骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2008-10-11 15:00


映像作家・平岡香純の五感をくすぐる『落書き色町』、あふりらんぽのピカチュウ主演に

関西アングラシーンのド真ん中で活動する平岡香純の斬新な映像表現を見よ! というわけで、大阪からやってきた平岡香純にインタビュー
映像作家・平岡香純の五感をくすぐる『落書き色町』、あふりらんぽのピカチュウ主演に
『落書き色町』監督の平岡香純

色町を舞台に、一組の男女の出会いを契機として彼らと周辺の人々が幼児化する様が描かれる、大阪在住の映像作家・平岡香純による短編映画『落書き色町』。音楽活動も並行して行う平岡の映像表現は、大阪の新世代によるアングラ文化の存在を抜きにしては成り立たないものであり、『落書き横町』では「あふりらんぽ」のピカチュウ(=東美根子)が主演を務めるなど、映画制作に関わる全ての人間の熱情がスクリーンから匂うほど濃厚だ。
10月18日(土)におこなわれるアップリンク・ファクトリーでの上映会は、主演のピカチュウや監督の平岡ら女子10数名による子宮ノイズバンド『モンモン★トゥナイト』のライブ映像(撮影:宮本杜朗)を併映。さらには出演者たちによる出しものなど盛りだくさんな内容で開催する。


娼婦が反乱する感じです、娼婦の逆襲という意味で

── 大学在学中に映像を撮り始めたそうですが、きっかけは何だったんですか?

音楽に挫折して、映画かなって思って。ピアニストになろうと思って、毎日何時間もピアノばっかり弾いていて、17歳くらいでちょっとクラシックは無理やって感じになって。決まり事が多く、どこをどうしたら良くなるのかがわからなくなって。でも、ピアノもそうですが、背景に理論が必要な芸術を求めていて、「あ、映画や」てなったんだと思います。

── 誰かの映画を観て影響を受けたとか。

いや、その頃は全然映画を知らなくて、ジブリぐらいしか観たことがない(笑)。実写の映画を観たことがなかったので。周りで映像をつくっている人も全然いなかったです。なんでやろ、不思議です。

── 第1作目は『無敵なお年頃』(2001年)という作品ですが。

そうです。大学の映画研究部にあった8ミリカメラで撮りました。でも、初めの2本(『無敵なお年頃』『日の丸』)は恥ずかしくて誰にもみせられない(笑)。だから、ほとんど外で上映したことがないです。

── 8ミリにこだわりがあるんですか?

8ミリで撮ると、むっちゃ刻み付けてる感じがあって。これは体に合うなと思って持ち歩くようになりました。

── 『落書き色町』の色町や娼婦といったモチーフは、どこから思いついたんですか?

ぱっとイメージが降ってきて。あとは机に向かってまとめた感じです。

── なにかを見たわけじゃなくて?

はい。以前、脳腫瘍の手術をしたんですけど…その手術をする前から、2分間くらい体が動かなくなる発作を起こしていたんですけど、いつも体が勝手に魔法使いの夢を思い出そう思い出そうとして、その夢の中では魔法使いが魔法はこうやってこうやってかけるんだよっていうのをやっていて、そこでうまくいく時はいろんな映像が「うわーっ」広がっていったことがあった。それをずっと絵や言葉でメモっていて。他は、数学みたいに淡々と、あらすじをたてるんですけど、もともとのイメージはそこからきているのが大きいと思います。

落書き色町
『落書き色町』(2007年/28分/miniDV)監督・編集:平岡香純/撮影:宮本杜朗/出演:東美根子、谷内一光、他

── この作品をつくろうと思ったのはいつ頃ですか?

去年の春に1週間くらいで脚本を書いて、すぐに撮影しました。撮影期間は3日間くらいで。

── 撮影場所が色町の独特な雰囲気をだしていましたが、あそこはどこですか?

長屋が続いているロングショットは、堺市(大阪府)の大和川の堤防沿いです。あとのシーンは主に西成の山王です。いい家がいっぱいあって。他には大正区の造船所跡、ラストシーンは梅田の街中です。

── ロケハンして見つけたんですか?

はい。趣味はロケハンとスカウトです! 人間離れした人がいたら声をかけたり、でこぼこエネルギーをもつ場所があれば、持ち主を探したり。そのときが一番楽しいです。

落書き色町-ピカチュウ

── 主演は「あふりらんぽ」のピカチュウですが、一緒にやってみてどうでしたか?

私はきっかけだけ与えて、あとは自分で考えてやってくれるほうがいいと思いました。 普段ライブをしている時の瞬間パワーを引き出すには、シーンの前後の説明もせず、感じたことをやってもらうことが一番だと思いました。セリフもその場で出てきたものがいっぱいで。共演の谷内一光くんとピカチュウが会話しているところも、2人でつくってるみたいな。最初に、言ってほしい言葉や内容は伝えていますが。

(写真)主演を務めたあふりらんぽのピカチュウ

── セリフがアドリブのようだったりと、即興的なお芝居が気になったのですが。

私は最初から絵はパシッと決めていて。あとは好きなようにやってもらうというのが多くて。雰囲気だけを伝えて、特に主演の2人に関しては即興性の感覚がすばらしいので、その方がいいんです。他の女の子にも、ポーズなどは手とり足とり教えたりもしたんですが、できるだけ自然に子供の状態でいられるようにしてもらいました。女の子のそのままを見せないといけないので!でも、次回は演技の指導もしていきたいです。

