とともに暮らす3人は、この夏に初めての体験をする相手を探していた…。 【解説】
第三次中東戦争前の海辺の町ラグレットを舞台に、宗教も出自も違う3つの家族のひと夏の日々を軽妙洒脱なタッチで描いた作品です。 チュニジア出身の俳優クラウディア・カルディナーレが本人役でゲスト出演しています。

『イクロ2 わたしの宇宙(そら)』

8_Iqro My Universe イクロ2 わたしの宇宙(そら)

2019年
インドネシア
101分
監督:イクバル・アルファジリ / Iqbal Alfajri
原題:Iqro My Universe
英題:Iqro My Universe
言語:インドネシア語 / アラビア語 / 英語
字幕:日本語 / 英語

【物語】
宇宙飛行士を夢見て、毎日のようにプラネタリウムへ通うアキラ。 彼女はイギリス人留学生ジューンと、科学をテーマにしたコンペで競い合うことに。一方、祖父は彼女に黙ってイギリスの天文台で働くことを決めていた…。
【解説】
前作に続き、バンドン工科大学のサルマン・モスクが“イスラームと科学”をテーマに製作しました。 インドネシアを飛び出してロンドンでも撮影が行われ、アキラの宇宙への憧れが、壮大なイスラーム観とともに描かれます。

『神に誓って』

9_Khuda Kay Liye 神に誓って

2007年
パキスタン
168分/ブルーレイ
監督 : ショエーブ・マンスール / Shoaib Mansoor
原題 : Khuda Kay Liye
英題 : In the name of god
言語 : ウルドゥー語、英語、パンジャブ語、アラビア語、パシュトウ語 / Urdu、English、Panjabi、Arabic、Pushto
字幕 : 日本語、英語

【物語】
ラホールでポップデュオを組んでいる兄弟。だが、弟が過激な原理主義に染まり楽器を棄て、兄は弟を心配しながらもNYに音楽留学する。 一方、ロンドンに住む従妹のマリアムは、英国人との結婚を快く思わない父親に…。 【解説】
ジハード主義者と穏健なムスリムの軋轢や、欧米に蔓延するイスラーム嫌悪など、“9.11”以降のイスラーム社会が抱える葛藤をパワフルに描いた社会派ドラマです。 パキスタンで大ヒットし、一大社会現象となりました。

『私たちはどこに行くの?』

10_Et Maintenant On Va Ou? 私たちはどこに行くの?

2011年
フランス=レバノン=エジプト=イタリア
102分 / ブルーレイ
監督 : ナディーン・ラバキ / Nadine Labaki
原題 : Et maintenant on va où?
英題 : Where do we go now?
言語 : アラビア語、ロシア語、英語 / Arabic、Russian、English 字幕 : 日本語、英語

【物語】
ムスリムとクリスチャンが半数ずつ暮らすレバノンの小さな村。 戦争がようやく終わり、女たちは胸をなで下ろしていたが、男たちはすぐに諍いを始めてしまう。 村の平和を守ろうと、女たちはあの手この手と策略を練る…。 【解説】
昨年『存在のない子供たち』がヒットした、ナディーン・ラバキー監督の日本未公開だった第2作です。 長い内戦を経験したレバノンの歴史を背景に、平和を守るための女性たちの闘いが、寓話的な悲喜劇として描かれます。

『アブ、アダムの息子』

11_Adaminte Makan Abu アブ、アダムの息子

2011年
インド
101分
監督:サリーム・アフマド / Salim Ahamed
原題:Adaminte Makan Abu
英題:Abu, Son of Adam
言語:マラヤーラム語 / Malayalam
字幕:日本語、英語

【物語】
ケーララ州の農村に暮らす、アブとアイシュンマの夫婦。 2人はマッカへの巡礼ハッジのため、つましく資金を蓄えていた。 息子は中東に移住したまま帰ってこない。アブは街の旅行会社まで、パスポートを作りに行く…。
【解説】 ムスリムの老夫
婦を主人公の、信仰についての物語です。 彼らと善意ある人々との交流を通じ、宗教を超えた人間同士の愛と宥和が謳われます。 映像や古典楽器を使用した音楽も美しく、数々の映画祭で高く評価されました。

『花嫁と角砂糖』

12_Ye Habe Ghand 花嫁と角砂糖
2011年
イラン
114分
監督:レザ・ミルキャリミ / Reza Mirkarimi
原題:Yek Habbeh Qand
英題:A Cube of Sugar
言語:ペルシャ語 / Persian
字幕:日本語

【物語】
五人姉妹の末っ子パサンドの婚約式の準備が始まる。 海外に暮らす婚約者は不在のままだが、姉たちは祝宴を開くため大忙し。 パサンドの結婚に反対していた伯父もようやくそれを受け入れ、黙々と角砂糖を作っていたが…。
【解説】
婚礼の祝いに集まった大家族の悲喜こもごもを描く群像劇です。 様々な人生を背負って生きる人々の心情が丁寧にすくいとられ、胸に沁みます。 イランの伝統的な家屋や家庭料理など、豊かな色彩にため息がもれる逸品です。

『わたしはヌジューム、10歳で離婚した』

13_Ana Nojoom Bent Alasherah Wamotalagah わたしはヌジューム、10歳で離婚した

2015年
イエメン=UAE=フランス
99分
監督:ハディージャ・アル=サラーミー / Khadija Al-Salami
原題:Ana Nojoom bent alasherah wamotalagah
英題:I am Nojoom, Age 10 and Divorced
言語:アラビア語 / Arabic
字幕:日本語

【物語】
幼くして結婚したヌジュームは、ある朝家を飛び出して裁判所へ駆け込み、離婚したいと訴える。 驚く判事を前に彼女は、歳のかけ離れた夫の暴力に耐える日々と、自分が嫁に出されるまでの経緯を語り始めるのだった…。
【解説】
実話を元に、作者が自身の経験も反映させた、“児童婚”に抵抗する少女の物語です。イエメンの美しい風景も描きながら、児童婚が宗教や因習だけが原因ではない、 普遍的な女性の権利の問題であることも教えてくれます。




「イスラーム映画祭5」

【東京】
会期 : 2020年3月14日(土)~20日(金)
会場 : 渋谷ユーロスペース

【名古屋】
会期 : 2020年4月25日(土)~5月1日(金)
会場 : 名古屋シネマテーク

【神戸】
会期 : 2020年5月2日(土)~8日(金)
会場 : 神戸・元町映画館

主催:イスラーム映画祭実行委員会

公式サイト


IFF_catalogue_h1-h4

『イスラーム映画祭アーカイブ2015-2020』

仕様:A4サイズ/オールカラー/98ページ/1500円(税込)

レビュー(0)


コメント(0)