骰子の眼

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東京都 ------

2010-01-11 19:20


[BOOK] 「単なる思考ゲームではないアクチュアルな批評的態度と作法の裏打ちがある」─原 雅明『音楽から解き放たれるために』クロスレビュー

〈音楽をリサイクルすること〉を言葉で実践してきたアクティビストが提示する新たな論考集。
[BOOK] 「単なる思考ゲームではないアクチュアルな批評的態度と作法の裏打ちがある」─原 雅明『音楽から解き放たれるために』クロスレビュー

原雅明氏の新刊『音楽から解き放たれるために──21世紀のサウンド・リサイクル』はまず、現在の音楽の現場におけるミュージシャンとリスナーとの信頼関係に分け入るどうしようもない亀裂から話題をスタートさせる。2000年代にダウンロードや制作側のテクノロジーの進化により起こった音楽を取り巻く状況の変化やパーティーの変容。原氏は雑誌への寄稿やフロアやショップからのダイレクトなレポートを通してインディペンデントであることの難しさや、マーケット優先のシーンへの警鐘、そして地下層での新しい音が生まれる予兆を決して悲観的でなく捉え続けてきた。折りに触れ音楽についての文章を書くことの難しさを吐露しながら、時にはそこで紹介されるCD以上に雄弁に音楽の楽しさと可能性を伝える彼の筆致は、冷徹な分析そして膨大かつ体系的な知識をおしげもなく盛り込みながら、決してマニアックに閉じようとしない。本著でも一般的に原氏の得意分野とされる音響作品やヒップホップについての真摯な語り口の素晴らしさは言わずもがなだが、後半のディスクガイドに収められているくるりの『ワルツを踊れ』をサヴァス&サヴァラスと比較しながら「ディアスボラ的ポップ・アルバム」とするような視点は、レコード会社の出稿費が頼りの現在の日本の音楽雑誌ではなかなかお目にかかれるものではない。こうした行為を続けることこそが、この本に通底して語られる「音楽をリサイクルすること」の有効性とも繋がるのではないだろうか。そして、だからこそ次は原氏がばっさりとJポップを斬り伏せていく評論集というのも読んでみたい気がするのだ。


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原 雅明 プロフィール

ライター、レーベル・マネージャー(corde.co.jp)、時々DJ。ヒップホップ、ジャズ、エレクトロニック・ミュージック等のアンダーグラウンド音楽シーンの紹介にたずさわり、『サウンド&レコーディング・マガジン』『ミュージック・マガジン』『スタジオ・ボイス』等々、さまざまな雑誌に寄稿。90年代中盤から10年余りの間、インディペンデント・レーベル〈soup-disk〉を、2005年からは〈disques corde〉としてレーベル運営をするほか、海外アーティストの招聘、イヴェント企画も行なう。近年はアメリカ西海岸、LAの音楽シーンの紹介に力を注ぐ。現在は、LAのネットラジオ局DublabCreative Commonsによるアートプロジェクト〈INTO INFINITY〉の日本でのプロデュースを担当。


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原雅明
『音楽から解き放たれるために──
21世紀のサウンド・リサイクル』

ISBN:978-4-8459-0939-1
定価:1,995円
仕様:四六判変形/336ページ
発行:フィルムアート社


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レビュー(3)


  • yanozさんのレビュー   2010-01-06 15:45

    出会いの作法に貫かれた本

    往年のジャズドラムの巨匠マックス・ローチが、80年代末にヒップホップを擁護した発言を引用しつつ、そこから原雅明は「サウンド」という言葉を拾い上げる。「音楽」からすれば素材の水準にあるサウンドは、ジャンルの枠組みを超えてマテリアルな次元に広がっている。...  続きを読む

  • saitochinさんのレビュー   2010-01-08 14:44

    音楽再生のキーワード「サウンド・リサイクル」

    本書は,音楽ライター,編集者,レーベル・マネジャー等と多岐にわたって音楽の現場で活躍し,数々の重要なアクションを起こしてきた原雅明氏による著書。 原雅明氏のアクションは,現場の感覚に根ざした明確なコンセプトを持っている。 L.Aアートシー...  続きを読む

  • 0bserverさんのレビュー   2010-01-10 18:20

    再び、音楽という大きなサイクルを描くために

     西海岸での写真だろうか。まとわりつくような湿気を微塵も感じさせない空と、その下に放置された外側にペイントが施されたベッドの木枠。その景色とコントラストをなすように植物の陰に覆われた場所からのぞくのは、何の変哲もない男女の日常のひとコマ。本書で語られ...  続きを読む

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