2012-11-22

激化するイスラエルによるガザ攻撃について このエントリーを含むはてなブックマーク 

 イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃が激化していることに対して、パレスチナ人の友人が心を痛めています。一人のアーティストとして現実の政治的問題にコミットすることには抵抗がありますが、その抵抗が考えることからの逃避とイコールであってはならないと思い、自分の経験を主に、まずここに文章を記します。

 正直に書きますが、私自身この問題について、去年の9月まではほとんど何も知りませんでした。知るきっかけを与えてくれたのは、フェイスブック上で親しくなったパレスチナ人の友人が参加を勧めてくれた、パレスチナでの国際的なアーティストワークショップの存在です。
主催のギャラリーは、彼が親しくしているアーティスト有志が集まって始めたという、パレスチナで初めての現代美術に特化したインディペンデントなギャラリーです。

 そのインディペンデントギャラリーですが、今問題になっているガザ地区とは別の、ヨルダン川西岸地区と呼ばれるパレスチナ自治区内のラマッラという都市に位置しています。ヨルダン川西岸地区は、外務省の渡航者に向けた危険情報では「十分注意してください(当時)」となっており、危険度でいえばもっとも低い比較的安全な地域に属します。一方ガザ地区は「退避を勧告します」とされており、危険レベルとしては最も高く、常に退避勧告が発令されている危険地区で、イスラエルによって完全に封鎖されています。
 現在このイスラエルによるガザ攻撃の激化に伴い、外務省は、ヨルダン川西岸地区についても「渡航の延期をお勧めします」と危険レベルを一つ引き上げているようです。つまり、問題はガザ地区に限定されないということです。それは、以下に記すような理由で断念したものの、本来ならばワークショップへの参加を通して関わるはずであった私の問題としても間接的に存在していることを意味します。

 インターナショナル・アーティスト・ワークショップと題されたワークショップは、2009年から毎年行われているものです。 世界各国からアーティストを呼び2週間のキャンプ生活をしながら制作し、最後には街の一般の人々と作品を通じて交流するというものです。これらは非営利かつ非政府の活動であって政治的立場を主張するものではなくあくまでニュートラルに行われています。
 友人の勧めでアプリケーション(参加申し込み)を提出し、選考の後参加できることにはなったのですが、フライトチケットの購入や荷物の準備を済ませてはいたものの、結局私の事前の勉強不足や情報不足、向こう側の事情故か連絡を密にとれなかった等の問題から、出発直前でキャンセルせざるをえませんでした。


 そのときの問題は、大きく分けて以下の3点です。
 第一点目に、基本的に参加アーティストの送迎不可であること。
パレスチナ自治区内のパレスチナ人は、現在もイスラエルが増設を進めているイスラエル領土との境界に設置されたフェンスの外にはどんな理由であれ出れず、よって参加アーティストの送迎は不可能です。ただし、出生した土地がイスラエル領土である場合(おそらく血縁関係上の特例でしょうか)に限り、IDパスを与えられ、自治区とイスラエルの往来を許されるようです。
 ギャラリー/ワークショップ運営側は前者で、私の友人は後者です。友人は私を迎えに来ることができるが、運営側はできません。友人は親切に送迎と、ワークショップ開始までの数日に各都市でのライブ演奏などを企画、予定してくれていたのですが、以上のような事情を知らなかったため、この違いについて大きな不安があり困惑しました。

 第二点目に、ワークショップへの参加はおろかワークショップの存在自体をイスラエル側に口外してはいけないこと。
 非営利かつ非政府的なものであっても、イスラエル側の管理が厳しく、存在が明るみに出るとトラブルに発展しかねないので、口外はしないでほしいと運営側から事前の連絡がありました。

 第三点目に、イスラエルの出入国管理がおそろしく厳しいこと。
目的やどこへ行くのかなどの入国時の質問への応答と、実際にどこへ行ってきたかなどの出国時の質問への応答との整合性を詳細に検証され、それらを証明しなければいけません。

 例えば、観光目的と言って入国し、フェンス内のパレスチナ自治区に入る際の検問で証拠を残されたとすると、出国の際に言動の矛盾が指摘され、結果ワークショップの存在を口外することにつながってしまうのではないかと考え、第二点目と第三点目の両立が不可能に感じたということが最大の不安でした。

 以上の事情から参加を断念しましたが、今でも深い後悔があり、近いうちに必ずアーティストとして訪れ、作品の発表であったり、演奏であったりを行いたいと考えています。

 パレスチナ問題は、近隣のアラブ諸国との関係を含め、非常に込み入った複雑な事情をいくつも抱えた、解決が非常に困難な問題なので、詳細やその是非については付け焼き刃の知識しか持ちあわせていない私の見解の及ぶところではありません。しかし、実際の友人が心を痛めていること、そして彼がそのような連絡をくれたことは事実であり、私の経験を含めると、スポット的に流れるTVニュースよりも、より現実感のある個人的にも理解可能な事柄です。

 彼からの連絡の内容にこの小さな運動への参加の呼びかけがありました。断っておきたいのは、彼は善良で思慮深く決して自身の政治的主張を他人へ強いるタイプの人間ではないということです。そして美術や音楽を何より大切にしています。今回の連絡でも、もし興味があれば程度のとても控えめなあくまで提案でした。もし興味がある方がいらっしゃいましたらご連絡いただければと思います。
http://giss.tv/wiki/index.php/20th_of_January_:_They%27ve_got_a_bomb#..The_call

 私が実際の行動として、このようなことをするかどうかについては、冒頭で書いたようにためらいがあります。ですが、半ば戦時下でありながら前衛的な芸術を強く志す、洗練された深い教養を持ったパレスチナの人々に敬意を表したく、まず文章だけでもと考えこの拙い文章を書いた次第です。

 現地の事情について、私の理解に誤りがあるかもしれません。その場合はどうぞご指摘ください。

キーワード:

パレスチナ / ガザ / イスラエル / 中東


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菊地良博

ゲストブロガー

菊地良博

“宮城県在住 美術家/実験音楽家 ”


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