骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2012-07-24 15:06


電気によって夜を征服した人間はどこへ向かうのか

まるで監視カメラのレンズ越しに見ているような世界『眠れぬ夜の仕事図鑑』クロスレビュー
電気によって夜を征服した人間はどこへ向かうのか
映画『眠れぬ夜の仕事図鑑』より (C)2011 Nikolaus Geyrhalter Filmproduktion GmbH

私たちが口にする食料がどのような過程を経て食卓に届けられるのか、その一部始終を描き話題を呼んだ『いのちの食べかた』、そしてチェルノブイリ原発事故から12年後の近隣の村に生きる人々を捉え、今年日本公開された『プリピャチ』のニコラウス・ゲイハルター監督が今回モチーフにしたのは〈夜〉と〈夜に活動する人々〉。ナレーションや音楽を廃する自身のスタイルにより、世界各国の夜の風景を冷徹に切り取っている。スロバキアの国境付近で暗視スコープのついたカメラで巡回する警備隊。オーストリアの新生児医師。ベルギーの会議室で議論を続ける議員。ドイツはミュンヘンのオクトーバーフェスで猛烈な人ごみをかき分けてサービスするホール係。チェコ・プラハの淫猥な売春宿で客を相手にする風俗嬢。静まりかえったフランクフルト国際空港を清掃する掃除人。そしてオランダの巨大ダンスイベント「Qlimax」で大観衆を踊らせるDJ……。

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映画『眠れぬ夜の仕事図鑑』より (C)2011 Nikolaus Geyrhalter Filmproduktion GmbH

そのほかにも様々な職業の人物が登場、昼間の生活では出会うことのない人々の働きぶりが淡々と映しだされていく様は、どことなく滑稽でさえある。夜に生きる人々の生態を整然と構成することにより、ゲイハルター監督は「越えられない電気のフェンスに囲まれている楽園」であるという21世紀前半のヨーロッパを、管理社会や消費文化といった大きなテーマとともに浮かび上がらせる。新作『Some Day』は、長崎は軍艦島でも撮影が敢行されたということだが、ミニマルな手法を貫いて〈人間〉と〈技術〉と〈自然〉の関係を探り続けるゲイハルター監督の今後に注目したい。

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映画『眠れぬ夜の仕事図鑑』より (C)2011 Nikolaus Geyrhalter Filmproduktion GmbH



映画『眠れぬ夜の仕事図鑑』
7月28日(土)よりシアター・イメージフォーラム他全国順次ロードショー

監督・撮影:ニコラウス・ゲイハルター
編集:ウォルフガング・ヴィダーホーファー
リサーチ:マリア・アラモフスキー、ルーシー・アシュトン
字幕翻訳:西村美須寿
提供:新日本映画社
配給・宣伝:エスパース・サロウ
後援:オーストリア大使館/オーストリア文化フォーラム
2011年/オーストリア/94分/デジタル/1:1.78/原題:Abendland(西洋、日の沈む土地)

公式サイト:http://nemurenuyoru.com




▼『眠れぬ夜の仕事図鑑』予告編



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