骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2009-11-11 21:00


「痩せた風貌、鋭い眼光、物憂げな表情…悲しいくらい亮に成りきっていた小林優斗君に拍手!」─『ワカラナイ』クロスレビュー
(C)MONKEY TOWN PRODUCTIONS

小林政広監督の現代社会を捉える鋭利な眼差しは、『バッシング』(2005年)『愛の予感』(2007年)に続く今作において、頂点に達しているようだ。『ワカラナイ』は小林監督の得意とする、ギリギリまで削られた台詞、移動し続けるカメラ、スクリーンから湿度さえ伝わってくるような色彩感により、17歳の少年・亮に訪れた悲劇を淡々と追いかけている。  実際、今作においてカメラは、どこまでも歩き続ける亮の後ろを執拗なまでに追いかけていく。コンビニの袋を下げて、電気の止められた家へ戻る背中。病院から母親を担ぎ出し、湖までの道を歩いていく背中。そして別れた父のもとへようやくたどり着いた際に知る現実に打たれ、坂道をとぼとぼと降りる背中。子供と大人の境目にあたる成長の途中のいびつさを伝える背後からでも悲しみが伝わってくるような亮を演じるのは小林優斗。これが初主演作とは思えない演技を見せている。

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(C)MONKEY TOWN PRODUCTIONS

今作の唯一の音楽となる楽曲、いとうたかおによる「BOY」は、今作の世界観を象徴している。シンプルだけれど凛としたアコースティック・ギターの響き、そして五里霧中のその先へ進む少年の背中を後押しするような歌詞。『ワカラナイ』はオープニングそしてエンディングに流れるこの曲以外は、我々の暮らしのなかにある音がバックグラウンドに流れる。うっそうと茂る森に響き渡る鳥の声、コンビニの前の国道を走る車のノイズ、無数に光るネオンサインと行き交う人々が織りなす東京の街の喧噪。そうした生活の音は、まるで主人公・亮の心情と運命を伝えるかのように現れては消えていく。  極めて詩的な美しさを持つ映像と、まるで観客がひとりで取り残されてしまったような感覚を与えるサウンド、そして若者の貧困と周囲との関係の薄さが有むのっぴきならない状況を極めたストーリー。そうしたものが収斂したラストシーンが訪れるとき、観客は小林監督からの切実なメッセージを受け取ることになる。

[文:駒井憲嗣]

【関連リンク】
小林政広監督 webDICEインタビュー「観た人を揺さぶりたい」(2009.9.30)

現代日本の〈人間関係のない貧困〉を捉えた映画『ワカラナイ』を高校生たちはどう観たのか(2009.11.11)




映画『ワカラナイ』

11月14日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷、11月28日(土)より新宿バルト9にてロードショー
監督・脚本:小林政広
プロデューサー:小林政広
製作:モンキータウンプロダクション
出演:小林優斗 柄本時生 田中隆三 渡辺真起子 江口千夏 宮田早苗 角替和枝 清田正浩 小澤征悦 小林政広 横山めぐみ ベンガル
配給:ティジョイ
宣伝:アップリンク
2008年/日本/104分
公式サイト


レビュー(7)


  • aki38さんのレビュー   2009-10-30 11:06

    「ワカラナイ」を観て

    今回、小林政弘監督の「ワカラナイ」を観てきました。 主人公の少年「亮」は、母親を病気で亡くし、医療費も葬儀代も払えず、そして自分自身が食べる事さえ困難な貧困の中を生きていくしかない現実と向き合う少年をドキュメンタリーのように撮っているよにさえ思えた...  続きを読む

  • kikoさんのレビュー   2009-10-31 22:11

    ワカラナイ

    東映試写室で観賞。 冒頭5分は音声だけの画面なし。まだ未完成だとは思いましたが、なにやら ・・・不思議な感じでした。 2005年カンヌ国際映画祭正式招待作品「バッシング」、2007年ロカルノ国際映画祭グランプリ賞「愛の予感」...  続きを読む

  • momotimuさんのレビュー   2009-10-31 23:07

    ワカラナイ

    小林政広監督の新作「ワカラナイ」を観る。またしても小林ワールドに背中からバッサリ斬られた感覚だ。主人公の高校生亮は病気の母親(恐らく末期ガンと思われるが)を抱え父親は早くに家を捨てコンビ二バイトで生計を立てる日々を過ごす。治療費、家賃、光熱費に追われ...  続きを読む

  • kerakutenさんのレビュー   2009-11-01 02:20

    私もワカラナイ

    あのトリュフォーの「大人は判ってくれない」の日本版ともいえる作品ですから、 周囲の大人たちから信用されず、だんだん見放されていく少年の深い悲しみが胸をつきます。 ひねくれているとか、荒れているとかではなくて、 理解してもらえない少年が、ただ一人...  続きを読む

  • makotoさんのレビュー   2009-11-04 05:18

    彼の祈りは届かない

    最初の5分のシーンは観てる人にそれぞれの17歳の頃の闇を思い浮かべさせる画期的シーンなのかも。 信じられないような現実を撮ったドキュメントというのが時折あるけど この映画は今この瞬間にも、身近に起こっていそうな出来事を写したドキュメンタリーのよう...  続きを読む

  • ぱぱちょんさんのレビュー   2009-11-04 16:53

    少年はどこへ

    小林監督の「大人は判ってくれない」・・・映画を観ていて思い出したのはトリュフォーよりは(少年への尋問シーンは「大人は判ってくれない」へのオマージュであろうが)、 ダルテンヌ兄弟に近い感覚。描写は飾り気を廃し、少年の行動を見つめる、あるいは少年と一緒...  続きを読む

  • michiさんのレビュー   2009-11-05 03:23

    少年はどうするのか。。。

     17歳の少年・亮が“普通”に生きることが難しい社会。 今の日本だったら、現実になってもおかしくないような八方塞の物語に、 リアリティを感じました。 特に、刑事の木村役のベンガルが亮を問いただすシーンは 日本社会をわかりやすく表していたと思い...  続きを読む

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