骰子の眼

cinema

東京都 港区

2010-11-04 11:40


[CINEMA]「人間の本質である、社会の制度や仕組みには収まりきれない自由や業。そこに愛が生まれる」『スプリング・フィーバー』クロスレビュー

愛を得た瞬間から、愛することに束縛されていく矛盾。本当の愛を求めて彷徨う様は、あまりにも苦しく、哀しい。
[CINEMA]「人間の本質である、社会の制度や仕組みには収まりきれない自由や業。そこに愛が生まれる」『スプリング・フィーバー』クロスレビュー
映画『スプリング・フィーバー』より、リー・ジン役のタン・ジュオ(右)

現代の南京を舞台にした若者たちの心の彷徨い。監督ロウ・イエは衝動的な欲望の発露と孤独を抱えながらそれでも他者を求めずにはいられない渇きを生々しく描くことに成功している。デラシネ的とも言える青年ジャンを中心にした人間関係を群像劇としてまとめあげたメイ・フォンの脚本の筆致にはよどみがない。今作でカンヌ国際映画祭の脚本賞を受賞したのもむべなるかな。『パープル・バタフライ』で脚本顧問担当、『天安門、恋人たち』で共同脚本を手がけるなど。これまでもロウ・イエ監督の作品を世界観をともに作り上げてきた彼ならではの完成度の高い物語となっている。

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映画『スプリング・フィーバー』より、ルオ役のチェン・スーチョン

また、家庭用のビデオカメラによる撮影は、自然な役者の演技を引き出し、生活に入り込んだ視点でこの物語を捉えることに大きな貢献を果たしている。人間の存在のあやうさをその美しくもうつろな表情で表現したジャン役のチン・ハオの他にも、尾行する存在のジャンに急速に惹かれていく探偵ルオを演じたチェン・スーチョン、そしてイノセンスを感じさせる表情が印象的なルオの恋人リー・ジン役のタン・ジュオなど俳優陣も秀逸。5年間の映画製作禁止を顧みず撮影にこぎつけたロウ・イエの気骨に応え、登場人物の感情の機微を見事に紡ぎ出している。

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映画『スプリング・フィーバー』より、ジャンを演じたチン・ハオ

中国の作家、郁達夫の『春風沈酔の夜』をストーリーのなかで重要な役割に当てていることも、今作の〈政治的でないが故の政治性〉を補完している。ラストシーンのなんとも言いようのない寂寞には、人を愛するためには孤独を引き受けなければならないことと痛切に感じるとともに、現代において真の意味で「純粋なラブストーリー」を創造するのであれば、必然的に政治や社会と向かい合わなければならない、というロウ・イエのメッセージが静かに立ち現れている。

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映画『スプリング・フィーバー』
2010年11月6日(土)より、渋谷シネマライズほか、全国順次公開

初日プレゼント
11月6日(土)初日ご来場のお客様に抽選で、中国への往復航空券やロウ・イエ監督の『ふたりの人魚』DVD、カフェ・レストラン「タベラ」の半額割引券が当たります。

プレゼント詳細

(1)その場で当たる!
カフェ・レストラン「タベラ」の半額割引券を各回50名様にプレゼント。
上映終了後に劇場前で当選発表します。
※引き替えには座席指定の鑑賞券が必要です。
(2)抽選で、中国への往復航空券、『ふたりの人魚』DVDが当たる!
初日にご覧になったお客様から抽選でプレゼントいたします。
●北京または上海への往復航空券を1名様
●ロウ・イエ監督作『ふたりの人魚』DVDを10名様
※応募方法:シネマライズに設置してある応募用紙に必要事項を記入の上、応募BOXに投函してください。
※尚、当選は発送をもってかえさせて頂きます。
※空港使用料、出入国税、燃油サーチャージの合計金額約1万円はご当選者様のご負担となりますことを予めご了承ください。
(協賛:IACETRAVEL)

【STORY】
現代の南京。女性教師リン・シュエは、夫ワン・ピンが浮気をしているのではないかと疑い、その調査を探偵ルオ・ハイタオに依頼する。尾行の結果、夫の浮気相手はジャン・チョンという“青年”であった。
尾行されていることに気づいていない夫ワンは、妻にジャンを"同級生"だと紹介する。妻に、ジャンを家族のように見てくれれば便利だと考えたからだ。しかし、ある出来事をきっかけに夫婦関係は破綻し、ジャンの心は、ワンから離れていってしまう。
一方、尾行するうちにジャンのことが気になり始めた探偵のルオは、ジャンに近づく。次第に惹かれあうふたり。しかし、ルオにはリー・ジンという恋人がいた。
ジャン、ルオ、リー・ジン。それぞれの想いを胸に、奇妙な三人の旅が始まった……。

第62回カンヌ国際映画祭脚本賞受賞
監督:ロウ・イエ
出演:チン・ハオ、チェン・スーチョン、タン・ジュオ、ウー・ウェイ、ジャン・ジャーチー、チャン・ソンウェン
脚本:メイ・フォン
プロデューサー:ナイ・アン、シルヴァン・ブリュシュテイン
撮影:ツアン・チアン
美術:ポン・シャオイン
編集:ロビン・ウェン、ツアン・チアン、フローレンス・ブレッソン
音楽:ペイマン・ヤズダニアン
製作:ドリーム・ファクトリー
ロゼム・フィルムズ
配給・宣伝:アップリンク
中=仏 / 115分 / 2009年 / カラー
公式サイト
公式twitter


レビュー(8)


コメント(1)


  • 坪井野球   2011-01-04 03:01

    こんばんは。
    クロスレビューとしての投稿には失敗してしまいましたが、下記URLにレビューを書きましたので、ご覧頂けるとさいわいです。

    『スプリング・フィーバー』レビュー (前篇)「細部とモチーフ」
    http://www.webdice.jp/diary/detail/5128/