2013-11-20

個展のタイトル「倫理的不協和」について このエントリーを含むはてなブックマーク 

 前回の日記で、今回香港のギャラリーAISHONANZUKAで行った個展のタイトル「Ethical Split / Aesthetic Void」(和訳は「倫理的不協和 / 審美的空洞」)というタイトルの意味については、次回書くと書いたので、今回は、「倫理的不協和」の方についてだけ少しだけ詳しく書こうと思います。

 今回展示した作品は2種類あって、1つは「Painted Negativity」というシリーズの最新バージョン、もう1つは「Multinegation (irreflexive)」という新たなシリーズです。

 「Ethical Split (倫理的不協和)」というのは、前者のPainted Negativityの方を示しています。
 Painted Negativityは、言語学や記号論の初歩的な理論にヒントを得て、というか、そのアナロジーとして制作しているシリーズです。これは、任意の画像データを異なる条件下でプリントし、その異なる結果を互いに強調し合う、互いに定義し合うことを目的としたものです。それはつまり、"任意の言語が持つ価値体系内にある任意の概念は、それ1つだけでは価値を持つことはあり得ず、対立する概念との互いの否定作用の中で初めて自らの価値=意味を定義することが可能になる"という記号論上の初歩理論のアナロジーです。

 今回はその任意の画像の素材として、ポルノグラフィーを使用しました。15年程前の海外の雑誌で、ぼかしがないものです。その雑誌をスキャンした後、女性の局部を中心にモザイク処理を施して、それらがポルノグラフィであるかどうかの判別がかろうじてつかないような加工、具体的には、局部以外を隠しわずかな装飾を与える目的で、新たな色面を加えました。それはつまり、次のような意図からです。 "視覚的な美しさにフォーカスする場合には美しく感じるが、それらの対象が女性器であれば、鑑賞者の美醜を峻別する審美的な基準≒倫理的整合性に不協和を生じさせることができる"。

 これが「倫理的不協和」の意味するところです。

 ではなぜ、ポルノグラフィーを使い「倫理的不協和」を生じさせるのかということについて、また、なぜ言語学などを参照するのかという点については、また次回以降書くことにします。

 画像は今回制作した11点のうち1つに使用された、上記の方法で加工した元画像です。これが一番分かりやすいはず。

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菊地良博

ゲストブロガー

菊地良博

“宮城県在住 美術家/実験音楽家 ”


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