骰子の眼

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東京都 渋谷区

2020-10-08 16:30


A24×プランB 街と人をめぐる新たなる傑作『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』

「急激に変化していく街の様子を映像に留めておくこと」監督インタビュー
A24×プランB 街と人をめぐる新たなる傑作『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』
映画『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』 ©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

長編初監督作ながらサンダンス映画祭の監督賞、審査員特別賞を受賞、気鋭の映画スタジオA24とブラッド・ピット率いるプランBがタッグを組み、オバマ前大統領も2019年のベストに選出した映画『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』が10月8日(金)より公開。webDICEではジョー・タルボット監督のインタビューを掲載する。

インタビューでも語られている通り、この作品は、タルボット監督の幼馴染で主人公を実名で演じたジミー・フェイルズが10代の頃に体験した出来事がベースとなっている。サンフランシスコを舞台に、都市開発により取り残されてしまった人たちのリアルな姿を描いている。ビクトリアン様式の家をめぐり、人種差別や経済格差といった問題を浮かび上がらせるとともに、美しいサンフランシスコの街並みを守ろうとするジミーとモント、のっぴきならないふたりの青年の友情を捉えるタルボット監督の眼差しはどこまでも優しい。


「ロケハン中に、いい家を見つけても取り壊しが決まっていて、撮影ができないことが多かった。あまりにも動きが早すぎる。残念だけど、今サンフランシスコで起きている現象は世界各地で見られる。映画を作り始めた時は、あまりにもパーソナルな物語だから気づかなかったけど、この街以外の人と話せば話すほど、共通の問題だというのが分かってくるんだ。僕らは、急激に変化していく街の様子を映像に留めておくしかないんだ」(ジョー・タルボット監督)


主人公の実体験と、街に住む住人の夢を混ぜたハイブリッドな作品

──この作品の制作のきっかけを教えてください。

僕の母親はサンフランシスコの5代目で、父親は1960年代にやってきた。僕は、サンフランシスコの誇り高き歴史を感じながら、音楽や文化や映画に触れて育ってきた。僕自身サンフランシスコからほとんど出たことがないから、外の世界はほとんど知らない。

映画『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』ジョー・タルボット監督 ©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.
映画『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』ジョー・タルボット監督 ©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

主人公ジミーを演じたジョー・タルボットとは10代のはじめに出会った。幼馴染のジミーの実体験と、街に住む住人の夢を混ぜたようなハイブリッドな作品を作りたかったんだ。街の片隅に追いやられた男が、自分の記憶にしか残らない家に巡礼の旅をするというオデュッセイア(長年旅をして故郷の町に帰るオデュッセウスの物語)のような、ちょっとした冒険話にしたかった。

チームのメンバーはベイエリアで僕らが創作活動を始めて、世に出ようとしてもがいていた頃の仲間たちで、この物語に共感し、映画として成立させるのを手伝いたいと言ってくれた。映画化まで何年かの大変な時期を経て、僕らは家族になった。

映画『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.
映画『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』 ©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

──ブラッド・ピット率いるプランBとの出会いは?

短編『American Paradise』が、2017年サンダンス映画祭でプレミア上映され、そこでプランBのプロデューサーのクリスティーナ・オーの目に止まり、僕らがA24に声をかけて長編を作ることになった。『ムーンライト』の監督バリー・ジェンキンスとは面識があり、彼がプランBと組んで成功しているのを見て、憧れていたんだ。組む相手としてプランB以外は考えられない。彼らと一緒に仕事ができて本当にラッキーだと思う。

──ジョナサン・メジャースが演じたモントとジミーの関係は明らかにリアルで、画面に相性の良さがにじみ出ています。

バディ・ムービーは難しい。2人が本当の友達のように感じるように見せなきゃならないから。これはジミーの初めての映画だったが、ジョナサンは僕らが望んでいたような形で彼を映画に溶け込ませてくれた。彼らは兄弟のような親友になったんだ。

映画『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.
映画『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』ジョー・タルボット監督 ©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

今後サンフランシスコで僕たちのような友情が生まれるか

──脇役に生粋のベイエリア在住の人間を出演させ、地元住民に小さな役柄を割り当てたそうですね。

そうなんだ。僕らは、脇役から実生活からにじみ出るサンフランシスコ人の気性が出ているかを確認することに時間を費やした。

──物語の舞台となるヴィクトリアン・ハウスはサンフランシスコでリサーチして見つけたのですか?

タルボットの家のすぐそばの固い岩盤の上にあり、一部が1906年の地震でも破壊を免れていた家を見つけた。期待はせずに、僕らはそのドアを叩いた。すると優しい顔の老人が外に出てきて、僕らが彼の家を主役に映画を作りたいと話したら、手招きして中に入れてくれたんだ。

映画『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.
映画『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』ジョー・タルボット監督 ©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

──作品を完成させて、サンフランシスコという街について、どのような気持ちを持っていますか?

今僕とジミーが最も恐れているのは、今後サンフランシスコで僕たちのような友情が生まれるか?ということ。僕たちにとって、街の人との交流は何よりも大切だけど、そういう体験ができなくなるのではと心配している。この街は、様々な人生を歩んできた人と出会える街だし、この街を心底愛している人はたくさんいる。でも、この映画の編集を終えてサンフランシスコに戻ってきた時、知らない街に来たような感覚に陥った。この美しい街を作り上げてきた人々が暮らせないなら、何の意味があるのだろう?

最近はさらに多くの人が街を去っている。変わらず美しい建物も、どんどん取り壊されつつある。ロケハン中に、いい家を見つけても取り壊しが決まっていて、撮影ができないことが多かった。あまりにも動きが早すぎる。生まれ育った街じゃなくても、その街を愛することはできるはず。残念だけど、今サンフランシスコで起きている現象は世界各地で見られる。映画を作り始めた時は、あまりにもパーソナルな物語だから気づかなかったけど、この街以外の人と話せば話すほど、共通の問題だというのが分かってくるんだ。あまりにも大きくて複雑な問題で、考えただけでも怖くなる。こういう映画を作る以外、何をすればいいのか分からない。僕らは、急激に変化していく街の様子を映像に留めておくしかないんだ。

(オフィシャル・インタビューより)


ジョー・タルボット(Joe Talbot)

サンフランシスコ第5世代のタルボットは、映画を撮るために高校を退学し、幼なじみであるジミー・フェイルズと映画製作の準備を始める。サンダンス・インスティテュートの研修生として撮った短編『American Paradise』では監督・脚本を担当し、サンダンス映画祭とサウス・バイ・サウスウエスト映画祭で高い評価を受けた。フェイルズを主役にした本作が長編デビュー作となる。




映画『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』
10月9日(金)ロードショー

監督・脚本:ジョー・タルボット
共同脚本:ロブ・リチャート
原案:ジョー・タルボット、ジミー・フェイルズ
音楽:エミール・モセリ
出演:ジミー・フェイルズ、ジョナサン・メジャース、ロブ・モーガン、ダニー・グローヴァー
配給:ファントム・フィルム
提供:ファントム・フィルム/TCエンタテインメント
原題:The Last Black Man in San Francisco
2019年/アメリカ/英語/ビスタサイズ/120分

公式サイト


▼映画『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』予告編

キーワード:

サンフランシスコ


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