骰子の眼

cinema

東京都 中野区

2010-08-31 15:21


ありし日の香港映画の良いエッセンスだけを取り出した様な等身大のコメディ。『ゴーストキス』『making of LOVE』クロスレビュー

異才、奇才と呼ばれる映画作家たちが自分たちの個性を爆発させた映像を繰り出す「青春H」シリーズ第一弾。
ありし日の香港映画の良いエッセンスだけを取り出した様な等身大のコメディ。『ゴーストキス』『making of LOVE』クロスレビュー
『making of LOVE』© 2010 アートポート

かつて昭和という時代には日活ロマンポルノが存在した。1960年代後半から観客動員の減少等によって映画制作が困難になった日活が成人映画を主体に変更し、低予算で利益が上がる新たなジャンルとして誕生。数々の女優、監督達を生んだのはあまりにも有名であり、今年22年ぶりに復活し、時代、人物設定を新たに製作されたのも映画ファンなら記憶に新しい所だろう。当時の日活ロマンポルノにおいて何より注目したいのは「監督自身の作家性が遺憾なく発揮されたこと」だ。女優の裸さえ出ていればストーリー、演出等、自由に制作できたその作品群には、その時代をまるごと刻印するパワーが存在したのである。

製作委員会やプロデューサーの意向が尊重され、作家性を打ち出す作品が少なくなってきた昨今、「“青春”と“H”をテーマに据えれば何でもOK」というルールのなか、異才、奇才と呼ばれる映画作家たちが自分たちの個性を爆発させた映像を繰り出す「青春H」シリーズが上映される。出演する女優たちは現役バリバリのグラビアアイドルであり、大胆な濡れ場に果敢に挑戦し監督達に挑んでいく。日活ロマンポルノの復興とまではいわないが、グラビア女優の裸を借りながら、様々な監督自身の作家性が遺憾なく発揮されるという点において、少なくともその時代をまるごと刻印するパワーをシリーズ作品中に期待してしまう。そんな「青春H」シリーズ第一弾が、ピンク映画出身のいまおか しんじ監督の『ゴーストキス』と黒沢清監督『ドッペルゲンガー』等の脚本を手がけた古澤健監督の『making of LOVE』である。

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『ゴーストキス』© 2010 アートポート

仕事から帰宅したキャバクラ嬢の康子(春野さくら)をある日突然地震が襲う。何故かトイレのなかから現れる女子高生のぞみ(白井みなみ)と愉快なその仲間達。彼女たちは「あっち」と「こっち」という言葉を盛んに連発し、康子を混乱させる。康子と彼氏の修一(豊川智大)のセックスにまでちょっかいを出すのぞみ。だが、何故か修一にはその姿は見えない。よくよく話を聞いてみると、彼等は幽霊なのだった・・・。

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『ゴーストキス』© 2010 アートポート

映画はマンションの一室のみで展開され、場面的に大きな転換はほぼ無く、ストーリー的にも人間の果たされなかった想いを生きている人間が遂げようとするオーソドックスすぎる展開である。だがそこを幽霊たちの存在が見えるかどうかの設定と、春野さくらの体を張った思い切りのいいそのアクション、そしてセーラー服を着た幽霊仲間たちの愉快なキャラとほのぼのとした会話によってうまく補っている。キャバクラ嬢の康子役の春野さくらの投げやりで勢いのある演技と、女子高生のぞみ役の白井みなみによるあくまでピュアな演技の対比させた演出も光る。

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『ゴーストキス』© 2010 アートポート

一方、『making of LOVE』はドキュメンタリーの手法を取り入れたまったくタイプの違う作品である。

監督のフルサワ(古澤健)は、翔太(川上洋一郎)たちスタッフと共に自主映画の制作を開始。撮影中に見かけた女性・ゆかり(藤代さや)に接近し、映画に起用しようとする。ビデオカメラを手に様々な男達との関わりを記録しているゆかり。彼女を調べていくに従って、驚くべき事実が明らかになっていく。

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『making of LOVE』© 2010 アートポート

ドキュメンタリーとフィクションが幾重にも絡まり合い進んでいくその巧みなストーリー展開と構成に驚く。今目の前で展開されているのがドキュメンタリーなのかフィクションなのかわからなくなってしまうのだ。周りに煙たがれながらもしつこく自分の求める映画を追っていく監督役古澤健のナチュラルな演技と、藤代さや演じるゆかりの透き通った存在感も不思議と吸引力がある。

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『making of LOVE』© 2010 アートポート

終盤、主人公のゆかりの新たな事実が明らかにされる。それは笑ってしまうくらいの、いわばB級的なフィクションだが、前半からのドキュメンタリーという手法との対比がまた面白い。事実、虚像、映画に対する異常なまでの執着と愛、そのすべてを使って観客を作品に力づくで巻き込んでいく古澤健監督のその手腕は見事だ。

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『making of LOVE』© 2010 アートポート

『ゴーストキス』『making of LOVE』ともに監督自身の作家性が隅から隅まで存分に垣間見える作品だ。グラビアアイドルたちの濡れ場のみがきっかけだった人でさえ、映画自体に引き込まれるはずのこの作品を、自分の目で確かめてみるべきだ。



『ゴーストキス』

監督・脚本・編集:いまおかしんじ
出演:春野さくら/白井みなみ/豊川智大/深谷京佑/姑山武司/林下友昭/茅野雅生/鈴木拓也

製作:松下順一
企画:木谷祐介 高崎正年
プロデューサー:小貫英樹
音楽:金山健太郎
撮影:佐久間栄一
制作プロダクション:東京レイダース
製作:アートポート



『making of LOVE』

原案・脚本・編集・出演・監督:古澤健
出演:藤代さや/川上洋一郎/佐伯奈々

製作:松下順一
企画:木谷祐介 高崎正年
プロデューサー:小貫英樹
音楽:宇波拓
撮影:山田達也
制作プロダクション:東京レイダース
製作:アートポート



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<料金>
当日:一般・大・専 ¥1,300 シニア ¥1,000
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