2012-07-28

ロンドン・オリンピックの開会式、すばらし過ぎ。泣いた。 このエントリーを含むはてなブックマーク 

改めて書いている時間がないのでコピペしときます。元ブログ(本家)こちら。
http://newsfromsw19.seesaa.net/article/283562087.html?1343464680
文末に少々付け足しました。

* * *

時間がないので詳しく書いていられないのがちょ~残念ですけど、昨日の今日で記憶が新しいうちに書いておかないと忘れちまいそうなので覚書として。

ロンドン・オリンピックの開会式がすばらしかった。ダニー・ボイルの演出で、北京にはないものをやる(「金はないけどポップカルチャーの歴史は長い」とか「ばらばらなのは多様性の表れ」みたいな感じ)と聞いてたので少しは期待してたけど、期待をはるかに上回るすばらしさだった。以下、さっき知恵袋に書いた回答を貼付け。

* * *

<ロンドンオリンピックの開会式の演出についてどう思いますか?>

開会式の予算は北京の3分の1とか4分の1とか言われていて、「イギリスは(金じゃない)文化でいく、統一感でなく多様性でいく」とは聞いてましたが、ほんとにすばらしかった。特に、産業革命からNHS(国民健康保険制度)に至る冒頭の1時間は(歌のない)オペラを見ているようで、見逃しがもったいなくてテレビの前から動けませんでした。また、女性選挙権運動の人びとや労働者の台頭、社会福祉などを前面に出した非常にリベラルなストーリーで、いまの保守党政権への強烈な当てつけにもなっていたと思います。

* * *

<開会式の最後、ポール・マッカートニーが登場した場面は、どうでしたか?>

ポール・マッカートニーが出てきたときには「え~、またポールかよ」みたいな感じだったんですけど(こういった大きな催しには必ずかれが呼ばれて歌う、もうあまり声が出ないのに)、会場との合唱になった場面で「あ~、世界の人を相手にこれができるのはビートルズのナンバーしかない、これがやれるのはポールしかいない! ダニー・ボイル(開会式の総監督)はこれがやりたかったんだ~」と思って涙ぐんじゃいましたよ~。特に「はい、次は女性だけ歌って~」とかって仕切ってるとことか良かったです。

* * *

<いまオリンピック開会式を見ていますが、
めちゃくちゃ良すぎませんか!!
感動して涙が出てきた。
こういったパフォーマンスを見て感涙するのは生まれて初めてです。>

その気持ち、共有します。何度も涙ぐみました。

セットの美しさ、音楽の多様さ、演出の楽しさなどエンタテイメントとしてもすばらしかったんですけど、ストーリーと演出全体に流れるリベラルな哲学がすばらしく、イギリス人の多くが開会式を見ながら「これだよ、われわれは」と自信を取り戻したんじゃないだろうかと想像します。

総監督のダニー・ボイルの政治的な姿勢が全体に強く感じられ、そういう箇所に特に感動しました。作業革命以降の労働者の台頭とそれに伴う社会改革、サフラジェッティ(女性の選挙権拡張活動家)、カリブ海からの移民船ウィンドラッシュ号の登場など、イギリスの中学で勉強する基本的な歴史的事実がリアルに視覚化されていて、イギリスの多様な社会をいまある姿にしたのはこうした無名の市民による歴史の積み重ねだったのがよくわかり、各場面で心から感動しました。最後の聖火の入場の際にも、会場作りで働いた労働者がヘルメット姿で迎える場面がありましたよね。

また、グレート・オーモンド・ストリート子ども病院を前面に出したNHS(国民健保制度)の大掛かりな紹介も、福祉予算に大鉈を振るう現キャメロン政権への強烈なカウンターパンチになってましたね。クイーンがカメオ出演どころかちゃんとセリフまで言われたのに(演技もされたのに)びっくりしていたら、そっくりさんがヘリコプターから飛び降りる演出まであって(イギリスの王室はほんとに進歩的!)、ほんとに楽しかった。

五輪旗が人権活動家6人に運ばれての入場という目を見はる演出で、特に指揮者のダニエル・バレンボイムが紹介されたときには(長年のパレスチナ支持者の一人として)感動し、泣きました。バレンボイムは、イスラエルとパレスチナの若い音楽家がいっしょに演奏するオーケストラを結成し、指揮するイスラエルの左派活動家の音楽家で、イスラエル右派にはファシストとラベリングされている人物です。ちょうどいまオリンピックと並行して開催されているプロムス(クラシック音楽を市民に解放するコンサート月間)でベートーベンのシンフォニー全曲を指揮するためにイギリスに滞在しています。

ポップミュージックの選択もかなり強烈で、セックス・ピストルズの「プリティ・ヴェイカント」など椅子から落ちそうなぐらい笑いました。そんなこんなで、いろいろな場面や登場した人物ががなぜ選ばれたかといった背景情報がわかるとなお感動しますよ。背景情報付きのDVDがあったら買います。