落書き色町

── 作品のキャッチコピーになっている「あべこべ娼婦のイノセンス」って面白いですね。

娼婦が反乱する感じです、娼婦の逆襲という意味で。もともとある意識下の少女性を武器に闘ってほしかった。娼婦が自然体になったらこんなんやっていうのがあったんです。 ロケハンで飛田新地に行ったとき、働いている子はそこでしかわからないような変な言葉を使うんです。動きが変やったりもして、それは、娼婦じゃないもう一人の女の子が自分の中にしっかりおるんやなっていうのがはっきりしてたんです。
あわよくば、このような娼婦の反乱によって娼婦という仕事がなくなればいいのに、という思いが強いです。女の人の体は娼婦をするために形成されているものではないですから。女性の思考を無視した、昔の男性の自己中心的思考以外のなにものでもないですから!(怒)


── 今年の調布映画祭でグランプリを受賞しましたね。世界でもかなり多くの映画祭で上映されていて驚きました。

そうなんですよ。各国の映画祭に出したら40くらい受かって上映されて。初めていったインドの映画祭が素晴らしすぎて、映画への愛がすごく感じられて、一回始めたらやめられなくなって、全部把握しておきたい性格で(笑)。自分が行きたい国全部に出したら、けっこう受かって実際に何ヶ国か行ってきました。

── 海外での反応はどうでしたか?

ボスニアはめっちゃ拍手喝采で。内戦で映画を観る余裕がないから、こんな映画観たことなかったよ、新鮮だと言われて。インドもよかったですね。みんな竹馬やゾウに乗って映画祭に来てた(笑)。お客さんなのに映画に出てる人たちみたいでした。貴重な体験をしました。

音楽は「体」、映画は「頭」な感じがする

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10数名の女子たちによる子宮ノイズバンド『モンモン★トゥナイト』(2008年/miniDV) 撮影:宮本杜朗/編集:平岡香純
monmon

── 映画をつくりながら、複数のバンドもやっていますね。

全部2年前くらいから始めました。

── 『落書き色町』にも出てくるバンド「モンモン★トゥナイト」は、まるでこの作品から出てきたような濃厚な感じですよね。

『落書き色町』を撮り終わってすぐにモンモンのライブがあって、そのときの映像を編集のときに入れたんです。バンド始めたのと撮り始めたのは、同時期ぐらい。ピカチュウがメンバーを集めて結成されて。練習しているときは8人だったのに、ライブのときはなぜか13人に増えていることもある(笑)。毎回ライブによってテーマが違って、将棋やったり、虫歯やったり(笑)。次はナウシカなんですけど。みんなでオウムになって登場します。


── 映像と音楽を同時にやっていて、お互い影響されるところはありますか?

映画によって作り上げるのは架空の世界でも、制作するという過程はこれでもかというぐらい現実的、計画的で、いろんな束縛の固まり。音楽は、その映画でつくった架空の世界に私が乗り込んだような感覚があり、映画で凝り固まった頭脳を解放してくれている気がします。その比率がちょうどいい。音楽は「体」、映画は「頭」な感じがする。

── いま平岡さんが活動されている「マイブラジャーフィルム」とは何でしょうか?

名前だけなんですけど(笑)。監督の宮本杜朗くん(『落書き色町』撮影担当)と2人でつくったんです。作品は個々でつくりながら、お互い手伝ったりとかしています。いま、杜朗くんが『尻舟』という長編新作を完成させました。「オシリペンペンズ」のモタコくんとDODDODOが主演で、和田シンジくんをはじめ、音楽をやっている面白い人たちがたくさん出ています。マイブラジャーの意味はないですけど、おしゃれな名前がいいなぁと!

── 昔と今では変わってきたことはありますか?たとえば、昔撮りたかったものと、いま撮りたいものの違いみたいなものが。

全然違う。いまはほんまに映画を撮りたい。宇宙地図のような映画を撮りたい。映画は無限だ!10代の頃の作品は、撮らないと死んでしまう、撮ることでしか息をできない、と切羽詰まって「友達としての映画」を撮っていたのですが、その状態を経ていまは「映画としての映画」を撮ろうとしています。

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── 今後の活動を教えてください。

実は、20歳くらいからずっと長編作品『秘密基地ロマンチシズム』を撮っていて、まだ完成してないんです。7年かかってます(笑)。あと3割くらい大変な撮影ばかりが残っています。それと同時に、東京コレクションのデザイナー『NOZOMI ISHIGURO』のドキュメンタリーも制作しているところです。

── 10月18日にアップリンクでおこなわれる上映イベントの意気込みをどうぞ。

どんと来い!!!!!!


(取材・文:牧智美/協力:倉持政晴)

■平岡香純PROFILE

1981年生まれ。同志社大学在学中より短編、長編作品を撮り始める。デビュー短編作品『無敵なお年頃』(2001/8mm)、『日の丸』(2001/8mm)、『コノ瞬間、無限。』(2001/8mm+miniDV)でシネトライブ観客賞を受賞し、キリンプラザ大阪、青い部屋、BOX東中野、ロプトプラスワン等で上映。『サイケな夜をあなたと』(渚ようこライブ)(2002/miniDV)、『落書き色町』(2007/miniDV)で調布映画祭2008でグランプリ受賞、世界15ヶ国、40の映画祭で上映された。
マイブラジャーフィルム


『落書き色町』上映会

日時:2008年10月18日(土) 開場19:00/開演19:30
会場:アップリンク・ファクトリー
(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1F)[地図を表示]
料金:1,800円(1ドリンク付)

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