* * *

つなぎの映像のすばらしさ(冒頭の60秒カウントダウンでさえ目が離せなかった)、セットや舞台代わりのすばらしさ、中盤のポップミュージックの場面でのニューメディアとの融合のおもしろさ、ミスター・ビーンの遠慮の(あまり)ないお笑い、個人的にはマイク・オールドフィールドの最近の姿が見られたこと(かれのレコードのほとんどを持っているほどのハードコアなファンだったので)や、聖火の入場と点火の演出(歴史は常に積み重ね、伝えられていくこと、社会は一人の力では変わらない、大国も小国も同じ一つの火として世界を作っているという主張がもっとも端的に表れていた)も含め、すみからすみまで「なぜこうなのか」という理由が鮮やかにあり、だからといって説教臭いわけではない立派なエンタテイメントになっていた。『シャロー・グレイブ』を初めて劇場で見たときはもちろん、『トレイン・スポッティング』を見たときでさえ、ダニー・ボイルがここまで来るとは思わなかった。ほんとにたまげた。

* * *

書き忘れがあったので、すっかり忘れちまわないうちに付け足し。

中盤のニューメディアとポップミュージックのミュージカル場面で、家のセットの壁を取り払うとコンピュータをいじる地味なおっさんが出てきた。紹介がなければオタク以外はだれも知らない「ワールドワイドウェブ(www)」の発明者ティム・バーナーズ=リーだ(息子が受験した中学の出身者の一人としてわたしは記憶していた)。かれがその(大金を産む可能性のある)発明を独占せず、最初から世界に向けて公開したからこそ、その後のインターネットの発展があるともいえ、この開会式のメインテーマである「ジェネラシティ」の象徴として登場している(イギリスの国としての「ジェネラシティ」には異論があると思うが)。

もう一つは、開会式の冒頭で少年が独唱した『ジェルサレム(エルサレム)』について。イギリスのナショナル・アンセムは何かとイギリス人に聞くと、右派は『ゴッド・セーブ・ザ・クイーン』と答えるが(たぶん公式にはそうなんだと思う)、左派は『ジェルサレム』と答える。

この曲はウィリアム・ブレークの詩にバリーが曲を付けた聖歌で、第一次大戦の際に戦意高揚のために歌われるようになったという背景がある。とは言え、そのような意図で広めようとした大英帝国政府の思惑とは裏腹に、国民はこの曲を権威や権力に屈しない個人の自由な精神活動の継続を誓う歌ととらえており、そういうリベラルな歌を式の冒頭に置いたことで、このセレモニー全体のトーンを象徴していたと言える。

ちなみに、この曲は、高等文化の象徴でもあるクラシック音楽を安価で、また普段着で聞くために市民に解放されたイベントである毎年恒例の「プロムス」のエンディングでオーディエンスとともに合唱される歌としても有名。

また、「われわれはジェルサレムをこの緑の大地(イギリス)に作る」と歌い上げる歌詞は、ある意味、物理的なエルサレムをパレスチナの地に(暴力を使って)獲得しようとするイスラエルに対する強烈な反語にもなっていると思う。

歌詞が日本語のウィキペディアにあったので貼付けておきます。

「エルサレム」(Jerusalem)

 And did those feet in ancient time,
Walk upon Englands mountains green:
And was the holy Lamb of God,
On Englands pleasant pastures seen!
古代 あの足が
イングランドの山の草地を歩いたというのか
神の聖なる子羊が
イングランドの心地よい牧草地にいたなどと

And did the Countenance Divine,
Shine forth upon our clouded hills?
And was Jerusalem builded here,
Among these dark Satanic Mills?
神々しい顔が
雲に覆われた丘の上で輝き
ここに エルサレムが 建っていたというのか
こんな闇のサタンの工場のあいだに

Bring me my Bow of burning gold:
Bring me my Arrows of desire:
Bring me my Spear: O clouds unfold!
Bring me my Chariot of fire!
ぼくの燃える黄金の弓を
希望の矢を
槍を ぼくに ああ 立ちこめる雲よ 消えろ
炎の戦車を ぼくに与えてくれ

I will not cease from Mental Fight,
Nor shall my Sword sleep in my hand,
精神の闘いから ぼくは一歩も引く気はない
この剣をぼくの手のなかで眠らせてもおかない

Till we have built Jerusalem,
In Englands green and pleasant Land.
ぼくらがエルサレムを打ち建てるまで
イングランドの心地よいみどりの大地に

コメント(0)


藤澤みどり

ゲストブロガー

藤澤みどり

“英国在住の文化ウォッチャー、芸術とお酒と政治好き。ブログ「ロンドンSW19から」http://newsfromsw19.seesaa.net/”


関連骰子の眼

関連日記